Devil†Story

「ん?」


コンコンと窓ガラスに何かが当たっている音に俺は気付いて外を見た。


そこには赤いリボンを付けた蝙蝠が何かを加えて羽ばたいていた。


吸血鬼は蝙蝠を使役している。


一族ごとにわからなくならないよう印をつけていた。


赤いリボンを付けているということはクローディアの家の蝙蝠か。


窓を開けて中に招き入れると俺の周りを飛び回り始めた。


この動きにも意味があり、俺ではなく他の家族に用事があるということだ。


そうなると父さんってことになるだろうな。


「父さん」


リビングでエリザベスと遊んでいた父さんは俺の声に気付いてこちらに来る。


この時の俺はまだガキだったから「折角名の高い吸血鬼なのだからそれらしく振る舞えばいいのに」と思っていた。


狩りの姿も見たことはあるが、それは父親としてだ。


父さんのそのものではない。


それ以外ではまるで人間の親のようにしている。


それはそれで幸せであるとは身をもって知っているが…なんとなく悔しかった。


村人にヒソヒソされている父さんを見るのは。


そんな事を考えている間に父さんは「どうした?」と声をかけながら目の前までやってきた。


俺は「手紙来てるよ。父さん宛に」と指を上に上げる。


父さんが来ると案の定父さんの肩に止まって咥えていた手紙を離した。


父さんは「ご苦労様」と一言蝙蝠に伝えると手紙の中身を確認し始めた。


俺はいつもならそのまま立ち去るのだが、この時は何となく父さんを見ていた。


もしかすると手紙を開けた瞬間の父さんの表情や、蝙蝠が来た時に微かにした血の匂いのせいかもしれないと後になって思い返す。


手紙を目で追う父の表情はどんどんと険しくなってくる。


読み終わった父さんは蝙蝠に「…よく来てくれた」と労わると自室に向かって行こうと身を翻した。


「父さん?…なんかあった?」


慌てて追いかけると父さんは早口で答えた。



「……ルイ達が人間達に襲われているようだ」



「え…?」


自室に行ってコートを取った父は母の元に向かって行った。


この頃には以前のような魔界と下界が密に重なり合っていた世界ではなかったが、下界の歴史は浅く…昔の記憶がかすかに残っているのか魔物がいると言う風潮が残っていた。


実際にはただの災害だったりするのだが、それにまだ気付いていない人類が魔物のせいと信ぜざる終えない状況にまで追い込まれていた。


たしかにそれに乗り吸血鬼達は決められた時にだけ狩りを行なっていた。


現魔王及び神の命令で人間達には見つからないように。


人間と干渉するのは最低限にするように新たなルールを決めたのだ。


その時にきっとルイさん…クローディアの父と母のアンナさんは見つかってしまったのだろう。


「でも!狩りは単体では行わないはずだろ?なんでそこだけ襲われてんの?」


ヤナが問うと父は更に表情を険しくさせた。


「……どうやら他の奴らは逃げてしまったようだ。2人が…いや子も連れて行った3人を足手まといだと思ったのだろう」


「って事は……」


「…あぁ。クローディアちゃんも逃げ回っている」


怒っているのか父は声を低く…静かにそう答えた。