「兄さん…!」
倒れている兄を抱きかかえる稀琉。
「ッ…!」
兄は目を合わせようとせずに横を向いていた。我に返った…というのだろうか。その状態で弟に会いたく…向き合うことができなかったからだ。…こんなことになるなら……さっさとくたばってれば良かった。琉稀がそう思っていた時、稀琉は後悔に襲われていた。
失われてた記憶の先にあるこの光景の意味を理解していた稀琉は堪えきれず涙を流す。
「ごめん…なさいっ…!オレ…オレはまた…!!」
「…!」
涙が琉稀の頰に伝っていった。そこで初めて兄として琉稀は弟の顔を見た。
「……!!」
そこにはあの時と変わらない優しいキルの姿があった。自分のためではなく…俺のためにこうして泣いてくれている。ずっと謝りながら泣いている。
「ごめんなさいっ…ごめんなさい……!!」
昔より弱く…その分優しくなってしまったキルはあの時よりも感情を露わにして…あの時よりも子どもみたいに顔がくしゃくしゃになるのも気にせず泣き続けていた。その姿を見た兄はふぅと溜息をつきながら話しかける。
「……全く…お前は変わらないな……。なんで泣いてるんだよ。俺がお前に酷いことしたのに」
「だって…だって……!兄さんをこうさせたのは…オレだもん…!オレが生まれて来なければ……オレが青鬼じゃなければ…兄さんはこうならなかった……!!オレが……兄さんを…家族を壊してしまったんだ…!!」
「!」
その言葉に本当にあの時と変わっていないと思った。自分を犠牲にしてでも家族と円満に過ごしたかったあの時と。
「……」
自分の胸でわんわん泣くキルに、再度ため息をつきながら琉稀は答えた。
「……本当にお前はバカだな。優しすぎるんだよ。…ムカつく」
「…?」
顔を上げてキルが兄を見る。
「…俺はお前をはめて…挙句散々痛ぶった後に殺そうとしてたんだぞ。それでもそうやって自分を犠牲にするのか。…そういうところが最高にムカつく」
「うっ……」
ムカつくと言われたことに目を伏せるキル。
しかし次の言葉はキルにとって想定していない言葉だった。
「……俺より年下なのに自分より他人って考えのお前が…見ててイライラしたよ。……少しは自分の事を考えろって思ってさ」
「え……?」
どういうことか聞こうとした瞬間頭の上にふわりと何かを感じた。
「!」
そして同時に驚く。何故なら琉稀がキルの頭を撫でていたからだ。それは昔と同じ兄の姿だった。
「あーあ…本当なら……お前か俺はもう死んでるはずだったのにな…。こんな風に…俺がバカしたって思う時間がなかったはずなのに。華々しく…散ってりゃ良かったのにさ。ハハッ……この丈夫さは…父さん譲りか……」
「兄さん……」
「本当……やっぱり俺たちは…家族だったってことだな」
「…!」
琉稀はゆっくりと麗弥を見た。
「悪いね眼帯くん。…こんな家族喧嘩に付き合わせて骨折させて」
「!」
ロスに抱えられていた麗弥は真剣な顔で琉稀を見た。
「…謝ってもらったって許さへんよ」
「麗弥…」
稀琉が心配そうに麗弥の名前を呼ぶ。
「…当たり前やん。稀琉に謝るまでは許さへんって言ってたからな」
「!」
そう言って笑う麗弥に琉稀は驚いたが…ふっと笑って「…本当にキルの友達だな」と言った。
「当たり前やん。こんなええ奴いじめた奴は誰だろうと許さへんよ」
「君には負けるよ。……キルをよろしく」
「言われなくても」
その言葉にもう一度少し笑うと今度はクロムの方を見た。
「君にも申し訳ないね。そんな怪我させて」
「……別に」
「さっき青鬼からキルを目覚めさせる為にした頭突き…驚いたよ。まさに青天の霹靂だった」
「俺は…そっちの馬鹿みたいにお人好しじゃないんでね。頭にきてやっただけだ」
「そうか……ゲホッ…ゲホッ……!!」
ぶっきらぼうに言うクロムに笑いながら答えた後、肺に血が溜まってきたのか激しく咳き込む琉稀。
「兄さん…!!」
キルが心配そうに兄を支える。
「……キル。…俺はお前に謝らない。…だけど代わりに言いたいことがある」
青白くなっていく顔で琉稀はキルを見る。
「…ずっと思ってたよ。お前と俺は正反対みたいだって。…もうお前を縛るものはないんだ。だから……いい子ちゃんでいるのはやめろ。…自分の気持ちに嘘をついてでも…そのいい子ちゃんなお前を演じるな。……俺は何よりそこに腹がたったんだ。俺は悪い子お前はいい子。……でもお前が何を望んでいたのか…分かってたつもりだ……これは兄として…あの時に言ってやれなかった言葉だ」
「…!!」
涙が止めどなく流れていく。
「…いや元々いい子ではあったな……。ただ…だから苦しくなってる…自分の許容量を超えてまで…頑張るなって…思ってた……。お前は綺麗で……いい子だったよ。……そんなお前が…少し羨ましかった……」
