「………」
沈黙が辺りを覆った。
そのせいか、自分の心臓の音が嫌に大きく聞こえる。
沈黙の中に緊張感も漂っている。
一呼吸が5分以上に感じられるほどの異常な緊張感が身にまとわりついて空気を薄くするような…そんな風に感じるほどであった。
おそらく沈黙は1~2分足らずであっただろうが物凄く時が経ったように感じた。
やがてその雰囲気を作り出している当の本人が口を開いた。
「…なんでも受けてたつ、だって?そんな目をして…この短期間で全てを悟ったかのような表情だね。何?もうわかったからこんな悲しいことやめようよ、兄さん!…とか?ハッ…調子に乗るのもいい加減にしてもらいたいものだね」
「………」
鼻で笑いながら答える兄さんをオレは黙って見つめる。
…そのことが兄さんの癪に触ったのか、一気に兄さんの顔から笑みが消えた。
「イラつくな、その表情!相変わらずお前は俺に嫌がらせをするのが得意みたいだね、キル」
「そんなつもりじゃ…」
オレがそう言った瞬間、ドォン!という轟音と共に何かが上から降ってきた。
その衝撃で床が壊れ、辺りは土煙で覆われる。
「なんや!?」
麗弥が何かが降ってきた場所を確認する。
「あ~…」
低い声が土煙の中から聞こえた。
「…グラトニー(暴食)。随分かかったじゃないか」
その衝撃音で先程の怒りが少し消えたのか、琉稀は少し冷静に降ってきた人物に問いかける。
「あ~、思ったよりかかってしまって。琉稀サマ」
土煙の中から大柄な男が出てきた。
「それで?状況は?」
「あ~、もうダメッスねー。操り人形はもとよりオカマ野郎も、暑苦しいだらけ野郎もあの餓鬼どもに殺られてしまって壊れましたわ」
「ふぅん…。案外やるじゃないか」
その会話からクロムとロスは無事だという事実が汲み取れた。
一先ずほっと胸を撫で下ろす。
「あの二人組は?」
「あの2人とクロム様が交戦中でございます」
グラトニーが答える前に、後ろの扉から偵察から戻ってきた玲姫が答えた。
「おぉ、ラストじゃんか。あの細っこい餓鬼が先についたかぁ?」
「えぇ。今のところは…スロウスから受けた怪我を負ってるものの…プライド(ミシェル)に毛髪をとられることはなく互角といったところでしょうか」
「ラース(ソルト)はどうした?」
「はい。ラースの方も魔物に変身し、更にプライドのドールも一緒に3対1で戦っておりますので、その内クロム様が劣勢になるかと思われますが…。先程グラトニーが申した通りロス様の足止めをしていたグリード部隊はほぼ全滅しており、エンヴィーは突破されてしまいましたので…ロス様が合流するのは時間の問題かと思われます」
淡々と偵察の結果を語る玲姫。
やっぱり玲姫さんも、スロウスさんも…グラトニーさんも作られた人形とは到底思えない。
「ここにあの子達が来るのも時間の問題か…。なら尚更さっさとけりをつけないとね」
「2人とも報告ご苦労様」と言うのと同時に琉稀は稀琉の方に向き直った。
「良かったね、キル。まだ君のお友達は誰も死んでないみたいで」
「兄さん…オレは皆を信じてるよ。だけど…これ以上巻き込みたくないんだ。さっきオレが聞いた質問はどうなるか答えを聞いてないよ」
「まぁ、そんな怖い顔するなよ。まず、場所を変えないと」
「場所を…?」
「そうそう。俺が大嫌いなこんな和風な場所じゃなく特別ステージを用意したから」
怪訝そうに聞く稀琉に対し、楽しそうにそう答える琉稀。
それと同時に玲姫が麗弥の居る場所の隣のレバーを引いた。
「なっ!?」
それと同時に麗弥が縛り付けられている壁が仕掛け扉のようにぐるんと反対になり、麗弥の姿が見えなくなる。
「麗弥!?」
「そう大声を出さないでよ、キル。殺したりしてないから。彼に先に行ってもらってるだけだからさ。ほら、俺達も行くよ」
