「調子どう?まぁ、よくはないだろうけど」
そう言って近くの椅子に座る。
「…うん。見たままだよ…」
「ずいぶん痩せたな。顔色も悪いし目の下に隈もできてる。飯食べねぇの?」
「…なんか食べたくないし……寝ると悪夢しか見ないから…」
いつもよりハッキリそう言う稀琉に驚いた。
機嫌が悪いと言うか……ヤケになってる感じだな。まぁ…俺が扉の側に立ってたのにそのまま怒って気づかずに歩いて行ったクロムの様子からして…喧嘩したんだろうけど。
「さっきクロムとすれ違ったんだけど…なんか怒ってたけど…あいつなんか失礼なこと言った?」
「……ううん。いや正直に言えば…ムッてきたけど…寧ろオレが謝らなきゃいけないんだ。…クロムに大切な人なんていないなんて言っちゃったから……」
「…!」
なるほど……。そらあんな風に怒る訳だな。あのイライラしてた様子から…怒鳴ったんだろうけど。いつものあいつなら稀琉の様子見て言うのを抑えられたんだろうが…イライラに任せて言ったんだろうな。
「稀琉はなんて言われたの?」
ロスの問いに稀琉はバツが悪そうにしながらも先程のやり取りを伝えた。
「…あー。それならお互い様だなー」
とりあえず中立的立場であることを示すためにそう答える。しかし稀琉の表情は浮かないままであった。
「……そうかな。確かにムッと来たけど…オレが悪いんだよ。クロムは……間違ったこと言ってないもん」
その浮かない顔を見て静かに溜め息をつく。…また悪魔の俺に光を求めるかね。全く…ほんと俺も甘くなったもんだ。そう思いながらロスは言葉を紡いでいった。
「ほんとにそー?」
「え……」
クロムとは少し違う紅い瞳がこちらを捉える。相変わらずその目はクロムよりも紅く黒い闇が覆っている。
「…なぁ稀琉。たしかに俺も足洗ってもいいんじゃないかなって思う部分があるよ。だってお兄さんも言ってたけど…稀琉は優しすぎるくらい優しいから。でもそれって弱いってことかな。俺はそれも強さだと思うよ」
「……」
オレが強い…?そんなわけない……だったらなんで…。
「優しい…というか他者の痛みまで考え過ぎなくらい感じられるなんて…そうそうない。そもそもみんな出来てたら…この世に争いなんて生まれないでしょ。だから弱いんじゃない。沢山のことを感じられるから…同じ許容量だとしてもすぐいっぱいになるだけだろ?」
「……!」
ぎゅっと胸元を握りしめる。確かに…今まで自分がというよりは……人のことばかり考えてきた。その方がいいと思ったから。でもこの間クロムに言われた通り…それは自分の願いでもあったんだ。それを言われてオレ自身…結局何がしたいのか分からなくなった。…というか元々分からない。自分のことはつくづく理解できていなかった。
…オレは心の底では何を考えてるんだろうか。
「…多分稀琉がふつーの人間だったら……理性なんてとうに飛んでたと思うよ。それがどうして今まで狂わないでこれたと思う?」
「え…?」
突然の問いに戸惑いながら再びロスを見る。
先程のようにまっすぐと稀琉を見ていたロスは静かにこう答えた。
「…稀琉が嫌がっている青鬼のお陰だよ」
「!」
どういうことか分からない稀琉にそのままロスは続ける。
「思い出してみなよ。青鬼が出てくるとき…稀琉はどんな状態だった?」
「あ……」
思い返せばどちらも稀琉の心の許容量を超えかけたときだった。1回目は両親が殺され、兄に殺されかけたとき。2回目は自分のせいで麗弥が殺されかけたとき。
その時の心境の全てを思い出せるわけではないが、それでも頭が真っ白になる寸前であった。
「ま…さか……」
青鬼の出現条件が分かった稀琉にそのままロスは「そう。全ては稀琉を守るためだよ」と明白な答えを述べた。
「なんで……」
「それは俺にも分からないけど…少なくとも憑依した青鬼の姿を見てそう思ったよ。聞きたかったら…直接聞いて見たら少しは気持ちが落ち着くんじゃない?」
「え…でもどうやって……」
