ー稀琉 sideー
「ハァッ…ハァッ…」
クロムと別れてからオレは走り続けていた。
クロム…。
本当に大丈夫…?
腹部から大量の出血をしていた友人の青白い顔が脳裏に浮かぶ。
痛みを感じにくく、出血もすぐ止まると言っていたクロム。
でも…それにしては大きな怪我だった。
前にあの眼鏡をかけた狩人と戦って1人で残ったときも…本当に酷い傷だった。
痛みを感じにくい体だからかクロムは怪我に対してあまりにも鈍感だ。
というよりも、自分の怪我に対して…か。
自分の体を労るということをしない。
そのくらい…クロムは戦いになると覚悟を決めているのだ。
クロムには何か成し遂げなければならない自分の目標があるようだ。
その為なら…きっと死んでもいいと思ってるんだろうな…。
そのくらいの覚悟が彼にはあるんだ。
オレとは正反対だな…。
でも…
ずっと走り続けていたため、足がもつれてきたのも構わずオレは先へと進む。
君が居なくなったら…オレは悲しいんだよ。
オレだけじゃない。
刹那や麗弥…クローにロス。
皆が悲しむんだ。
だから…絶対に死ぬようなことにはなってほしくない。
オレと正反対だからこそ分かる。
クロムは1人で背負いすぎなんだ。
全部自分でどうにかしようとしてるんだ。
…君はオレたちのことを助けてくれてるのに。
この戦いが終わったら…オレが兄さんと…自分自身と向き合った時は…今度はオレたちが君を支えていきたい。
無理をする君を…止めるために。
君は“誰かに死なれたら悲しいんだろ”とよく言うけど…君の言葉の中に君が含まれてないことは知ってる。
君がこの道を選んだその瞬間から…きっと全てを1人でする覚悟を決めたからだろう。
でも、違うよ。
オレの世界には…確かに君の存在もあるんだ。
それをわかってもらえるように。
だから今は…君を信じるよ。
あの道なりならきっとロスもすぐに合流できるはずだ。
君と長く居るロスなら…少しは気を許してるだろうから。
オレはオレの道を全力で突き進むよ。
君が作ってくれたこの道を…崩したりしないから。
自分がやるべきことを…全うする。
稀琉が心でそう思っていた瞬間だった。
ーードクンッ
「う…ッ…!!」
胸に鋭い痛みが走り、目眩がした。
「ハァッ…ハッ…!」
息が苦しい。
激しく呼吸してるはずなのにホースが抜けた空気入れのように酸素が肺に入っていく感覚が分からない。
頭…痛い…。
思考が停止する感覚に襲われる。
くそっ…
意識を朦朧とさせてる場合じゃないのに…!
熱のせいか体は火照り、まるで酷い風邪にかかったかのような倦怠感が、暑いはずなのに寒気が背筋を駆け巡る。
こめかみ辺りが鈍く痛む。
もしかしたら…オレの中の鬼が…目覚め始めた?
あの夢のような蒼い闇がオレの視界を覆おうとする。
だ…めだ…
進まないといけないんだ…オレは。
「負けて…たまるか…!」
目を大きく開け、少しでも外界の光を貪る。
「…!」
その光の先に…目的地である青鬼の間の扉があった。
白く光が反射する扉を見据える。
呼吸が苦しくなってきた。
それはこの不調だけのものではない。
決めたじゃないか。先に進むと。
あの日の真実を…兄さんの思いを確認するためにここまできたんじゃないか。
しっかりしろ!
朦朧とする頭を左右に降ることで闇を払い除ける。
意識が朦朧とする中、稀琉は先の青鬼の間へ入った。
ギィィ…
扉が軋む嫌な音が耳につく。
あぁ…久しぶりだな。
中の光景を見たオレはそう素直に感じた。
和の雰囲気が出ているその場所は豪華な部屋であった。
畳にあちこちに飾られている掛け軸。
奥の襖には蒼い鬼の姿が描かれている。
そのさらに奥。
1番奥であろう場所に人影が2つ。
禍々しいオーラが感じられるそこは少し高くなっており、先程の鬼の間にもあった水晶が左右対称に置かれていた。
「やぁ。漸く来たのかい?キル」
「…兄さん」
人影の1人が声をかけてきた。
その人影は兄さんで、水晶の間に張り付けられているのは麗弥であった。
下を向いていて安否が確認できない。
まさか…
最悪の未来が頭をよぎった時だった。
「稀琉…!」
麗弥はオレに気付くと素早く頭をあげて声をかけてくれた。
良かった…!
