Devil†Story

ーー12年前 あの事件が起こる数十分前


琉稀と両親は琉稀が真の青鬼の間の入り口であると言ったあの場所にいた。


「父さん。やっぱりキルには荷が重すぎるよ。あの子は……なんでも背負い込んでしまいがちだ。いつか潰れてしまうよ」


「何を今更…。何度も言っただろう。あの子は私たちがずっと待ちわびていた子だ。掟でも決まっていることだ。この青鬼院家の長だ」


何度も聞いたそのフレーズにうんざりする。


だからこそ…キルには厳しいと思ってると何度も言ってるのに。


あの子は優しすぎるんだ。


全ては自分ではなく家族を真ん中にあの子の世界では動いてる。


5歳の子どもがだぞ?


そんな悲しいことあるのだろうか。


このまま青鬼院家のレールを歩くだけ…そんなことしなくていいのに。


「ならなんであの子に希望を持たせるような事言ったんだよ。外に出たいなら…なんてさ」


「それは外の事も知ってた方が良いと思ったからだ。あの子にしかできない事をしてもらう為にもだ」


キルにしかできない。


それも何度も聞いた。


キルにしかできない、キルにしかできないって…なんなんだよ。


俺じゃ役不足というのを突きつけられているようで無性にイライラしてしまう。


だからだった。


つい言ってはいけないことを口にしてしまった。


「だから…なんで分かってくれないんだよ!キルの性格上辛い役目だろ!それに……俺が長男なのに…なんで俺じゃ駄目なんだ!」


ハッと琉稀は我に返る。


俺は何を…。


「……それが、お前の本心か」


冷たく響く父の声に必死で反論する。


「ちっ、違う!俺は…」


「嘘をつくな。表ではキルのことを思うフリをして本当は自分がなりたいだけか」


「違うって言ってるじゃないか!」


しかし、一度言ってしまった言葉は取り消せない。


でも、なんで分かってくれないんだよ…。


なんで…!


「それに…あの子には正式な青鬼の力が…魂が宿ってるんだ。まだ5歳だ。ぶれるのは分かってるだろう?今は…まだあの子も戸惑い傷つくかもしれないが、お前くらいになれば自分の役割を全うするだろ。その時に…お前が支えてやってほしいんだ。長男なのにという気持ちは…分かるが堪えてくれ。お前には…それをお願いしたいんだ」


「貴方には本当に悪いことをしたと思ってるのよ、琉稀。ごめんなさいね…。期待させるだけさせて…」


その父と母の言葉は最早、琉稀の耳には届いてなかった。


そう…か。


あぁ、そうかよ。


信じてくれないのか。


確かに俺も言ってはいけないことを口にしてしまった。



でも…俺の言葉なんてこの人たちには届かない。


なんでだよ。


あーあ、今までの俺の人生はなんだったんだろうか。


…ムカつく。


キルキルキルって…


なんなんだよ!


こいつらなんて……



琉稀がそう思ったのと同時に、ふっと一瞬意識が飛んだような感覚に襲われた。


それと同時に声が頭の中に響いてきた。


ーナラバ葬レー


…?


頭の中で響く声。


なんだ…?


ー邪魔ナラバ…葬ッテシマエバイイー


その言葉に妙に納得してしまう。


そうか…。


消してしまえばいいのか。


ーソウダ。コンナ奴ラ…葬ッテシマエ。手伝ッテヤルー


そう言われた瞬間、意識が鮮明とした。


しかし、今までとは違った意味で鮮明だった。


「…琉稀?」


父が…いや、あいつが俺の名を呼んだ。


ゆらりとあいつを見る。


あいつも、その隣に居る女も心配そうに俺を見ていた。


「本当に…私たちはお前の事も大事だよ、琉稀。だからーー」


父親がそこまで言ったのと同時だった。


天井から何かが突き抜けてきて、父親の頭上から襲った。


「!?」


父親が驚いて上を見ると…息子である琉稀が育てていた薔薇が鞭のようにうなりこちらに向かってきていた。


鋭い一撃が父親に当たった。


「グッ…!!」


ドサリと床に崩れる父親に母親が叫び声をあげる。


「あなた!!」


倒れている父親に駆け寄る。


「なっ…」


琉稀は驚いた。


あれは…上(植物園)で育ててた俺の薔薇…?


そう感じているとまたもや声が聞こえた。


ーーソノ植物ニハオ前ノ想イガ詰マッテイル。操リ方ハ分カルダロウ?ー


誰のものかも分からない声にそう言われ、不思議と操り方が理解できた。


怨恨の思いを込めて手を差し出すと、薔薇がこちらに向かってきて、その手に巻き付いた。


その薔薇は…黒薔薇だった。


「琉稀…!貴方…!!」


「琉…稀…」


あいつらの声が聞こえた瞬間、ある言葉が頭を支配した。


そうだ。


黒薔薇の花言葉は……


ー貴方を恨みますー


手に巻き付いた黒薔薇を見ると、口角が上がっていく感覚が分かった。


「ふふっ…アハハハ!」


この瞬間…稀琉が大好きだった兄は完全に消え去った。


そこに居たのは稀琉が大好きだった兄の姿をした…鬼だった。


「琉…稀…まさか…お…前…!」


頭から大量に出血している父親は琉稀に起きた異変に気付いた。


だが…もう全て遅かった。


次の瞬間、その腹部に薔薇が突き刺さった。


「ガッ…!!」


口から血を吐き出す。


「あなた!しっかりして!」


青鬼と契約していた青鬼院家の人間はその力を一身に受けた稀琉だけではなく、体は通常の人間よりも丈夫になっていた。


その証拠にそれだけ酷い怪我にも関わらず父親はまだ息があった。


「なんだ。まだ死なないの?…早く死ねよ」


琉稀の冷たい声が響く。



「琉稀!貴方なんてことを…!!」


「煩いなぁ…。お前らの小言を聞くのも…もううんざりだ。キルキル…お前らに必要なのはあの子だけだろう?俺はイラナイ子どもだったわけだ」


「違うわ!そんなことない!貴方だって私たちの……」


「綺麗事はもう結構だ!!お前らさえ消せば…後はあいつだけだろう?俺はこの家に生まれたことを恨む。もう長になるとかどうだっていい……。だから全て消してやる。お前らの悲鳴、死だけが…俺の望みだ!」


「うっ…!」


強く話す母親の腹部にも薔薇を突き刺した。


「鈴(スズ)…!」


意識が朦朧としている父親が母親の名前を呼んだ。


「俺はこんな家族が…大嫌いだ。でもまぁ……お前らが居なくなったこの家なら別になんとも思ってないから?跡取りになってやるよ。お前らを殺したあとにキルも殺してな!」


ニヤリと笑った琉稀が2人に近付きながらそう言う。


「あ…あら、た……」


母親…青鬼院 鈴は必死に愛する夫である青鬼院 新(アラタ)に手を伸ばす。


嫁入りをした鈴は儀式によって家族の一員になったが、青鬼院家の血を引き継いだ訳ではなかった為、体は一般の人間と同じであった。


「鈴……!」


新はその手をとろうと同じく手を伸ばした。


愛する妻の目には涙が浮かんでいた。


ーーニヤリ


更に広角をあげて笑った琉稀が手を伸ばすのと同時に鈴の体に再度薔薇が突き刺さり、その身を引き裂いた。


「鈴!!」


新の悲痛な声が部屋にこだまする。


「ふふっ…アハハハ!!さよなら、母さん!!」


先程の父親の叫び声は、虚しくも息子である琉稀の笑い声によってかき消された。