今度は琉稀自身が部屋の左端に向かい、掛け軸の後ろを何やらいじり出した。
すると、そこの壁がまた動きだし、暗い道が現れた。
「さぁ、行くよ」
琉稀に呼ばれ、稀琉はそのあとを追った。
グラトニーと玲姫はその後ろに続いた。
少し歩くと懐かしい、あの植物園に出た。
「…………」
あの悲劇が起こった場所の一部である植物園。
そこには変わらず薔薇が咲き乱れていた。
だが、あのときとは違い黒と赤の薔薇がひしめき合っていた。
「こっち」
顔が真っ青になってきたキルの様子が面白いのか、琉稀は嫌な笑みを浮かべて更に行きたくないあの階段の道を指差した。
「ッ……」
ドクンと心臓が大きく跳ね上がる。
嫌な汗が背中を伝った。
体の芯は冷えきっているのに、頭だけが熱っぽい。
見たくない。
その思いを振り切るように先へ進む。
そして、あのとき以来一度も来ていないあの場所の扉が顔を出した。
ーー行ってはいけない。
そんな声が聞こえるほど、稀琉はその中に入るのに躊躇した。
12年前に…オレが両親を殺して、兄さんを傷付けたこの場所。
自然と体が震えた。
でも…行かなくては。
行ってはいけないという警告を無視し、意を決して中にはいった。
あの時に見たままの形でその部屋は残っていた。
微かな鉄臭さがそこでの出来事を物語っているようだ。
心臓が痛いくらい大きく跳ね上がり続ける。
呼吸することさえやっとといったところだ。
苦しい……頭も痛い。
胸が……張り裂けそうだ。
胃の辺りが熱く、吐き気がしてきた。
そう入っただけで思えるほど、その場所はあのときと同じ姿でキルを迎え入れた。
「更にもっと先に本当の青鬼の間が存在するんだよ」
琉稀の言葉に答えることができない程、稀琉は余裕をなくしていた。
しかしどんどん進む琉稀に必死についていく。
すると、明るく外界の月明かりが差し込む、白い大理石の空間が顔を出した。
その奥に麗弥の姿が確認できた。
「麗弥!」
思わず叫ぶと麗弥はすぐに答えてくれた。
「俺は大丈夫や!」
「よかった……」
安堵する稀琉だが、すぐに琉稀は口を開いてそれをかき消した。
「ねぇ、キル。キルはお友達を助けたいんだよね?」
「うん…。さっきもいった通りこれからオレがどんな目に遭ったとしても…巻き込みたくないんだ」
「なら……そこの床を舐めてくれたら考えるけど?」
「!?」
その琉稀の言葉に驚き、稀琉と麗弥は目を大きく開いた。
「簡単でしょ?床を舐めるだけだよ」
「ッ……」
「さっき自分で言ったじゃないか。なんでもするって」
「ええ加減にせぇよ!そんなことーーグッ!」
「!」
麗弥がそう叫んだのと同時に、麗弥の体に巻き付いていた薔薇の蔓が全身に強く食い込んだ。
「麗弥!!」
「さぁ、どうする…?出来ないなら今、殺しちゃうけど?」
ニヤリと笑った琉稀は稀琉に問う。
「……わか、った」
「稀琉!?そ…そんなん、やらんでええ…!俺なら…大丈夫や!」
蔓が体に食い込んで呼吸が辛いのか途切れ途切れで叫ぶ麗弥。
「麗弥…。大丈夫。オレなら平気。君の失うことに比べたら…全然平気だから」
そう悲しげに笑う稀琉。
「稀、琉…」
稀琉はそれだけ言うと床に膝をついて頭を下げる。
床に舌をつけようと舌を出すが、一度躊躇する。
「アカンて!そんなん…おかしいやんか!稀琉は何も…してへんのに…!」
必死でその行為をやめさせようと叫ぶ麗弥。
麗弥の声を聞いたことにより、稀琉は決心した。
そして、床に舌をつけた。
何度も何度も。
「稀琉…!やめるんや!」
親友のそんな姿に悲痛な声をあげる麗弥。
「フフッ…アハハ!!」
その雰囲気を壊すかのように琉稀は高笑いをした。
