「さて……お話は終わったようですね…?ソルト坊ちゃん」
「…色々聞きたいことがございますよ。ミシェルお嬢様」
先程まで姿勢良く待っていた2人の執事は不敵な笑みを浮かべながらソルトとミシェルに近付いた。
「まっ、待ってよ!セイン!」
「いいえ、待てません。私はですね、ミシェルお嬢様。もう胃が痛くてなりませんよ。いくら私もドールとはいえ胃に穴が開いてなくなりそうなのですよ。…帰りましたら見せましょうか…?」
疲れ切ったような顔でセインは笑った。
その口の端から血が出ている。
「み…見たくないです…」
いくらドールとはいえ、セインは本当に精密に出来ている。
もちろん内臓の方も。
腹の部分の継ぎ接ぎの糸を解けば中身とこんにちはできるが、それは見たくないに決まっているので、ミシェルは小さな声でそう言った。
「さて、坊ちゃん。…さっさと帰りますよ」
「や、やだ!だってまた息がつまる生活をしないといけないんでしょ!?それなら帰りたくない!」
「…坊ちゃん。もう俺は限界です。先に無礼を謝罪させていただきます。申し訳ございません。……いい加減にしろよ」
謝った後にヒースは鋭い目でソルトを睨みながらそう言った。
「餓鬼じゃねぇってんなら…そんなワガママを口にできるはずねぇだろうが。その軽率な行動がどれだけのことをしているか理解できないのなら……坊ちゃんはまだまだ餓鬼なんだよ。…あの頃と変わらずに餓鬼扱いのままだ」
「っ…でも……」
「でももへったくれもないんだよ。わかったんならさっさと帰るぞ!」
ソルトの首根っこを掴んで帰ろうとするヒースにソルトは必死で暴れる…が。
大人の力に勝てるはずもなく虚しくズルズルと連れて行かれる。
「ミシェルお嬢様も行きますよ。…これ以上ここにいると私の胃が本当になくなりそうです」
セインはヒースのように乱暴にはしなかったが手を掴んで歩き出した。
「セイン……」
その時、今まで黙っていたゼノがセインの手を掴んだ。
「……なんですか、ゼノ」
「ゼノ…」
「…そんなにミシェルを責めないでくれ」
逆らう訳ではなかったが、そう静かに言うゼノ。
「……そうはいかないのは分かりますよね?…でも、あなたに免じてここは素直に引きましょう」
ゼノの手を離しながらセインはそう言った。
「それでは、私たちはこれで失礼致します。お嬢様がご迷惑をお掛けし、そのうえこちらの私情に巻き込んでしまい申し訳ございませんでした」
ロスの方を向いて頭を下げ、再び歩き出す。
「ま、待って!せめてソルトときちんとお別れさせてよ!」
「なりません。狼族とは因縁があるのはご存知でしょう?その次期長となる彼と私たちの姫様となる貴女様がこれ以上仲良くなるなんて。先程の執事の言い方をご覧になりましたでしょう?あんな野蛮な一族と仲良くなる必要などありません」
ーーカチンッ
セインの言葉に後ろを振り返るヒース。
「…ハァ?こっちだって願い下げだっつうの。そんな弱小一族なんぞ。…あ?しかもよく見たらシューターじゃねぇか。そんな小娘の執事になるなんてお前も落ちたんもんだな」
バカにしたように笑いながらヒースはソルトを掴んでいた手を離し前に歩み寄る。
「…どこかで聞いたことのある声だと思いましたが…貴方でしたか。シルバー。貴方こそ執事になるなんて随分可愛い犬っころに成り下がったものですね。暴れ犬と呼ばれた姿は見る影もなしですか」
冷静にだが、見下したかのようにセインは微笑みながら、同じくミシェルの手を離して前に歩み寄った。
「誰が暴れ犬だ。俺は暴狼(ぼうろう)だっつぅの。てめぇこそおままごと使いの名は廃れたんじゃねぇのかよ」
スーツのポケットに手を入れながら、喧嘩腰なヒースにセインは静かに怒りながら言い返す。
「おままごと使いではなく私は継ぎ接ぎの糸使いと呼ばれていたのですが。相変わらず頭の足りないお方ですね。大体そんなチンピラのような口の聞き方で執事のお仕事はできてるんですか?」
「なんだとくそ継ぎ接ぎ!」
「なんですか、わんちゃん」
睨み合う2人の間には火花が飛び散っている。
どうやらこの2人は族争の際に顔馴染みのようで、戦場での出会いだからか仲はすこぶる悪いようだった。
「え、セイン知り合いなの?」