段々と弱々しくなっていく声でそれでも琉稀は続けた。
「だが…それではダメな時もある……。厳しく…言わないと…分かり合えないこともあるんだ……。綺麗でいてもいい。だが…もう自分を犠牲にするのはやめろ。…そんな姿俺が情けなくなって見てられない。もし…守れないなら地獄からまた蘇って……今度こそお前を殺しにいくぞ」
「…!!」
物騒な…それもキル自身を否定しているような言葉を発した琉稀だったがその言葉には優しさを感じた。
「兄さん……分かった…分かったよ……」
その言葉を聞いて表情が緩んだ。
「……約束…だぞ。俺は…先に…地獄に行ってるよ……。お前もいい子だろうが……お前も人を殺めていたから……きっと地獄だろうから……もしあっちで会ったら……一緒に怒られようか。父さんたちに」
「!……うん。…僕も一緒に謝るよ兄さん。でも……」
稀琉の言いたいことを止めて兄はこう言った。
「……これ…やるよ。…好きだった…ろ?最後くらい…お前が知ってる…俺で……」
手につけていた何かをとってキルに差し出す。
「!!!」
それを見たキルの瞳から更に涙が溢れ出した。それはミサンガだった。あの時と同じ、青く綺麗な。自分とお揃いの…ミサンガだった。
「お前…は鬼じゃない…よ…キル……」
「違うよ……オレは…鬼だよ…。だって…ツノ生えてるもん」
今は癖っ毛に戻った髪を触りながらキルは答えた。
ーーヒュッ
「!」
琉稀の手元に何かが飛んできた。
それは帽子だった。飛んできた方を見るとロスが手をひらひらさせていた。そんなロスに笑いながら、琉稀は微かに手を上げて帽子を手に取った。そしてその帽子をキルの頭に乗せた。
「!!」
キルは驚いて兄を見た。
「……全く…俺が…あげたもの…全部使ってるなんて………。…似合うよ稀琉。……これで……お前は…鬼じゃ…ない……。…いや…被らなくても……。お前は…猫さんだからな……」
そう言って笑った琉稀は静かに目を閉じた。
稀琉の頭を撫でていた手がゆっくりと地面に落ちた。
「……兄さん…?兄さん……!!」
兄を揺さぶるがもうその瞳は二度と開かれない。
「うっ……うわあぁぁぁ…!!」
その瞬間稀琉は泣き叫んだ。まるで幼児のように。静寂の中、稀琉の泣き叫ぶ声だけが響き渡った……。
倒れている兄を抱きかかえる稀琉。
「ッ…!」
兄は目を合わせようとせずに横を向いていた。我に返った…というのだろうか。その状態で弟に会いたく…向き合うことができなかったからだ。…こんなことになるなら……さっさとくたばってれば良かった。琉稀がそう思っていた時、稀琉は後悔に襲われていた。
失われてた記憶の先にあるこの光景の意味を理解していた稀琉は堪えきれず涙を流す。
「ごめん…なさいっ…!オレ…オレはまた…!!」
「…!」
涙が琉稀の頰に伝っていった。そこで初めて兄として琉稀は弟の顔を見た。
「……!!」
そこにはあの時と変わらない優しいキルの姿があった。自分のためではなく…俺のためにこうして泣いてくれている。ずっと謝りながら泣いている。
「ごめんなさいっ…ごめんなさい……!!」
昔より弱く…その分優しくなってしまったキルはあの時よりも感情を露わにして…あの時よりも子どもみたいに顔がくしゃくしゃになるのも気にせず泣き続けていた。その姿を見た兄はふぅと溜息をつきながら話しかける。
「……全く…お前は変わらないな……。なんで泣いてるんだよ。俺がお前に酷いことしたのに」
「だって…だって……!兄さんをこうさせたのは…オレだもん…!オレが生まれて来なければ……オレが青鬼じゃなければ…兄さんはこうならなかった……!!オレが……兄さんを…家族を壊してしまったんだ…!!」
「!」
その言葉に本当にあの時と変わっていないと思った。自分を犠牲にしてでも家族と円満に過ごしたかったあの時と。
「……」
自分の胸でわんわん泣くキルに、再度ため息をつきながら琉稀は答えた。
「……本当にお前はバカだな。優しすぎるんだよ。…ムカつく」
「…?」
顔を上げてキルが兄を見る。
「…俺はお前をはめて…挙句散々痛ぶった後に殺そうとしてたんだぞ。それでもそうやって自分を犠牲にするのか。…そういうところが最高にムカつく」
「うっ……」
ムカつくと言われたことに目を伏せるキル。
しかし次の言葉はキルにとって想定していない言葉だった。
「……俺より年下なのに自分より他人って考えのお前が…見ててイライラしたよ。……少しは自分の事を考えろって思ってさ」
「え……?」
どういうことか聞こうとした瞬間頭の上にふわりと何かを感じた。
「!」