生きてた……!
身体中から血を流し、折れていた足も力なくぶら下がっていて無事とは言えない状態ではあったが麗弥は生きていた。
麗弥が生きていたことに一先ず安心する。
「さて、それじゃあさっさとけりをつけようか」
兄さんのその問いに答える前に大きく息を吸う。
胸が…苦しい。
でも、苦しくて当たり前だ。
オレにとって…最大のトラウマと向き合う瞬間だ。
今日までオレは…この事を悔いなかったことなんて一度もなかった。
あの後、夢にも見た。
思い出す度に何度も吐いた。
何度も悔いた。
何度も…死にたくなるほど自分を責めた。
でも、そうやって殻に閉じ籠ってるばかりじゃ…何も出来ない。
だから、向き合うんだ。
…兄さんと。
吸った息を吐き出してからオレはハッキリと返した。
「…そうだね。でも…その前にオレは色々聞きたいことがあるんだ、兄さん」
「…聞きたいこと?」
「そう。そして…麗弥は関係ない、よ。だから、解放して。…オレはどうなっても構わないから」
「稀琉!?」
静かにそう言った稀琉の言葉に麗弥は驚いたように声をあげた。
「四肢を切断されても、薔薇で締め付けられても…何しても構わない、から。兄さんがどんな思いで今まで過ごしてきたのか…オレには想像でしか理解できない」
「……」
黙って稀琉の言葉を聞く琉稀。
「憎まれても仕方ないことをしてたのは分かる。だけど…それに麗弥は関係ない。オレを恨んでいるのなら…オレが全て受け止める。その代わりにオレも疑問だったことを…聞きたい。あの日、何があったのか…オレは何者なのか…なんでこんなことになってしまったのか…知りたいことが沢山ある。だから…それを理解したいんだ!」
強い目をした稀琉はそうハッキリと言葉を発した。
その目には光が宿っていた。
「ハァッ…ハァッ…」
クロムと別れてからオレは走り続けていた。
クロム…。
本当に大丈夫…?
腹部から大量の出血をしていた友人の青白い顔が脳裏に浮かぶ。
痛みを感じにくく、出血もすぐ止まると言っていたクロム。
でも…それにしては大きな怪我だった。
前にあの眼鏡をかけた狩人と戦って1人で残ったときも…本当に酷い傷だった。
痛みを感じにくい体だからかクロムは怪我に対してあまりにも鈍感だ。
というよりも、自分の怪我に対して…か。
自分の体を労るということをしない。
そのくらい…クロムは戦いになると覚悟を決めているのだ。
クロムには何か成し遂げなければならない自分の目標があるようだ。
その為なら…きっと死んでもいいと思ってるんだろうな…。
そのくらいの覚悟が彼にはあるんだ。
オレとは正反対だな…。
でも…
ずっと走り続けていたため、足がもつれてきたのも構わずオレは先へと進む。
君が居なくなったら…オレは悲しいんだよ。
オレだけじゃない。
刹那や麗弥…クローにロス。
皆が悲しむんだ。
だから…絶対に死ぬようなことにはなってほしくない。
オレと正反対だからこそ分かる。
クロムは1人で背負いすぎなんだ。
全部自分でどうにかしようとしてるんだ。
…君はオレたちのことを助けてくれてるのに。
この戦いが終わったら…オレが兄さんと…自分自身と向き合った時は…今度はオレたちが君を支えていきたい。
無理をする君を…止めるために。
君は“誰かに死なれたら悲しいんだろ”とよく言うけど…君の言葉の中に君が含まれてないことは知ってる。
君がこの道を選んだその瞬間から…きっと全てを1人でする覚悟を決めたからだろう。
でも、違うよ。
オレの世界には…確かに君の存在もあるんだ。
それをわかってもらえるように。
だから今は…君を信じるよ。
あの道なりならきっとロスもすぐに合流できるはずだ。
君と長く居るロスなら…少しは気を許してるだろうから。
オレはオレの道を全力で突き進むよ。
君が作ってくれたこの道を…崩したりしないから。
自分がやるべきことを…全うする。
稀琉が心でそう思っていた瞬間だった。
ーードクンッ
「う…ッ…!!」
胸に鋭い痛みが走り、目眩がした。
「ハァッ…ハッ…!」
息が苦しい。
激しく呼吸してるはずなのにホースが抜けた空気入れのように酸素が肺に入っていく感覚が分からない。
頭…痛い…。
思考が停止する感覚に襲われる。
くそっ…
意識を朦朧とさせてる場合じゃないのに…!