「…いえ、そんなものではなく以前に族争の際に何度か手合わせをした相手なだけですよ。…これでお分かりになられましたでしょう?こんな犬っころと仲良くしてはいけません」
「坊ちゃん。これがこいつらの本性だよ。家出だけじゃなく継ぎ接ぎの奴らと仲良くしてはダメなんです。さぁ、帰るぞ」
「行きましょう、お嬢様」
2人の執事が手を引いて反対方向に歩き出す。
ミシェルとソルトは後ろを振り返る。
ソルトが見たのは今にも泣きそうなミシェルの顔だった。
その表情を見たソルトは渾身の力でヒースの手から逃れた。
「坊ちゃん。まだ餓鬼になるおつもりですか」
ヒースの厳しい表情に一緒たじろいたが、ぐっと拳に力を込めてソルトは叫んだ。
「僕が餓鬼なのは分かったよ!でも、ミシェルを悪く言うなよ!確かにミシェルと僕らの一族が仲悪いのは分かってるよ!僕たちだって初めは警戒してたくらい!でも!ミシェルは友達だ!どんな立場でもきっと友達になれるくらいの!だから!もうワガママ言わないから最後にきちんとお別れくらいさせて!」
「!」
その表情にヒースは僅かに驚いた。
その表情が、ソルトの父である長に似ていたからだ。
「ソルト……」
その様子を見ていたミシェルが名前を呼んだ。
そこでゼノはセインの肩を掴んだ。
「…まだ何かありますか?」
セインは冷たい目でゼノを見た。
セインとゼノでは同じドールでも、上下関係が存在する。
その上下関係は逆らうことができないほどのものだったが、ゼノは表情を崩さず口を開いた。
「……お前の気持ちは分かる。俺も初めは反対だった。でも、ソルトとミシェルは本当に危険な関係ではなく、友という関係だ。別れくらいさせてやって欲しい。…俺は主人であるミシェルのそんな表情見たくない」
本来ならそんなことも言えない関係だが、ゼノははっきり答えた。
そのことを知っているミシェルはぐっと唇を強く噛んだ後、決心したかのようにセインに言った。
「…セインお願い。ミシェルもうこんなことしないから。だから、ソルトとお別れをきちんとさせて欲しいの」
「……」
セインが振り向くと、いつものミシェルのふざけているような雰囲気はなく、真剣な表情だった。
それはまるでミシェルの母であるセインの主人がそこに立っているようであった。
「…色々聞きたいことがございますよ。ミシェルお嬢様」
先程まで姿勢良く待っていた2人の執事は不敵な笑みを浮かべながらソルトとミシェルに近付いた。
「まっ、待ってよ!セイン!」
「いいえ、待てません。私はですね、ミシェルお嬢様。もう胃が痛くてなりませんよ。いくら私もドールとはいえ胃に穴が開いてなくなりそうなのですよ。…帰りましたら見せましょうか…?」
疲れ切ったような顔でセインは笑った。
その口の端から血が出ている。
「み…見たくないです…」
いくらドールとはいえ、セインは本当に精密に出来ている。
もちろん内臓の方も。
腹の部分の継ぎ接ぎの糸を解けば中身とこんにちはできるが、それは見たくないに決まっているので、ミシェルは小さな声でそう言った。
「さて、坊ちゃん。…さっさと帰りますよ」
「や、やだ!だってまた息がつまる生活をしないといけないんでしょ!?それなら帰りたくない!」
「…坊ちゃん。もう俺は限界です。先に無礼を謝罪させていただきます。申し訳ございません。……いい加減にしろよ」
謝った後にヒースは鋭い目でソルトを睨みながらそう言った。
「餓鬼じゃねぇってんなら…そんなワガママを口にできるはずねぇだろうが。その軽率な行動がどれだけのことをしているか理解できないのなら……坊ちゃんはまだまだ餓鬼なんだよ。…あの頃と変わらずに餓鬼扱いのままだ」
「っ…でも……」
「でももへったくれもないんだよ。わかったんならさっさと帰るぞ!」
ソルトの首根っこを掴んで帰ろうとするヒースにソルトは必死で暴れる…が。
大人の力に勝てるはずもなく虚しくズルズルと連れて行かれる。
「ミシェルお嬢様も行きますよ。…これ以上ここにいると私の胃が本当になくなりそうです」
セインはヒースのように乱暴にはしなかったが手を掴んで歩き出した。
「セイン……」
その時、今まで黙っていたゼノがセインの手を掴んだ。
「……なんですか、ゼノ」
「ゼノ…」
「…そんなにミシェルを責めないでくれ」
逆らう訳ではなかったが、そう静かに言うゼノ。
「……そうはいかないのは分かりますよね?…でも、あなたに免じてここは素直に引きましょう」