どうすればいいか分からない稀琉の胸に手を当てて「…答えは稀琉自身が知ってるはずだ。ここによく聞いて見たらいい」と微笑みながら言った。
「……」
「心通というのかな。何度か入れ替わったのなら…青鬼がいる場所は分かるはずだよ」
そこまでいうとロスは立ち上がった。
「俺が言いたいのはそれだけ。じゃあ戻ってクロちゃんのご機嫌取りをしてくるよ。あいついじけると面倒だからさー」
「あ…ロス…オレ……」
「ん?」
ニコリといつも通り接してくれるロスに救われた気がする。
「……ありがと。クロム…許してくれるかな…?」
「いーえー。クロムは…まぁ暫くすれば何事もなかったかのようにあの仏頂面になってるよ」
「そうかな…」
「意外とあいつ水に流せるやつだから」
その言葉に少しだけ安心したかのように稀琉は微笑んだ。
「じゃっ後は稀琉自身で決めなよ。無理はせずにね〜♩」と手をひらひらさせて部屋から出て行った。
部屋には沈黙が戻ってきた。
「心通…か」
ーもう解決したんだろ?ー
先程にクロムの言葉に稀琉は首を横に振る。
「…ううん。まだだ…結局オレはオレ自身について…何も分かってない。だから……」
今度こそきちんと向き合おう。オレの中に眠るこの人と。稀琉は大きく深呼吸をすると目を瞑った。
「さーて…稀琉の方はこれでいいとして…クロムはどーするかなー」
廊下を歩いてたロスはボソッと呟く。
「……今回の事で色々思い返して余裕があるわけじゃねぇだろうしな。それに……」
コートのポケットに入れっぱなしにしてたあの写真を取り出して見る。
「…これ見てから寝てる時に少しうなされてるし……見た瞬間のこいつ……俺には吐きそうに見えた」
怪我で元々顔色が悪かったがその写真を見たクロムの顔は…それ以上に青ざめていた。
本人はそういった弱いと言われる部分を出すのを凄く嫌っているので気づいてないだろうけど…。
「さて……少し慎重にならんとな」
鋭い目が虚空を見据えた。その目はまだ見ない写真の持ち主を捉えているように見えた。
そう言って近くの椅子に座る。
「…うん。見たままだよ…」
「ずいぶん痩せたな。顔色も悪いし目の下に隈もできてる。飯食べねぇの?」
「…なんか食べたくないし……寝ると悪夢しか見ないから…」
いつもよりハッキリそう言う稀琉に驚いた。
機嫌が悪いと言うか……ヤケになってる感じだな。まぁ…俺が扉の側に立ってたのにそのまま怒って気づかずに歩いて行ったクロムの様子からして…喧嘩したんだろうけど。
「さっきクロムとすれ違ったんだけど…なんか怒ってたけど…あいつなんか失礼なこと言った?」
「……ううん。いや正直に言えば…ムッてきたけど…寧ろオレが謝らなきゃいけないんだ。…クロムに大切な人なんていないなんて言っちゃったから……」
「…!」
なるほど……。そらあんな風に怒る訳だな。あのイライラしてた様子から…怒鳴ったんだろうけど。いつものあいつなら稀琉の様子見て言うのを抑えられたんだろうが…イライラに任せて言ったんだろうな。
「稀琉はなんて言われたの?」
ロスの問いに稀琉はバツが悪そうにしながらも先程のやり取りを伝えた。
「…あー。それならお互い様だなー」
とりあえず中立的立場であることを示すためにそう答える。しかし稀琉の表情は浮かないままであった。
「……そうかな。確かにムッと来たけど…オレが悪いんだよ。クロムは……間違ったこと言ってないもん」
その浮かない顔を見て静かに溜め息をつく。…また悪魔の俺に光を求めるかね。全く…ほんと俺も甘くなったもんだ。そう思いながらロスは言葉を紡いでいった。
「ほんとにそー?」
「え……」
クロムとは少し違う紅い瞳がこちらを捉える。相変わらずその目はクロムよりも紅く黒い闇が覆っている。
「…なぁ稀琉。たしかに俺も足洗ってもいいんじゃないかなって思う部分があるよ。だってお兄さんも言ってたけど…稀琉は優しすぎるくらい優しいから。でもそれって弱いってことかな。俺はそれも強さだと思うよ」
「……」
