Devil†Story

ゆっくりと後ろを振り向くと、よろけながらも立ち上がろうとしているおねーさん。


「まだ…決着はついてないわよ」


立つのもやっとといった感じなのに鞭を構える。


「…おねーさん。決着なら…ついたと思うけど?…死んじゃうよ?」


流石に先程のような状態にはならないが、命を刈りたい俺にそんな魅惑の一言を言う。


「アタシが受けた命令は…キル様以外の部外者の排除よ。その為に戦って死ぬのなら…本望よ」


「さぁ、早く楽しい戦いをしましょ?」と今にも消えそうな笑顔で言うおねーさんに不覚にも美しさを覚えた。


「…そうだな。いいよ、おねーさん。決着つけちまおうぜ」


深く深呼吸をしてから俺は内側に潜む黒い感情を隠すようにニコリと笑う。

「そうこなくっちゃ!悪魔なんですっけ?でも、ただでは負けてあ・げ・な・いわよ★」


ウインクをしたおねーさんはすぐに地面を蹴った。


それと同時に俺も地面を蹴る。


ドールとはいえ痛覚はある。


腹に刺し傷があるおねーさんと戦うのは…長い時間ではない。


それを証拠に防戦一方のおねーさん。


切れて短くなった鎖のリーチでも…余裕に勝てるほど。


先にナイフがついたままだった為、そのまま戦っている。


どれだけ傷ついても諦めないおねーさんの姿は…やはりそこらへんの適当な女よりも美しいと思った。


そんなことを何処か遠くで思いながらも、ロスは確実に彼女を追い込んでいったーー。





ーーこれがきっとアタシのラストバトル……。


鞭を操りながら密かにそう思う。


アタシは嫉妬のドール。


だから、笑って楽しい雰囲気を出してはいるけど本当に楽しくて笑ってるわけではない。


それに、怒りや悲しみも…なんとなくこうかなとは思うけど嫉妬以外の感情は殆ど分からない。


怒るのも、悲しむのも、笑うのも……真似してるだけ。


それは怜姫以外のドールも同じ。


怜姫は…それを出すのが下手だけど。


ともかくそれ以外はみーんな、真似だけしてる。


不完全な存在。


…きっとアタシたちみたいな存在は悲しいのよね。


特にグリードちゃんたちなんかは本当に人形みたいだし。


まぁ、アタシたちにはその感じがイマイチ分からないけど……


そう考えてる間にも腕や、足に切り傷が増えていく。


それでも、彼女は諦めずにロスに立ち向かっていく。



…例え、ここでこの悪魔の子を倒して、これから生きたとしても…一生分からない。


それでも…この子とのバトルはきっと…楽しかったわ。


途中ちょっと…いえ、これもなんとなくだけど怖かったけど。それでも楽しかったわ。


きっとアタシはこれが終われるときには…消えてるでしょうけど。


スロウスや、グリードちゃんたち……あの魔物のミシェルちゃん、ソルトちゃんと…「オカマだー!」「なによー!!」とふざけあう真似をすることももう訪れないでしょう。



顔に向かってきたナイフを完全には避けきれず、右頬が切れてそこから血飛沫が上がる。



アタシたちのような不完全な存在はきっと…この子たちにはどう足掻いても勝てないのは知ってる。


琉稀様が、本当はアタシたちを道具としてしか見てないのも知ってる。


それでも……琉稀様の為にも…一矢報いらなきゃ。


どんな理由であっても…アタシは必要とされて創られたのだから。


琉稀様の為に…


そう彼女は胸の中で呟いた。



「ハアァァ!!!」


叫びながら渾身の一撃に全てを賭けるエンヴィー。


上から下に向かって腕を振るった。


「………」


その時、ロスは立ち止まった。


「!?」


そこにいれば確実にその攻撃が当たるのにだ。エンヴィーは驚いたが、もう止めることすら出来ない。


バシンッと音をたてて鞭はロスの体に当たった。


「ア、ンタ…」


ツゥと額から血が流れる。


それ以外の外傷は見当たらないが左肩から右足の太ももあたりには確実に鞭は当たっていた。


「……」


そして無言のまま…右手を前に突き出しその先に付いていたナイフをエンヴィーの胸に放った。


「ッ…!」


ナイフは胸に突き刺さり、体を突き抜けて行った。


ブシュッと血が吹き出したのと同時にロスは目の前に一瞬できた。


「…さっきのは、その前に俺がやっちゃった分ね」


「!!」


そう呟くのと同時に、右手でもう一度その体を貫いた。


「…!」


体から右手を引き抜くのと同時にナイフも抜けていった。


その瞬間、エンヴィーはグラリと地面に倒れた。


「……」


倒れているエンヴィーを見てから先に進むべく、その横を歩き出すロス。



「…楽しかった、わよ」


「!」


背後から聞こえたその声に歩みを止める。


「正直分からないけど…そう思えたわ。その先…道沿いに行けば…キル様とあの黒髪の綺麗な子が行った道と…一緒になってる…場所に出るわ…。その更に先に…琉稀様と眼帯の子が…居るはずよ」


体から血液が出ていく…冷たくなっていく体温を感じながらエンヴィーはそう言った。


「…なんで教えてくれたの?」


「さぁ、ね。アタシにも分からないわ…。でも、言いたくなったの」


微笑みながらエンヴィーはロスの問いに答えた。


「そっか」


「えぇ。まだ計画では…眼帯の子は殺されてないはずだから…今行けば間に合うわ。ただ…さっきの合流地点には…魔物の子2人配置されてるだろうから…キル様はともかく、黒髪の綺麗な子1人ではきついと思うから早く向かった方がいいわよ」


「分かった」


「それじゃあ…さよならね」


胸を貫かれ、呼吸が苦しいのかゆっくり深呼吸をして目を瞑る。


「…今度会うときは本当の命で…俺に殺させてね?おねーさん」


「!」


ロスのその言葉に目を開けるエンヴィー。


その紅く黒い闇が覆っている目と目が合う。


それはただの人形で、魂を持たないものにとっては…夢のような話であった。


感情があれば、きっと嬉しいんだろうなと思いながらふふっと笑う。


「そう、ね。やっぱり…アンタは心もイケメンくんね。是非…また会いましょう…?」


「あぁ。じゃあね、おねーさん」


「さようなら」


別れの言葉を言うとロスはまた歩き出し、そのまま道なりに進みやがて消えていった。


「……」


今度会うときは…だって。


また殺されるのはちょっとやだけど…でも、楽しみにしちゃお。


きっと…気休めに言ってくれただけなのは分かってるけど。


「…ふふ」


微かに笑ったのと同時にそのまま意識を暗闇に持っていったエンヴィー。


こうして2体目のドールも静かな人形へと戻った。






その頃、道なりに消えていったロスは額から流れていた血を袖で拭った。


ーー心もイケメンくんねーー…ね。


悪魔の俺に…そんなこと言った奴は初めてだ。でも、避けられる攻撃を避けないで受けようなんて…俺も年で甘くなったかね?


だが…


ーー魔物の子2人が配置されてるーー


魔物の子ってことは…あっちの奴等だよな。


しかも…俺よりクロムが先にそっちに着くように計算されてるだろうから、クロムはもう戦ってるんだろうな。


戦いの最中に入るのは初めてになるな。


さっきの様にならないようにしないといけないけど…俺の許可なく…勝手に行動したその罪を分からせてやらないとな。


エンヴィーと戦う前まで感じていた怒りを思い出し、また怒りがロスの中を支配する中…ロスは足早にその場所へ向かって行った。