沈黙が辺りを覆った。
そのせいか、自分の心臓の音が嫌に大きく聞こえる。
沈黙の中に緊張感も漂っている。
一呼吸が5分以上に感じられるほどの異常な緊張感が身にまとわりついて空気を薄くするような…そんな風に感じるほどであった。
おそらく沈黙は1~2分足らずであっただろうが物凄く時が経ったように感じた。
やがてその雰囲気を作り出している当の本人が口を開いた。
「…なんでも受けてたつ、だって?そんな目をして…この短期間で全てを悟ったかのような表情だね。何?もうわかったからこんな悲しいことやめようよ、兄さん!…とか?ハッ…調子に乗るのもいい加減にしてもらいたいものだね」
「………」
鼻で笑いながら答える兄さんをオレは黙って見つめる。
…そのことが兄さんの癪に触ったのか、一気に兄さんの顔から笑みが消えた。
「イラつくな、その表情!相変わらずお前は俺に嫌がらせをするのが得意みたいだね、キル」
「そんなつもりじゃ…」
オレがそう言った瞬間、ドォン!という轟音と共に何かが上から降ってきた。
その衝撃で床が壊れ、辺りは土煙で覆われる。
「なんや!?」
麗弥が何かが降ってきた場所を確認する。
「あ~…」
低い声が土煙の中から聞こえた。
「…グラトニー(暴食)。随分かかったじゃないか」
その衝撃音で先程の怒りが少し消えたのか、琉稀は少し冷静に降ってきた人物に問いかける。
「あ~、思ったよりかかってしまって。琉稀サマ」
土煙の中から大柄な男が出てきた。
「それで?状況は?」
「あ~、もうダメッスねー。操り人形はもとよりオカマ野郎も、暑苦しいだらけ野郎もあの餓鬼どもに殺られてしまって壊れましたわ」
「ふぅん…。案外やるじゃないか」
その会話からクロムとロスは無事だという事実が汲み取れた。
一先ずほっと胸を撫で下ろす。
「あの二人組は?」
「あの2人とクロム様が交戦中でございます」
グラトニーが答える前に、後ろの扉から偵察から戻ってきた玲姫が答えた。
「おぉ、ラストじゃんか。あの細っこい餓鬼が先についたかぁ?」
「えぇ。今のところは…スロウスから受けた怪我を負ってるものの…プライド(ミシェル)に毛髪をとられることはなく互角といったところでしょうか」
「ラース(ソルト)はどうした?」
「はい。ラースの方も魔物に変身し、更にプライドのドールも一緒に3対1で戦っておりますので、その内クロム様が劣勢になるかと思われますが…。先程グラトニーが申した通りロス様の足止めをしていたグリード部隊はほぼ全滅しており、エンヴィーは突破されてしまいましたので…ロス様が合流するのは時間の問題かと思われます」
淡々と偵察の結果を語る玲姫。
やっぱり玲姫さんも、スロウスさんも…グラトニーさんも作られた人形とは到底思えない。
「ここにあの子達が来るのも時間の問題か…。なら尚更さっさとけりをつけないとね」
「2人とも報告ご苦労様」と言うのと同時に琉稀は稀琉の方に向き直った。
「良かったね、キル。まだ君のお友達は誰も死んでないみたいで」
「兄さん…オレは皆を信じてるよ。だけど…これ以上巻き込みたくないんだ。さっきオレが聞いた質問はどうなるか答えを聞いてないよ」
「まぁ、そんな怖い顔するなよ。まず、場所を変えないと」
「場所を…?」
「そうそう。俺が大嫌いなこんな和風な場所じゃなく特別ステージを用意したから」
怪訝そうに聞く稀琉に対し、楽しそうにそう答える琉稀。
それと同時に玲姫が麗弥の居る場所の隣のレバーを引いた。
「なっ!?」
それと同時に麗弥が縛り付けられている壁が仕掛け扉のようにぐるんと反対になり、麗弥の姿が見えなくなる。
「麗弥!?」
「そう大声を出さないでよ、キル。殺したりしてないから。彼に先に行ってもらってるだけだからさ。ほら、俺達も行くよ」
