Devil†Story

「………クロム」


表情を変えずロスはクロムの名前を呼んだ。敵意を向けられているわけではないのにこちらに向かられた圧は皮膚を伝って振動を感じさせる程であった。


「ガキ相手になに本気になってんだよ。お前らしくねぇな」


「……」


「大体俺連れて行かれてねぇし、俺1人でもこんなガキの相手なら余裕で勝てたっての。それに…別にこいつらをどうしようが俺には関係ないし、いずれ殺すにしても…その前に聞くことあんじゃねぇの?こんなにビビらせて口聞けなくなりましたーとか洒落にならねぇぞ。それにこいつらだって命令で来てるんだろうし、あんま本気になんなよ。てか変なスイッチ入ってるだろ?少し落ち着けよ」


若干自分が無意識の内に早口で長く話していることで緊張していることに気付く。


「…………」


ロスは何も言わずに真っ直ぐこっちを見ている。辺りに沈黙が続いた。


聞こえるのは女がすすり泣く声だけ。


流石の俺でもこの威圧感には若干緊張する程だ。肩に止まっているクローも鋭い目つきでロスを見つつ僅かに…恐らく反射的にだが震えている。


こいつが何者なのか、どれだけ強い奴だったのかは定かではないが……。


魔物じゃねぇ俺ですらこいつの圧倒的な気迫は感じられるくらいだ。ガキとはいえ魔物のこいつらがビビるのは当たり前だ。


普段はへらへらしてるから、つい忘れがちだが…こいつは悪魔だ。


しかもそこらへんのクラスではない上位の。
その名は伊達じゃない。…それに。何度もそれなりに本気に…というかキレてるこいつをここで止めないと何しでかすかわからねぇ。直感的にそう思った。


「………」


変わらず俺の事を真っ直ぐ見てくるロスの目は暗く何を考えているのか全く分からない。掴んでる手から殺気が直に伝わってきていた。だが、その内ロスは長く息を吐いてから目を瞑った。やがて翼や尻尾が消え、殺気も消えていった。


「……はー。確かに子ども相手にやり過ぎちった〜」


そうおどけていうロスはいつも通りのへらへらしているロスだった。指を鳴らして男にかけていた術を解くと男は倒れ込んだ。


「ゼノ…!」


女がほっとしたように男の名前を呼ぶ。


「いやー、苦しかったよな?ごめん、ごめん。あと、踏んづけててごめんねー?狼くん」


男に謝りつつ、踏んづけていた犬っころからも足をどかしながらへらへらしながら言うロスを見て、肩にあった力が抜けていくのが分かった。それを確認し、俺は手を離した。


「ここんとこ色々我慢し過ぎたかなぁ…。子ども相手にここまでやるなんて失敗、失敗★」


「ごめんね〜」とガキどもに言うがまだガキどもはカタカタと震えていた。


「ありゃ?まだ怖い?ごめん、ごめん。もう大丈夫だよ〜」


必死でなだめるロスだが、それでもガキどもは怯えている。

……当たり前だろ。


そんなすぐに大丈夫ですとか言うかっての。


本当に今日のこいつはおかしいな。ガキ相手にマジになったり、力逆流させたりとーーー


そこまで考えていた時、俺はあることを思い出した。


「……ロス」


「はいはい〜?ーーぐえっ」


いつものようにへらへらしつつ、こっちを向いたロスに俺は右ストレートを顔面に食らわせてやった。殴る直前でクローは何かを察したのか空中に飛び立ったのでそのとばっちりを受けることはなかった。代わりにばっちり食らったロスはバキッといい音をたて、変な声を出してそのまま倒れていった。


ドサリと倒れたのも束の間、すぐに左頬を抑えながら起き反論してきた。

「いったぁ!!何!?いきなり!」


「うるせぇ!てめぇ…さっきまた俺んとこに力逆流させてやがったな?今日何回目だ!?」


会ったら絶対殴る。そう誓ったことを思い返して、クロムはロスを殴ったのであった。


「あー…それは悪かったよ。でもよ?いきなり殴るなんて酷くない!?俺にも色々あんのよ!?」


頰をさすりながらロスは言い返したが、更にクロムは言い返した。


「あぁ!?ざけんな!余裕で勝てたとはいえこちとら2回目で流石に頭にきてんだよ!!てめぇの事情なんぞ知ったことか!自己責任だろうが!」


「なんだとぉ!?お前こそふざけんな!!俺だって色々我慢してたんだ!よくここまで持ったと褒められるのは分かるが殴られる筋合いねぇっての!!大体なーにが余裕で勝てただ!腹に大穴開けといて笑わせるぜ!」


立ち上がりクロムの前まで来て腹を指差しながら少し前かがみになり喧嘩腰でロスは言い返した。ブチっと血管が浮き出る音がクロムの耳に届く。


「これは俺がしくったんじゃねぇよ!!稀琉の馬鹿が惚けてたせいで受けただけだっての!つーかこのくらいでこんなガキどもにやられねぇっての!!馬鹿にしてんのか!?」


「おーおー人のせいにするたぁ、よえー証拠だなぁ?本当に強かったらそんな傷受けなくともかわせるよなぁ?それに俺知ってるぜ?腹が痛んで一回やられかけたろ?クローが飛んで来たみたいで助かったみたいだが?クローの手を借りないとピンチだったくせによく言うぜ!もっかい赤子からやり直して来た方がいーんじゃねぇの!?」



「はぁ!?仮にてめぇになんらかの事情があったとしたら俺だって色々あったんだよ!つーかなめんな!ぶっ殺すぞ!!」


「おやぁ?おまけに腕にクローから受けた傷があるじゃねーか?傷だらけのクロムくんに説教される筋合いはねぇなー!?」


「よしそこを動くな。ぶっ殺してやる!」


「やれるもんならやってみやがれ!先にゴング鳴らしたのはお前だからな?!」


「上等だ!クソ悪魔が!!」


ギャーギャーと子どもとはいえ敵がいるのにも関わらず2人はいつものように大げんかをしていた。


「……ねぇミシェル」


それを見ていたソルトはいつの間にかミシェルの隣に来て声をかけた。



「さっきまであんなに怖かったのに……僕らより子どもみたいな喧嘩するね」


大げんかする2人の姿はまるで小学校低学年の男児同士の喧嘩のようだった。ここに大人がいたら「こら、やめなさいー!」と怒られそうなくらい子どものような喧嘩の仕方であった。


「…ミシェル、力抜けて来ちゃった」


「僕も。でもクロムお兄さんが止めてくれなかったら…危なかったよね」


「本当だね。ゼノも無事でよかった」

そう安堵した時だった。


ーーーミシェル。


「!」


ミシェルがつけていたネックレスから声が聞こえて来た。