Devil†Story

ーークロム side


高く振り上げた左手が一気に降り下ろされる。


心臓まであと10cmといったときだった。


ーードクン


「!?」


鼓動が高く鳴り響いた瞬間、体を襲っていた痛みが消えた。


それと同時に降り下ろすのをやめる。


「ハァ…ハッ……」


何秒か呆然とする。


そしてようやく、先程までの痛みが消えたのだと頭の芯まで理解し、思わず長い息を吐きながら、ズルズルと壁に背中をつけて座り込んだ。


「ハァ…ハァ…ったく……」


嫌な汗が背中を伝う。


コートのファスナーを下ろし、中に着ていた服を引っ張り血印を確認する。


まだ血印の回りには血管が浮き出て、脈打っている。


「ハァ…あいつ……後でぜってー殴ってやる…」


俺がこれを嫌いだって知ってて…ふざけやがって。


左手で顔を押さえる。


いくら苦手といっても、そこに多少の痛みがあっても普段は我慢出来るが、今日はかなり強いものが2回も襲った。


流石のクロムも、この痛みを苦手としているのもあるが体だけではなく、気持ちの面でもダメージを負った。


何分か顔を覆ったまま座り込んでいた。


「ハー…」


再び大きく息を吐いたクロムは、のそのそと立ち上がった。


「……」


もう出血は止まっているが先程ナイフで突き刺した右手の掌を見つめる。


「……クソ。余計な怪我した……。剣を持つ手は右手だってのに…」


クロムは両利きであったが、それぞれやるときの利き手は決まっていた。


字を書くときや食器を持つときは左手で、投げたり、受け取ったり…剣を持つ手は右手であった。


外傷的な傷の痛みには慣れているが、それでも突き刺すような深い傷を負っていれば使いにくい。


「だが…さっさと行かねぇと色々と面倒だ」


つーか、もうここで待機すんのも面倒だし。


コートのファスナーを上げ、元のように戻したクロムはそのまま先に進んだ。


また長く続く廊下を進みながら状況の整理をする。


七つの大罪となれば…あのデブとガラクタ野郎を抜いても…残り5人は控えてるってことだ。


まぁ、稀琉の兄貴についてたあの女は、最終戦まで出てこねぇだろうから数に入れないとして…


さっきの感じだとロスも戦ってただろうから…残り3人か。


俺等の足止めをさせられてるんだろうから…後何回戦か残ってるって事だな。


正直ニセモンの命を奪っても楽しくねぇからさっさと終わらせる。


ただあのデブが言ってた魔物の奴等は…聞き出せることを聞き出してから殺さねぇとな。


大体の状況をまとめ、先へ延びている通路を歩きながらクロムは右手に手袋をした。



暫く歩いていると先に開けた場所が見えてきた。


その先には殺気が充満している。


2回戦目か。


上等だ。


白い壁の入り口をくぐった。


そこは真ん中に白い石碑のようなものがあり、天井はガラス張りになっていた。


奥に噴水があり、その後ろに道が続いているようだった。


クロムが数歩、石碑に向かって進んだときだった。


「ハーイ★こんばんはぁ♪」


「!」


上から、先程のようにその場に似つかわしくない軽い感じの声が聞こえてきた。


上を見ると石碑の上に2人、男女の子どもが座っている。


女の方は金髪にツインテール、男の方は前髪がぱっつんで2人とも、なんともチャラチャラした服を着ている。


…こいつらが、麗弥に傷を負わせた魔物のガキ共か。


「待ってたよー☆」


男のガキがそう言うのと同時に2人は石碑から降りてきた。


「…お前らが麗弥のことを襲った奴等だな?」


「大正解★ミシェルはドールテーマーだよ♪そーしーてー…」


「僕が狼族のソルトでーす!よろしくねー!黒髪のお兄さん♪」


まるで何かのミュージカルのように互いに手を合わせながら、おちゃらけて自己紹介する。


麗弥を簡単にやったから、余程自信があるんだろうな。