オレが強い…?そんなわけない……だったらなんで…。
「優しい…というか他者の痛みまで考え過ぎなくらい感じられるなんて…そうそうない。そもそもみんな出来てたら…この世に争いなんて生まれないでしょ。だから弱いんじゃない。沢山のことを感じられるから…同じ許容量だとしてもすぐいっぱいになるだけだろ?」
「……!」
ぎゅっと胸元を握りしめる。確かに…今まで自分がというよりは……人のことばかり考えてきた。その方がいいと思ったから。でもこの間クロムに言われた通り…それは自分の願いでもあったんだ。それを言われてオレ自身…結局何がしたいのか分からなくなった。…というか元々分からない。自分のことはつくづく理解できていなかった。
…オレは心の底では何を考えてるんだろうか。
「…多分稀琉がふつーの人間だったら……理性なんてとうに飛んでたと思うよ。それがどうして今まで狂わないでこれたと思う?」
「え…?」
突然の問いに戸惑いながら再びロスを見る。
先程のようにまっすぐと稀琉を見ていたロスは静かにこう答えた。
「…稀琉が嫌がっている青鬼のお陰だよ」
「!」
どういうことか分からない稀琉にそのままロスは続ける。
「思い出してみなよ。青鬼が出てくるとき…稀琉はどんな状態だった?」
「あ……」
思い返せばどちらも稀琉の心の許容量を超えかけたときだった。1回目は両親が殺され、兄に殺されかけたとき。2回目は自分のせいで麗弥が殺されかけたとき。
その時の心境の全てを思い出せるわけではないが、それでも頭が真っ白になる寸前であった。
「ま…さか……」
青鬼の出現条件が分かった稀琉にそのままロスは「そう。全ては稀琉を守るためだよ」と明白な答えを述べた。
「なんで……」
「それは俺にも分からないけど…少なくとも憑依した青鬼の姿を見てそう思ったよ。聞きたかったら…直接聞いて見たら少しは気持ちが落ち着くんじゃない?」
「え…でもどうやって……」
どうすればいいか分からない稀琉の胸に手を当てて「…答えは稀琉自身が知ってるはずだ。ここによく聞いて見たらいい」と微笑みながら言った。
「……」
「心通というのかな。何度か入れ替わったのなら…青鬼がいる場所は分かるはずだよ」
そこまでいうとロスは立ち上がった。
「俺が言いたいのはそれだけ。じゃあ戻ってクロちゃんのご機嫌取りをしてくるよ。あいついじけると面倒だからさー」
「あ…ロス…オレ……」
「ん?」
ニコリといつも通り接してくれるロスに救われた気がする。
「……ありがと。クロム…許してくれるかな…?」
「いーえー。クロムは…まぁ暫くすれば何事もなかったかのようにあの仏頂面になってるよ」
「そうかな…」
「意外とあいつ水に流せるやつだから」
その言葉に少しだけ安心したかのように稀琉は微笑んだ。
「じゃっ後は稀琉自身で決めなよ。無理はせずにね〜♩」と手をひらひらさせて部屋から出て行った。
部屋には沈黙が戻ってきた。
「心通…か」
ーもう解決したんだろ?ー
先程にクロムの言葉に稀琉は首を横に振る。
「…ううん。まだだ…結局オレはオレ自身について…何も分かってない。だから……」
今度こそきちんと向き合おう。オレの中に眠るこの人と。稀琉は大きく深呼吸をすると目を瞑った。
「さーて…稀琉の方はこれでいいとして…クロムはどーするかなー」
廊下を歩いてたロスはボソッと呟く。
「……今回の事で色々思い返して余裕があるわけじゃねぇだろうしな。それに……」
コートのポケットに入れっぱなしにしてたあの写真を取り出して見る。
「…これ見てから寝てる時に少しうなされてるし……見た瞬間のこいつ……俺には吐きそうに見えた」
怪我で元々顔色が悪かったがその写真を見たクロムの顔は…それ以上に青ざめていた。
本人はそういった弱いと言われる部分を出すのを凄く嫌っているので気づいてないだろうけど…。
「さて……少し慎重にならんとな」
鋭い目が虚空を見据えた。その目はまだ見ない写真の持ち主を捉えているように見えた。

