Devil†Story

「なに…それ。そんな言い方ないんじゃないの…?」


「事実だろうが!いつまでそうしてんだよ!そうして何か解決すんのかよ!てめぇが決めたことだろ!!意気地なしが!」


ギリッ…


普段あんまり感じないだけに怒りで震え、歯が軋むほど歯ぎしりした稀琉はカッとなった勢いで言い返す。


「オレだって!こんな風になりたくてなったんじゃない!!クロムが言うことは正しいよ!!でも…誰もが君みたいに強いわけじゃないんだ!!」


「だったら尚更裏から足洗えばいいだろ!!ここの表の仕事なら完璧に離れ離れになるわけじゃねぇんだから!」


「なにそれ……少し離れるだけだろってこと!?オレはずっとここに居たんだ!君よりも早くから!そんなオレに…この世界しか居場所がないオレに離れろって言うの!?」


「…ハァ?何を意地になってここにいようとしてんだ?バカじゃねぇの!ただこの裏の仕事だけ辞めるだけじゃねぇか!ここから綺麗さっぱり離れろなんて言ってねぇだろ!」


「だから!それはオレにとって見捨てられたようなものなんだよ!この環境が変わる…それがどれだけ辛いものか君に分かる!?」


「しらねぇよ!そんなこと!!1人がとか環境がとか…俺はそんなこと思ったことなんて一度もねぇよ!この世界に入ると決めた時から一度だってな!」


「あぁもう!なんでそんな風にしか言えないんだよ!」


2人の言い争いは段々とヒートアップしている。互いに言葉を選ぶよりも先に発言している状態であった。稀琉に至っては、親しい人物相手にここまで怒りの感情を出すことはなかったので慣れないものであった。…だからであろう。次の発言が口からでてしまったのは。しかしその発言は後ほど稀琉も後悔するほどの言葉であった。


「ーー君は!大切な人を失ったことがないから!そんなことが言えるんだよ!!」


「!!」


そこまで怒りに任せて発言していたクロムだったがその言葉にまるで頭を何かで殴られたような衝撃が走り冷静となる。少しの間、沈黙が流れる。そこで稀琉は自分の失言ににハッと気付いた。


「ご…ごめん。オレ……酷いこと…」


ギリッとクロムは歯軋りしながら下を向き、少し間をおいて答える。


「…別に。本当のことだ。お前の言う通り…俺に大切な奴なんて…いない」


先程の怒鳴り声はなくなったが、低音で怒りを含んだ声で答えるクロムに慌てて稀琉は声をかける。


「クローー「とにかくこのままでいんならマジで足洗え。そういった奴は任務の邪魔になる」


稀琉の言葉に被せるようにそう言ったクロムは稀琉の方を一切見ずに足早に扉に向かい、乱暴に締め部屋を後にした。


バタン!!!とさっきよりも大きな音を立てて扉が閉まり、暫く呆然としていた稀琉だったが、ハッ…と自虐するように笑った。


「本当…迷惑ばっかりかけてるのに……逆ギレするなんてとことん嫌な奴だな…オレ」


自分の言った言葉が頭の中で繰り返され、その言葉に怒りを感じて頭を抱える。


…あぁもう!そんなわけないじゃんか…!大切な人が居ないなんてこと…。確かにクロムの過去は…教えてもらったことがないから分からないけど。でも……本当に大切な人が居なかったら…君がオレを乱暴なやり方にしても…助けてくれるはずないでしょ…。君の大切な…いや大切だった人が君に教えてくれなければできない気遣いをオレにしてくれる訳ない……。


人は教えられなければ基本的にその行動を取れない。子どもが親や周りの大人の真似をするように。その行動の裏には全てとは言わないが必ず他の誰かがいて染み付いているものだ。稀琉の考えるクロムの気遣いは…その誰かが居てのものだろう。そうでなければ本人が気付かないくらい自然には行動できない。


避難訓練を日常的に行われるのと同じで。経験がなければ行動することは難しいし、ましてやクロムのあの性格だ。意識してやるとは思えない。


そんなクロムが今まで自分にしてくれた事を稀琉は思い出していた。


兄さんに襲われた時に本来なら早く聞いておきたかったであろう過去をオレが目覚めるまでを待っててくれたこと…。


何度も麗弥にオレの状態を説明してくれたのも後から聞いた…。何度も…オレに厳しい言葉であったけど「オレ」の性格を見抜いて叱咤激励してくれた…。


自分が怪我をするのを躊躇わずにオレを先に行かせてくれた…。


思い返せば返す程…何度君に救われたか分からない。きっとオレはそんな君の助けになったことなんてないのに…それでも変わらず同じようにしてくれたそんな君に…あんなこと言うなんて……。


自責の念がこびりつくがそれと同じようにもう一つの感情が纏わりついていた、


でも……痛いところを突かれているといえあの言い方はきつかったなぁ…。クロムはオブラートに包まないの知ってるはずなんだけどなぁ…。後悔の気持ちとムッとした気持ちを抑えるように再び布団にうずくまろうとした瞬間、今度はノックが鳴り響いた。


「…どうぞ」


ガチャリと扉が開かれそこにいたのは…


「ーーよっ。稀琉」


「ロス」


いつものように笑っていたロスであった。