熱のせいか体は火照り、まるで酷い風邪にかかったかのような倦怠感が、暑いはずなのに寒気が背筋を駆け巡る。
こめかみ辺りが鈍く痛む。
もしかしたら…オレの中の鬼が…目覚め始めた?
あの夢のような蒼い闇がオレの視界を覆おうとする。
だ…めだ…
進まないといけないんだ…オレは。
「負けて…たまるか…!」
目を大きく開け、少しでも外界の光を貪る。
「…!」
その光の先に…目的地である青鬼の間の扉があった。
白く光が反射する扉を見据える。
呼吸が苦しくなってきた。
それはこの不調だけのものではない。
決めたじゃないか。先に進むと。
あの日の真実を…兄さんの思いを確認するためにここまできたんじゃないか。
しっかりしろ!
朦朧とする頭を左右に降ることで闇を払い除ける。
意識が朦朧とする中、稀琉は先の青鬼の間へ入った。
ギィィ…
扉が軋む嫌な音が耳につく。
あぁ…久しぶりだな。
中の光景を見たオレはそう素直に感じた。
和の雰囲気が出ているその場所は豪華な部屋であった。
畳にあちこちに飾られている掛け軸。
奥の襖には蒼い鬼の姿が描かれている。
そのさらに奥。
1番奥であろう場所に人影が2つ。
禍々しいオーラが感じられるそこは少し高くなっており、先程の鬼の間にもあった水晶が左右対称に置かれていた。
「やぁ。漸く来たのかい?キル」
「…兄さん」
人影の1人が声をかけてきた。
その人影は兄さんで、水晶の間に張り付けられているのは麗弥であった。
下を向いていて安否が確認できない。
まさか…
最悪の未来が頭をよぎった時だった。
「稀琉…!」
麗弥はオレに気付くと素早く頭をあげて声をかけてくれた。
良かった…!
生きてた……!
身体中から血を流し、折れていた足も力なくぶら下がっていて無事とは言えない状態ではあったが麗弥は生きていた。
麗弥が生きていたことに一先ず安心する。
「さて、それじゃあさっさとけりをつけようか」
兄さんのその問いに答える前に大きく息を吸う。
胸が…苦しい。
でも、苦しくて当たり前だ。
オレにとって…最大のトラウマと向き合う瞬間だ。
今日までオレは…この事を悔いなかったことなんて一度もなかった。
あの後、夢にも見た。
思い出す度に何度も吐いた。
何度も悔いた。
何度も…死にたくなるほど自分を責めた。
でも、そうやって殻に閉じ籠ってるばかりじゃ…何も出来ない。
だから、向き合うんだ。
…兄さんと。
吸った息を吐き出してからオレはハッキリと返した。
「…そうだね。でも…その前にオレは色々聞きたいことがあるんだ、兄さん」
「…聞きたいこと?」
「そう。そして…麗弥は関係ない、よ。だから、解放して。…オレはどうなっても構わないから」
「稀琉!?」
静かにそう言った稀琉の言葉に麗弥は驚いたように声をあげた。
「四肢を切断されても、薔薇で締め付けられても…何しても構わない、から。兄さんがどんな思いで今まで過ごしてきたのか…オレには想像でしか理解できない」
「……」
黙って稀琉の言葉を聞く琉稀。
「憎まれても仕方ないことをしてたのは分かる。だけど…それに麗弥は関係ない。オレを恨んでいるのなら…オレが全て受け止める。その代わりにオレも疑問だったことを…聞きたい。あの日、何があったのか…オレは何者なのか…なんでこんなことになってしまったのか…知りたいことが沢山ある。だから…それを理解したいんだ!」
強い目をした稀琉はそうハッキリと言葉を発した。
その目には光が宿っていた。

