Devil†Story

「お前…怪我は?」


「カー」


クロムの問いに素直に答えるように鳴くクロー。


その声に耳を傾ける。


クロムにだけ分かるその声が耳から入り、その意味を脳が理解する。


「……かすってただけ…だと?そうは見えなかったが…」


あの時、確かに麗弥の拳がクローに当たっていた。それも操られていた為に本気でやった麗弥の拳がだ。


「男は中身と同じく外見も鍛えなアカン」

と言って、カフェ内にある訓練棟のトレーニング器具で鍛えていた為、従業員の中でも体力も筋力はある方であった。仮にかすっていたとしても、骨の細い翼部分に当たれば骨折していてもおかしくない。


しかしそれ以上に確かに当たったように見えた。理由として麗弥の拳が当たった直後、クローは壁に叩きつけられ飛び方がおかしかったからだ。何より片翼だけで飛んでいたのがその証拠だ。普通なら1ヶ月は飛べない状況に違いない。



しかしここまで飛んできて、更に普段と同じように動いていたクローにクロムは疑問を覚えた。その時、目を擦っていたソルトの情けない声が聞こえた。


「あぁ~…また犬みたいな声出しちゃったよぅ…」


翼が眼球に入ったのかしきりに前足で器用に目を擦っていた。


「あれぇ?」


今まで黙っていたミシェルが首を傾げながらクローを不思議そうに見た。


「おかしいなぁ…カラスさんはあの眼帯のお兄さんを操った時に…本気で叩きつけたんだけどなぁ…。手応えもあったのに、もう飛べるなんて…普通のカラスさんはあり得ないよねぇ…」


ピクッ


そのミシェルの言葉に微かに反応するクロー。


やはり本気でやられたのか…。


それなのに何故?


それにあの餓鬼の言葉に…僅かだが取り乱したな…。


なんでだ?


ミシェルのその言葉にクロムの中の疑問が大きくなった。


「あ~。やっと痛みがなくなったよぅ」


目潰しが治ったソルトは顔をあげる。


「んもぅ!痛いじゃないかーー」


そこまで言ってクローを見たソルトは言葉を切った。


「…あれ?そのカラスーー「カァー!!」」


ソルトが何かを言いかけた瞬間、それを遮るように大きな声でクローは鳴いた。


「…クロー?」


「カーカァー!!」


不思議に思い、クローの名を呼ぶクロムだが、クローは必死に鳴いていて呼び掛けには反応しない。


ー黙れー
ーそれ以上言うなー


そう叫びながら。明らかに何かを隠そうとしているクローの様子に暫く唖然としていたソルトだが、その意味を理解したのかやがてニヤリと笑った。


「何?言ってなかったの?随分必死だねぇ」


「カァー!」


ーうるさい!ー


ソルトの問いにそう答えるクロー。


もちろんソルトにはその言葉の意味は分からない。


クロムに隠し事をしているのなら、その言葉の意味が分かるクロムの前でそんなことを言うはずがないのだが、それに気付かずにそう言っている。


普段のクローならそんなヘマをすることはないのが、それに気付かないくらい取り乱してるのだ。


「駄目でショー?飼い主に隠し事をするなんてー」


「カー…!」


その言葉に怒りを覚えたのか怒りに任せてタックルしようと前に飛び出そうとするモーションに入った。


「!」


先程は油断していたソルトだが、いくらなんでも単体で突っ込むのは危険であった。


「やめろ!クロー!」



クロムはそう叫ぶが言葉だけでは止まりそうになかった。そのくらいの怒りだった。


「ちっ」


そして、先程のように回転しながら突っ込もうとしたクロー。スピードが上がった瞬間、その前に人影が飛び出してきた。


「!」


その影を避けようとしたクローだったが間に合わず、その人影にぶつかる。


「ッ…」


人影が小さく声をあげる。


「!!」


そしてクローはすぐにその人影が誰なのか気付いた。くちばしに温かい赤い液体が伝っていく感触にクローは自分の血の気が引いていくのが分かった。


「落ち着けクロー」


その人影が発した言葉に一気に我に返る。


そう。その人影は自分の飼い主であるクロムだったからだ。怒りで我を忘れていたクローだったが、その怒りが消えて自分がクロムの右腕にぶつかったことを理解した。



怒りに任せて全速力で突っ込んで行った為に右腕にくちばしが刺さり、そこから血が溢れていた。慌てて腕からくちばしを抜くクロー。その感覚に僅かに眉をひそめるクロム。



「カ…カー…」


謝るクローに静かにクロムは言った。


「気にするな。だが、怒りに任せて攻撃したら…怪我じゃ済まなくなるぞ。なんでそんなに怒ってるのか知らんが…落ち着け。あんな餓鬼の挑発に乗るなんてお前らしくねぇぞ」


クロムのその言葉に冷静さを取り戻すクロー。そして申し訳なさそうにクロムの肩に止まり、怪我をさせてしまった右腕を労るようにくちばしを擦り付ける。


「お前にやられた怪我なんて…怪我にはいんねぇよ。いいから気にするな」


左腕でクローの頭を撫でる。その様子を見たソルトはつまらなさそうに呟いた。


「ちぇー。折角楽しかったのに~」


「…で?何を言ってやろうと意気込んでたんだ?」


「!?」


クロムのその言葉に項垂れていたクローは頭をあげた。


「ほら言ってみろよ。犬っころ」


「カ…カー…!」


嫌だと言うクローにクロムは答える。



「こんな犬っころの言うことだ。たかが知れてるだろうが」


「…へぇ?なら、教えてあげるよ!」


ニヤリと笑ったソルトがそういうのに対し、クローは悲痛な声をあげる。


「そのカラスは…“ヤタガラス ”って言ってね!魔界に住むカラスさ!どうして下界になんて来てたのか知らないけど…そのカラスも魔物だよ!」


「ッ…!!」


そう言われたクローは悲しげに目を潜めた。