今度は琉稀自身が部屋の左端に向かい、掛け軸の後ろを何やらいじり出した。
すると、そこの壁がまた動きだし、暗い道が現れた。
「さぁ、行くよ」
琉稀に呼ばれ、稀琉はそのあとを追った。
グラトニーと玲姫はその後ろに続いた。
少し歩くと懐かしい、あの植物園に出た。
「…………」
あの悲劇が起こった場所の一部である植物園。
そこには変わらず薔薇が咲き乱れていた。
だが、あのときとは違い黒と赤の薔薇がひしめき合っていた。
「こっち」
顔が真っ青になってきたキルの様子が面白いのか、琉稀は嫌な笑みを浮かべて更に行きたくないあの階段の道を指差した。
「ッ……」
ドクンと心臓が大きく跳ね上がる。
嫌な汗が背中を伝った。
体の芯は冷えきっているのに、頭だけが熱っぽい。
見たくない。
その思いを振り切るように先へ進む。
そして、あのとき以来一度も来ていないあの場所の扉が顔を出した。
ーー行ってはいけない。
そんな声が聞こえるほど、稀琉はその中に入るのに躊躇した。
12年前に…オレが両親を殺して、兄さんを傷付けたこの場所。
自然と体が震えた。
でも…行かなくては。
行ってはいけないという警告を無視し、意を決して中にはいった。
あの時に見たままの形でその部屋は残っていた。
微かな鉄臭さがそこでの出来事を物語っているようだ。
心臓が痛いくらい大きく跳ね上がり続ける。
呼吸することさえやっとといったところだ。
苦しい……頭も痛い。
胸が……張り裂けそうだ。
胃の辺りが熱く、吐き気がしてきた。
そう入っただけで思えるほど、その場所はあのときと同じ姿でキルを迎え入れた。
「更にもっと先に本当の青鬼の間が存在するんだよ」
琉稀の言葉に答えることができない程、稀琉は余裕をなくしていた。
しかしどんどん進む琉稀に必死についていく。
すると、明るく外界の月明かりが差し込む、白い大理石の空間が顔を出した。
その奥に麗弥の姿が確認できた。
「麗弥!」
思わず叫ぶと麗弥はすぐに答えてくれた。
「俺は大丈夫や!」
「よかった……」
安堵する稀琉だが、すぐに琉稀は口を開いてそれをかき消した。
「ねぇ、キル。キルはお友達を助けたいんだよね?」
「うん…。さっきもいった通りこれからオレがどんな目に遭ったとしても…巻き込みたくないんだ」
「なら……そこの床を舐めてくれたら考えるけど?」
「!?」
その琉稀の言葉に驚き、稀琉と麗弥は目を大きく開いた。
「簡単でしょ?床を舐めるだけだよ」
「ッ……」
「さっき自分で言ったじゃないか。なんでもするって」
「ええ加減にせぇよ!そんなことーーグッ!」
「!」
麗弥がそう叫んだのと同時に、麗弥の体に巻き付いていた薔薇の蔓が全身に強く食い込んだ。
「麗弥!!」
「さぁ、どうする…?出来ないなら今、殺しちゃうけど?」
ニヤリと笑った琉稀は稀琉に問う。
「……わか、った」
「稀琉!?そ…そんなん、やらんでええ…!俺なら…大丈夫や!」
蔓が体に食い込んで呼吸が辛いのか途切れ途切れで叫ぶ麗弥。
「麗弥…。大丈夫。オレなら平気。君の失うことに比べたら…全然平気だから」
そう悲しげに笑う稀琉。
「稀、琉…」
稀琉はそれだけ言うと床に膝をついて頭を下げる。
床に舌をつけようと舌を出すが、一度躊躇する。
「アカンて!そんなん…おかしいやんか!稀琉は何も…してへんのに…!」
必死でその行為をやめさせようと叫ぶ麗弥。
麗弥の声を聞いたことにより、稀琉は決心した。
そして、床に舌をつけた。
何度も何度も。
「稀琉…!やめるんや!」
親友のそんな姿に悲痛な声をあげる麗弥。
「フフッ…アハハ!!」
その雰囲気を壊すかのように琉稀は高笑いをした。

