Devil†Story

「いい表情じゃねぇか稀琉。いつものヘラヘラした顔よりよっぽど好感持てるぜ?」


俺がそう言うと稀琉はニヤリと笑いながら剣に絡まったワイヤーを引いた。


(来るか…)


俺が剣を構え直すのと同時に稀琉は両手で挟み込むようにワイヤーを伸ばしてきた。


(なるほど。あくまで俺じゃなくて兄貴を狙うか)


その先端は兄貴に向かって行くのを見た俺は稀琉に向かって走りながら剣を振り上げた。
正面に向かってきた俺の攻撃を避けるため後ろに下がったことにより兄貴には当たらない位置になった。


俺は挟み込まれたワイヤーをしゃがんで避ける。


完全に稀琉の手が交差するところを確認し更に距離を詰めて兄貴から離れるようにしつつ攻撃を行う。ワイヤーを引き戻しながら今度は右手を斜めに振るう。


(ちっ。両方から来ると避けるのは良いがキリがねぇな)


そう思った俺は左斜め上から来たワイヤーをすれすれで避けそのワイヤーを踏み付けた。その少しあとに右真横から来たワイヤーを右手で受けながら絡まったワイヤーを引っ張る。


受けた右手から血が舞う。


その深さからそれなりに俺に対しても本気なのだと感じた。鋭い痛みを無視しそのまま思い切り引くと引っ張られたことにより俺の方へ稀琉が手繰り寄せられる。


「少し傷付いても文句言うなよ」


手繰り寄せられた稀琉に向かって左手に持ち替えていた剣を振り上げ左上から斜めに稀琉を斬りつけた…筈だった。


ーーガキィン!


「!」


耳をつく金属音とともに振り下げた左手が止まった。剣を見ると俺の右手に巻き付いていたワイヤーの先端が剣に絡んでいた。


(一体どうやって動かしやがった?)



よく見て見ると微かに先端が青く光っている。


(鬼の力使ってワイヤー自体を手元じゃなく力でも操ってやがるのか)


「ちっ…面倒くせぇな」


「…邪魔をするな」


「!」


低い声で稀琉が…いや今出て来てやがる青鬼がそう言った。その表情から狂ったような笑みは消えており俺を睨みつけるように鋭い目つきになっていた。


(こいつ…もしかして……)


俺の中にあった違和感が確信に変わった。


(だとすると…やっぱ兄貴がこんな側に居られると邪魔だ)


体力が全快ならまだしも今は正直疲労困憊に近いからな…長期戦は避けたい。ましてや兄貴を庇いながらじゃしなくていい怪我もする。


麗弥も見ている中で出来るだけ先程のような怪我は避けたい。


なら……


「…おい女!」


「!」


俺は端に居た女に声をかける。


「呆けて見てねぇでさっさとそいつ端に連れて行け!邪魔だ!」


「し…しかしわたくしは…」


何を遠慮しているのか分からないがうじうじとしている女に怒鳴りつける。


「うじうじとうるせぇ!そんなしけた面してるくらいなら自分が思うように行動しろ!それに邪魔なんだよ!!さっさと連れてけ!」


「…!」


怜姫は驚きながらクロムを見るがクロムは全くこちらを向いて居なかった。


(何故わたくしの表情が分かったのでしょうか…)


怜姫には分からなかったが、戦いが始まる少し前に麗弥と話している時。その時にクロムは状況確認をしており怜姫の様子も見ていたのだ。葛藤する怜姫の姿を。


その為怜姫がどんな表情をしているのか分かっていた。少しの間怜姫は驚いていたがすぐに「…はい!」と答え、琉稀に近付いた。


「琉稀様…!」


「怜姫…」


ぐったりしている琉稀を怜姫は心配そうに支えた。


「ここは危険です。クロム様が稀琉様のお相手をしてくださっている内に…どうかこちらへいらしてください。…ご命令を無視し勝手な行動をとり申し訳ございません」


「……」


琉稀は怜姫の表情を見た。その顔は哀しみに満ちておりとても辛そうながら…美しく見えた。


「…いや、もういい。苦労かけてすまない」


「いいえ…。さぁこちらへ。傷の確認をさせてくださいませ」


怜姫の肩を借りながら下がっていく琉稀の姿を見たクロムは視線を稀琉に向けようとした。


その瞬間冷たい殺気が伝わりワイヤーが引かれるのを感じた。


「!」


咄嗟に踏み付けていたワイヤーから足を外し右手に絡まったワイヤーを外した。その判断は正しかった。


持っていた剣が手から離れそうな程、強く引かれていたからだ。


もしそのままであれば右足は地面から離れ、下手をすれば怪我をし…右手は言うまでもなく切断されていたであろう。


「…何度も言わせるな、小僧。貴様には関係なかろう。…邪魔をするな。邪魔するなら…異国の魔の力を纏っているとは言え容赦せぬぞ」


低く小さな声でそう言う稀琉に鼻で笑いながら答えた。


「俺もどうなろうが知ったことじゃねぇから本当はこんなことする義理はねぇけどよ。その後お前もお前のダチの眼帯野郎もうるせぇからな。邪魔させてもらうぞ。容赦しないだ?上等だ。かかってこいよ稀琉」


その言葉に更に目つきを鋭くして睨みつける青鬼。


(さてここからが本番か)


右手から出血している血が小さな水溜りを作っているのを無視しクロムは剣を構え直した。