Devil†Story

数年前に雨の中をクロムに拾われたクロー。


クローは生まれた兄弟の中で1番年下だったが、他の兄弟とは違って紫色の瞳を持つカラスであった。


本来ならば金色の瞳のカラスが生まれるはずだったのだが、何故かクローは紫色の瞳だった。


そのためか他の兄弟に迫害された。


巣立ちにはまだまだ早く、飛び方の練習もしていなかったクローは巣から落ちれば死に至る。


それを分かっていながら他の兄弟たちは…なおかつくちばしや爪で攻撃をして衰弱させてから巣から落としたのだ。


しかしクローが居た巣のすぐ下には魔界にいくつかある人間界への扉である池があり、そこに落ちたクローは人間界に移動し、衰弱し移動するのもままならずに倒れていたところをクロムに拾われたのだ。


ーお前…1人なのか?俺も…1人なんだー
ー怪我してんのか?傷だらけだな…。…え?他の兄弟にやられた?…俺も一緒にいるやつらに…よくやられるんだ。俺たち似てるなー
ー名前ないのか。じゃあ……クロー。クローにしよう。よろしくな!クローー


当時言われた言葉がクローの頭のなかで再生される。クローはクロムに拾われたこの日を昨日のことのように覚えていた。


雨のにおい。


言われた言葉のトーン。


雨に体温を奪われてて寒かった体が、抱かれた瞬間に暖かくなるあの感覚。


全てを鮮明に覚えていた。


誰かと一緒にいることが、こんなに心地よく暖かいことを初めて知った。


生まれた体が違っても…分かり合えることを初めて知った。


名前をつけて貰って…その名前を呼ばれる嬉しさを初めて知った。


安心できる場所を初めて知った。


誰かのために…力になりたいと初めて思えた。



昔のクロムとは…随分変わってしまった。
それでも…本質的に変わってないと思ってる。あの時のクロムに戻れないことは…クロムの全てを知ってるクローには理解できていた。あの時のクロムに戻るには……あまりにも大きな出来事があったから。


もしかしたら…もっとクロムは闇に近づくかもしれない。


だけど……


この先、クロムが更に変わってしまったとしても…


俺はクロムの側に居たい。


少しでも…クロムの力になりたい。


そう思って今日まで過ごしてきた。


だからこそ…


この事は知られたくなかった。


俺が魔物だと知ったら……一緒にいられなくなるかもしれない。


ずっと普通のカラスとして…過ごしてきた。


だから…怖かった。


この人にだけは…知られたくなかった。


いつかバレることは…目に見えていたはずなのに……。


それでも…この人にだけは知られたくなかったんだ。


家族のようの過ごしてきたこの人には。


もう…あんな思いはしたくないんだ……。


悲しみに満ちているその目はそういったクローの気持ちを全て写し出しているようだった。


「……」


無言でクローを見つめるクロム。少し間を開けてから、クロムはため息をつきながら口を開いた。


「なんだそんなことか。それなら…知ってたぞ」


「!?」


その言葉にクロムを見るクロー。



「いや、正確には思ってた…か。お前は頭が良いし、結構経ってるのに動きや体力も変わらなかったからな。普通じゃねぇのかなと思ってた。だが…なんだよ。そんなことを気にしてたのか?」


「カー…」


「お前は俺といて何年目だ?俺がそんなちっせぇこと…気にすると思ったのか?ったく…冷静になれよ。俺がそんなくだらねぇこと気にする奴だったか?つーか、それ言ったら…俺なんか悪魔と契約してるんだから人間なんかとっくにやめてるんだぞ?しかも周りには醜鬼やら、鬼やら…悪魔がいるときたもんだ。今更だろうが」


そう言うクロムは少しだけ口角を上げ、答えた。


「……!」


クローは驚きのあまり言葉もでなかった。


あぁ……でも、これがクロムだ。


ぶっきらぼうで、不器用だが…姿形で判断しない…。


人間界に来たその日に兄弟から受けたのは体の傷だけではなく…心の傷もだった。


それを緩和してくれたのは…クロムだった。

冷静になればきっと答えは自ずと出ていたはずだったのに…。


俺はそんなことも考えられなかったのか。


この人は…そんなことする人じゃないということを。


頭を下げ、クロムの左顎の部分に擦り付ける。


「カー…」


ーありがとうー


そう言いながら。


「別に。本当のことだ。それよりも…だったら傷の心配もしなくていいな。ここまで来たなら…手伝え。あの餓鬼供を倒すぞ」


「カー!」


クロムの問いに答えるクロー。


「あ~あ~…残念。仲間割れとか期待したのにぃ」


残念そうにソルトはそう言った。


「ハッ…そんなことで仲間割れとかするわけねぇだろ。遊び相手してやるから来いよ。犬っころ」


犬っころは挑発のために使っていた言葉。


狼というところに執着しているソルトにはそれが一番効果があると思ったからだ。


案の定、ソルトはムッとしながら答えてきた。


「だーかーらー…僕は狼だッ!!ミシェル!ゼノ!さっさと片付けちゃおう!」


「うん!」
「分かった」


ソルトの言葉に2人は答える。


「ほら。さっさとこいよ」



「すぐ治るだろうから…半殺しにして連れていってやるよ!」


そう言ったソルトは膝を曲げ、力を込めてから地面を蹴った。


来るか。


クロムは剣の柄を握り直しつつ構えた。


「四肢の骨を全部噛み砕いてやるッ!!」


そう言って更にスピードを上げ、飛び込もうとした瞬間だった。


ーーゾクッ


「!」



「「「!?」」」


上から物凄い冷たい力を感じた。


まるでそこだけ重力が変わったかのような圧力であった。


その力を感じ、ソルトが上を見たのと同時だった。


「ガッ…!!」


ソルトの左頬に何かが降ってきて、地面に叩きつけられた。


「な…なに…!?」


ミシェルが驚きながらそう言った。


クロムとクローにはその正体がわかっていた。


そこに居たのは…


「…ロス」


クロムを探していたロスであった。


その姿は人間の姿ではなく、翼を生やした悪魔の姿であった。


「……」


普段のロスとは比べることができない程、険しい表情をしているロスは無言でソルトを見ていた。


その目は紅黒く光っていた。