そして同時に驚く。何故なら琉稀がキルの頭を撫でていたからだ。それは昔と同じ兄の姿だった。
「あーあ…本当なら……お前か俺はもう死んでるはずだったのにな…。こんな風に…俺がバカしたって思う時間がなかったはずなのに。華々しく…散ってりゃ良かったのにさ。ハハッ……この丈夫さは…父さん譲りか……」
「兄さん……」
「本当……やっぱり俺たちは…家族だったってことだな」
「…!」
琉稀はゆっくりと麗弥を見た。
「悪いね眼帯くん。…こんな家族喧嘩に付き合わせて骨折させて」
「!」
ロスに抱えられていた麗弥は真剣な顔で琉稀を見た。
「…謝ってもらったって許さへんよ」
「麗弥…」
稀琉が心配そうに麗弥の名前を呼ぶ。
「…当たり前やん。稀琉に謝るまでは許さへんって言ってたからな」
「!」
そう言って笑う麗弥に琉稀は驚いたが…ふっと笑って「…本当にキルの友達だな」と言った。
「当たり前やん。こんなええ奴いじめた奴は誰だろうと許さへんよ」
「君には負けるよ。……キルをよろしく」
「言われなくても」
その言葉にもう一度少し笑うと今度はクロムの方を見た。
「君にも申し訳ないね。そんな怪我させて」
「……別に」
「さっき青鬼からキルを目覚めさせる為にした頭突き…驚いたよ。まさに青天の霹靂だった」
「俺は…そっちの馬鹿みたいにお人好しじゃないんでね。頭にきてやっただけだ」
「そうか……ゲホッ…ゲホッ……!!」
ぶっきらぼうに言うクロムに笑いながら答えた後、肺に血が溜まってきたのか激しく咳き込む琉稀。
「兄さん…!!」
キルが心配そうに兄を支える。
「……キル。…俺はお前に謝らない。…だけど代わりに言いたいことがある」
青白くなっていく顔で琉稀はキルを見る。
「…ずっと思ってたよ。お前と俺は正反対みたいだって。…もうお前を縛るものはないんだ。だから……いい子ちゃんでいるのはやめろ。…自分の気持ちに嘘をついてでも…そのいい子ちゃんなお前を演じるな。……俺は何よりそこに腹がたったんだ。俺は悪い子お前はいい子。……でもお前が何を望んでいたのか…分かってたつもりだ……これは兄として…あの時に言ってやれなかった言葉だ」
「…!!」
涙が止めどなく流れていく。
「…いや元々いい子ではあったな……。ただ…だから苦しくなってる…自分の許容量を超えてまで…頑張るなって…思ってた……。お前は綺麗で……いい子だったよ。……そんなお前が…少し羨ましかった……」
段々と弱々しくなっていく声でそれでも琉稀は続けた。
「だが…それではダメな時もある……。厳しく…言わないと…分かり合えないこともあるんだ……。綺麗でいてもいい。だが…もう自分を犠牲にするのはやめろ。…そんな姿俺が情けなくなって見てられない。もし…守れないなら地獄からまた蘇って……今度こそお前を殺しにいくぞ」
「…!!」
物騒な…それもキル自身を否定しているような言葉を発した琉稀だったがその言葉には優しさを感じた。
「兄さん……分かった…分かったよ……」
その言葉を聞いて表情が緩んだ。
「……約束…だぞ。俺は…先に…地獄に行ってるよ……。お前もいい子だろうが……お前も人を殺めていたから……きっと地獄だろうから……もしあっちで会ったら……一緒に怒られようか。父さんたちに」
「!……うん。…僕も一緒に謝るよ兄さん。でも……」
稀琉の言いたいことを止めて兄はこう言った。
「……これ…やるよ。…好きだった…ろ?最後くらい…お前が知ってる…俺で……」
手につけていた何かをとってキルに差し出す。
「!!!」
それを見たキルの瞳から更に涙が溢れ出した。それはミサンガだった。あの時と同じ、青く綺麗な。自分とお揃いの…ミサンガだった。
「お前…は鬼じゃない…よ…キル……」
「違うよ……オレは…鬼だよ…。だって…ツノ生えてるもん」
今は癖っ毛に戻った髪を触りながらキルは答えた。
ーーヒュッ
「!」
琉稀の手元に何かが飛んできた。
それは帽子だった。飛んできた方を見るとロスが手をひらひらさせていた。そんなロスに笑いながら、琉稀は微かに手を上げて帽子を手に取った。そしてその帽子をキルの頭に乗せた。
「!!」
キルは驚いて兄を見た。
「……全く…俺が…あげたもの…全部使ってるなんて………。…似合うよ稀琉。……これで……お前は…鬼じゃ…ない……。…いや…被らなくても……。お前は…猫さんだからな……」
そう言って笑った琉稀は静かに目を閉じた。
稀琉の頭を撫でていた手がゆっくりと地面に落ちた。
「……兄さん…?兄さん……!!」
兄を揺さぶるがもうその瞳は二度と開かれない。
「うっ……うわあぁぁぁ…!!」
その瞬間稀琉は泣き叫んだ。まるで幼児のように。静寂の中、稀琉の泣き叫ぶ声だけが響き渡った……。