「お前らは稀琉の兄貴の組織というよりかは…あの吸血鬼や死神と同じ組織のガキ共だろう?なんで、こんなとこにいる?」


「あー、ガキだってぇ。こうみえてもミシェルは100年以上生きててお兄さんよりも年上なのに…。失礼しちゃうなぁ、ぷんぷん!」


ガキと言われたのが余程嫌だったのか、ツインテールが頬を膨らませて怒っていた。


……仮に俺より年上なら…その行動は理解に苦しむところだが。


「まぁまぁミシェル。そこは流せないけど置いとこうよ。目的はもちろん…お兄さんに来てもらうためだよ♪」


キィキィ喚くツインテールを宥めつつ、ウィンクをしながら俺の問いに答えたぱっつん。


「何年か前に…たまたま人間界にお勉強しに行った時に琉稀サマと会って面白そうだからちょっと契約したんだよねー」


「そーそー。あの子…れーきちゃんを作ってたとこだったからミシェルはその方法を教えて…その代わりに出入りは自由+ここらへんの情報を教えてもらうってことで」


「ミシェルが優秀だから、他のドールも上手に出来てたでショー?★」とどや顔で聞いてもいない話までしてきた。


「ぶっちゃけ琉稀サマとの契約は暇潰しだったからその時は殆ど行けなかったんだけど…。僕たちがちょっと事情があって…黎音様に助けられてそっちの組織を主に琉稀サマのところにちょこちょこ情報を聞きにいってたら琉稀サマの弟の…キルサマ?と一緒にいるお兄さんたちの情報を手にいれて今に至るって感じかな♪」


「今思うと本当ラッキーだったよねー♪琉稀サマとあったお陰でお兄さんたちの情報分かったし♪」と嬉しそうに語るぱっつん。


なんでバレたのかと薄々思っていたがこういうことだったか。

それなら始めに麗弥と稀琉の名前がこいつらに漏れてたのも、直接俺のとこに初めから来なかったのも納得出来るな。


「なるほどな。だが…俺は簡単には行かないぜ?あの馬鹿みたいにーー……」


そこまで言いながらくるりと回りながらその場から避ける。


後ろには麗弥の時と同じようにゼノがナイフをかざして突っ込んできていたところであった。


その横を通過し、後ろを振り替える。


「ーーガキが相手だと油断してねぇからな」


くるりと回りながら避けたときに一緒に抜いていた剣を横に振るうとそいつは後ろに飛び、斬激を避けた。


「あぁーん、避けられちゃったかぁ…。流石に同じ手は使えないかぁ…」


残念そうに呟くツインテールに、男は「…状況もバレてるからな。そう簡単にはいかないかもしれない。だが、大丈夫だ。そんなに気にするな」と慰めていた。


「ねーねー。出来れば僕ら現代っ子だから痛いのやだし、事を荒げるのは避けたいんだけど…やっぱり素直にはついてきてくれないのかな?」


ぱっつんが首を軽く傾け、唇に人差し指をつけながら聞いてきた。

「そんな簡単にはいって聞くなら…とっくに今頃お前らんとこに行ってるだろ」



そう言って突き放すと餓鬼2人は「えぇ~…残念」とがっかりした後、ニヤリと笑ってこっちを見た。


「仕方ないなぁ…じゃあ悪いけど痛い思いをきてもらうよ?」


「後悔しても遅いからね?お兄さん♪」


そう言って2人のガキは先程より強いめ殺気を出してきた。


「上等だ。さっさと片して…終わらせてやる」


俺も剣を握り直しながら臨戦態勢に備える。


「僕は狼族のソルト!白狼のソルト・S・ホワルフだ!」


「ミシェルはドールテイマー族のミシェル・D・ドーラーだよ★あと、この子はミシェルの1番お気に入りのお人形…ゼノとみかづきちゃん★お兄さんの名前を改めてだけど教えてぇ?♪」


傍らにいた男と持っていたツギハギ兎の名前を言いながら聞いてきた。


「……クロムだ」


答えると嬉しそうに2人は「答えてくれたね!」ときゃっきゃしていたがすぐに臨戦態勢に戻る。


「よろしくね、クロム♪」


「黎音様の為にも…やられてよね!」



まだ体が本調子でないにも関わらず。クロムは構えた姿勢のまま様子を伺った。