Devil†Story

「ただいまー」


自室に戻ったロスはベッドに寝転んで本を読んでいたクロムに声をかけた。傍には包帯が綺麗に畳まれて置いてある。流石に麗弥の前では固定しているように見せているのでその包帯であった。部屋にいる間は邪魔な為外していた。


「あぁ」


本から目を離さずに返事をする。


「稀琉はまだこもってるみたいだねー」


「…ふーん」


変わらず本から目を離してはいないが明らかに不機嫌そうに相槌を打った。


「飯も食べてないし寝てもいないみたい」


「そうかよ。どうでもいいんだけど」


「…なんで怒ってんだよ」


「怒ってねぇよ。俺には関係ないことだ」


明らかに表情や僅かに始まった貧乏ゆすりが行動として現れている時点で不機嫌なのは誰にでも分かる。しかしそう答えるクロムにロスは溜息をついた。溜め息ついでにいつもの姿勢から僅かに身をずらしたのを見逃さなかった。


「…ところでお前の傷は?」


「腹と肩の穴が塞がれば終わりだな。ったく…また面倒な生活しなきゃならねぇなんて。まぁうるせぇのがこもってんなら楽だけど」


「…どんぐらい塞がって来た?」


「大きさか?よくは見てないが肩の方は残り1〜2cm、腹の方は4〜6cmってとこだな」


あの時の怪我は今までで1番の大怪我だった。流石のクロムもまだ塞がりきっていなかったがそれでもそのくらいは回復しているようだ。


「ふーん…。つーかお前も無茶するよ。腹に刺さった鉄棒を返しがついてるからって引き抜くなんてよ。いくら俺と契約してるからって普通痛みで気を失うくらいするんだがな」


傷の大きさに何か違和感があるのか始めは怪訝そうに、後半は呆れたように言うロスに面倒くさそうに答える。


「あのデブ。人をぶん回しやがったから頭に来てたしあんなでけぇもん付けてたら動けねぇっての。大体あんな痛みくらいで俺が気絶するか」


「あんな痛みって…お前は化け物か」


「化け物に言われたくねぇ」


「化け物じゃなくて悪魔ですぅー」


いじけるロスを無視してクロムは本を読み続けた。


「でもちょうど良かったんじゃね?」


「何が?」


「稀琉に言ったこと。痛みを感じにくくて血が止まりやすいってこと」


「あぁ…今後もあるからな。麗弥にもそう言っとけば楽だし」


「まぁな。…でも勘違いすんなよ。俺と契約してるからってそう何度も大怪我してたらもたねぇし。俺は悪魔だからな。天使様のような優しい契約じゃない。その再生能力には代償がある。…お前の命というな」


いまだ本に目を向けているクロムに少しムッとしながらロスはいつになく真剣にそう警告した。


「ハイハイ」


「………」


いつもならクロムの適当な返事を流していたロスだが今日は違った。何処かクロムに執着しているロスだが、警告をうやむやにしようとしたこの行為が…そして悪魔である自分の最大の警告を無視と同様の扱いをされたことに過剰に神経を逆撫でされていた。


「……俺は真剣だぞ」


いつもより低い声で言うロスにクロムは漸くチラリとこちらを向いた。


「…その割にそういう警告してくれんのがお前の悪魔らしくねぇとこだよな」


更に挑発的な返しにプチっと頭の中で何かが切れたロスはゆっくりと立ち上がりながら答えた。


「これでも立派な悪魔だけど。…例えばその人間が嫌なことするのが楽しいとか?」


ロスは近付いてベッドに腰を下ろし、クロムの両腕を押さえつけた。


「!」


持っていた本が音を立ててベッドから落ちた。掴んでいる手首にそれなりに力が込められている。


「いって…いきなりなんだよ」


「…傷の大きさに疑問を持ってな。答え合わせしようと思って」


そう言ってもう片方の手で服ごと包帯を掴むと思い切り引きちぎった。ヒラリと破れた服が宙を舞う。


「ッ!やめろよ。離せ!」


腕を引き抜こうと抵抗するも表情一つ変えずにじっと傷跡を確認していた。


「…へぇ。俺に嘘つくなんて。俺もなめられたもんだな」


「ハァ?……ッ…!」


腹部の傷は10㎝以上の穴が空いたままであった。治り始めている傷口にロスは手を突っ込んで少し広げる。


「内臓は修復し終わってきたみてぇだがな」


指で広げた腹部から中を見ながら相変わらず低い声でそう言うロス。


「ッ…傷の正確な大きさなんてよく見てなかったから知らねぇよ。離せって!」


押さえられて上半身が動かないクロムは睨みつけながらそう言うが「だったらよく見てねぇって言えばいいだろ。大体なんで離さなきゃなんねぇんだよ。楽しくなってきたのに」と全然楽しそうではなく答えるロス。


「くっ…」


上半身が動かないクロムはなんとか抵抗しようとベッドに腰掛けているロスを右足で蹴った…が。


ーーしゅる


「!」


右足に何かが巻きついて止まる。見ると尻尾が巻きついていて押さえられている。それと同時に左足の上にロスは乗った。


「ッ…!」


「お前のすることなんてお見通しだ。…痛くねぇんだろ?ならいいじゃんか」


いまだに傷を抉り続けるロスにクロムは睨みつける。抑えてる手の力が更に強まる。両手首に爪が刺さって出血していた。


「…ハァ?お前こそなんでそんなに怒ってんだよ…!」


「さぁね。誰かさんがあんまり反抗的だから躾けようかと思って」


「ふざけんなッ」


「何度も言わすなよ。…俺は真剣だが?」


何故か怒っているロスにクロムは本能でまずいと感じた。心なしかいつもより目が紅黒く感じる。白いベッドのシーツが紅く染まっていく。これはこちらがロスの言葉に従わなければてこでも動かないだろう。


「…悪かった。以後気をつける」


そうクロムが言うとロスは少しの間の後、指を引き抜いてベッドから離れた。


「ッ…」


少し広がった傷を押さえながらクロムは歯ぎしりをする。


「分かればいーんだよ」


ぺろりと指についた血を舐めるロス。


「………」


僅かに乱れた呼吸を整える。…そうだ。こいつはそういう奴だった。普段があんな感じだからつい忘れがちだが…契約したてのこいつはこんな感じだった。前にも麗弥が拉致られて喧嘩になった際に少し怒らせてしまった事があったが、今回のはあの時なんかの比じゃない。親しき仲にも礼儀ありではないが、それを何処かに留めておかなければならないと再認識する。


再びロスが指を鳴らすとシーツに染み込んだ血が液状化して腹部に入っていき、破けた包帯、服は元どおりになった。


「!」


腹に血が入っていった感覚に気持ち悪さを覚えたが何も言わなかった。


「ごめんごめん。やり過ぎた」


そう言うロスはいつも通りだった。


「……」


やっぱ油断できねぇなこいつ。契約したての頃を思い出して少し寒気がした。


「ごめんって。そんな警戒しないで〜」


「…嫌です。1人にしてください」


「ちょっとー!敬語やめてってば〜。あのね!?俺だって悪魔だけど心配なの!分かる?」


「すいませんでした。以後気をつけます」


「だーからー!」


その後しばらく2人の会話はそんな感じであった。