ゼノの手を離しながらセインはそう言った。
「それでは、私たちはこれで失礼致します。お嬢様がご迷惑をお掛けし、そのうえこちらの私情に巻き込んでしまい申し訳ございませんでした」
ロスの方を向いて頭を下げ、再び歩き出す。
「ま、待って!せめてソルトときちんとお別れさせてよ!」
「なりません。狼族とは因縁があるのはご存知でしょう?その次期長となる彼と私たちの姫様となる貴女様がこれ以上仲良くなるなんて。先程の執事の言い方をご覧になりましたでしょう?あんな野蛮な一族と仲良くなる必要などありません」
ーーカチンッ
セインの言葉に後ろを振り返るヒース。
「…ハァ?こっちだって願い下げだっつうの。そんな弱小一族なんぞ。…あ?しかもよく見たらシューターじゃねぇか。そんな小娘の執事になるなんてお前も落ちたんもんだな」
バカにしたように笑いながらヒースはソルトを掴んでいた手を離し前に歩み寄る。
「…どこかで聞いたことのある声だと思いましたが…貴方でしたか。シルバー。貴方こそ執事になるなんて随分可愛い犬っころに成り下がったものですね。暴れ犬と呼ばれた姿は見る影もなしですか」
冷静にだが、見下したかのようにセインは微笑みながら、同じくミシェルの手を離して前に歩み寄った。
「誰が暴れ犬だ。俺は暴狼(ぼうろう)だっつぅの。てめぇこそおままごと使いの名は廃れたんじゃねぇのかよ」
スーツのポケットに手を入れながら、喧嘩腰なヒースにセインは静かに怒りながら言い返す。
「おままごと使いではなく私は継ぎ接ぎの糸使いと呼ばれていたのですが。相変わらず頭の足りないお方ですね。大体そんなチンピラのような口の聞き方で執事のお仕事はできてるんですか?」
「なんだとくそ継ぎ接ぎ!」
「なんですか、わんちゃん」
睨み合う2人の間には火花が飛び散っている。
どうやらこの2人は族争の際に顔馴染みのようで、戦場での出会いだからか仲はすこぶる悪いようだった。
「え、セイン知り合いなの?」
「…いえ、そんなものではなく以前に族争の際に何度か手合わせをした相手なだけですよ。…これでお分かりになられましたでしょう?こんな犬っころと仲良くしてはいけません」
「坊ちゃん。これがこいつらの本性だよ。家出だけじゃなく継ぎ接ぎの奴らと仲良くしてはダメなんです。さぁ、帰るぞ」
「行きましょう、お嬢様」
2人の執事が手を引いて反対方向に歩き出す。
ミシェルとソルトは後ろを振り返る。
ソルトが見たのは今にも泣きそうなミシェルの顔だった。
その表情を見たソルトは渾身の力でヒースの手から逃れた。
「坊ちゃん。まだ餓鬼になるおつもりですか」
ヒースの厳しい表情に一緒たじろいたが、ぐっと拳に力を込めてソルトは叫んだ。
「僕が餓鬼なのは分かったよ!でも、ミシェルを悪く言うなよ!確かにミシェルと僕らの一族が仲悪いのは分かってるよ!僕たちだって初めは警戒してたくらい!でも!ミシェルは友達だ!どんな立場でもきっと友達になれるくらいの!だから!もうワガママ言わないから最後にきちんとお別れくらいさせて!」
「!」
その表情にヒースは僅かに驚いた。
その表情が、ソルトの父である長に似ていたからだ。
「ソルト……」
その様子を見ていたミシェルが名前を呼んだ。
そこでゼノはセインの肩を掴んだ。
「…まだ何かありますか?」
セインは冷たい目でゼノを見た。
セインとゼノでは同じドールでも、上下関係が存在する。
その上下関係は逆らうことができないほどのものだったが、ゼノは表情を崩さず口を開いた。
「……お前の気持ちは分かる。俺も初めは反対だった。でも、ソルトとミシェルは本当に危険な関係ではなく、友という関係だ。別れくらいさせてやって欲しい。…俺は主人であるミシェルのそんな表情見たくない」
本来ならそんなことも言えない関係だが、ゼノははっきり答えた。
そのことを知っているミシェルはぐっと唇を強く噛んだ後、決心したかのようにセインに言った。
「…セインお願い。ミシェルもうこんなことしないから。だから、ソルトとお別れをきちんとさせて欲しいの」
「……」
セインが振り向くと、いつものミシェルのふざけているような雰囲気はなく、真剣な表情だった。
それはまるでミシェルの母であるセインの主人がそこに立っているようであった。

