その後、風呂から出たクロムとロスは別室にとっていた部屋に向かった。その時点で22時を過ぎていた。欠伸をするクロムに「そりゃ眠いだろうな。シャワーで1時間以上入ってりゃ」とロスは悪態をついた。
「うるせぇな。あの匂いしつこ過ぎるんだよ」
頭をかきながら言い返す。どうやら髪の毛に匂いがかなりついていたようで長風呂をしていた様子だ。
「お前の髪が長すぎるんだろ。ドライヤーにも30分以上かけやがって」
「ほっとけ。さっさと済まして俺は少しでも寝てぇんだよ。ギャンギャン喚くな」
番号入力式の鍵の番号を手早く打ち込んで眠そうなクロムは乱暴に部屋に入った。
「おねむのクロムくんよ。こっからは演劇の時間だぜ」
「いちいち分かりきったこと言うな」
眠くて機嫌が悪いのか普段より更に不機嫌、乱暴な口調でズカズカ部屋に入っていく。そこからは敢えて少しカーテンを開け、そこにいる人影に何かを報告する振りをする2人。しばらくして部屋を後にし、用意された仮初の自室に戻った。すぐにコートを脱いでベッドに横になる。
「お疲れ〜。いやー…すげぇ茶番劇だったな」
ソファに寄りかかり背伸びをしたロスが思い出したかのように笑い始める。
「…舐めてんのか、あいつは」
目元を手の甲と手首で覆うように乗せ溜め息をつく。報告部屋にいたのは探索専門の従業員で何かの取引をするような振りをしていた。実際は部屋の中に通信機があり、刹那と小一時間雑談(ほぼネット対応の愚痴)をするハメになったのだ。時刻は23時を過ぎていた。
「いや〜見事にやり返されたな。刹那に。あんなに愚痴ってくるとは。俺は聞き流せるけどお前は眠いのもあってイライラ隠しきれてなかったな。上司役の従業員殺すんじゃないかってくらい睨みつけてたし」
「可哀想に。めっちゃ怯えてたよ」とクロムが睨みつけられた上に演技中で動けなかった哀れな従業員を思い返す。顔面蒼白で常に小刻みに震えていた。時折クロムが机を蹴る度にビクリと体が跳ね上がっていてまるで猫に…いや、虎に追い詰められた鼠状態であった。ぶつぶつと「すみません…すみません…俺じゃないんです…オーナー…お願いもう黙って…俺を解放して…」と小声で謝罪と悲願する姿はあまりに気の毒だった。彼はいまだにカタカタ震えており部屋の中に座り込んで「もう二度とオーナーの茶番劇に任命するのはやめてください!!特にクロムさんとの!命がいくつあっても足りません!!」と半泣きで刹那に報告しているところだった。
「知るかよ。もう少し長く刹那が馬鹿言ってたら殺してやるところだった」
「可哀想〜。あいつだって仕事で座ってなきゃならなかったのに〜」
「うるせぇ。……そういえば見てたな」
目元を腕で覆ったまま、突然話の流れを切って先程の茶番劇中のことを思い返していた。ちょうどイライラし始めたあたりから反対側のマンションの屋上に気配を感じていた。
「いたな。ここで問題だ。何人居た?」
「4人だな」
「上出来だ」
パチパチとわざとらしく拍手を送るロスを無視し、気怠い声で答える。
「様子見てるっぽいから俺は少し寝る」
「はいはい」
そのまま目を瞑りクロムはしばしの眠りにつくことにした。
―深夜―
部屋には静かな寝息しか聞こえない。
「よし……。あのガキだな…」
カーテンの隙間から部屋の中を覗く4人の怪しい人影。
「随分立派な所に住んでんな。よっぽどいいとこのお坊ちゃんってか?」
「まぁ、いいさ…。とりあえず……さっさと終わらしちまおう」
「そうだな…。おい、そっち開いたか?」
通信機で連絡を取る。
「待て……。よしっ、開いた。今から、すぐそっちの鍵を開ける」
「了解」
カチャッ……
玄関の鍵が開いた。
ーたかが高校生くらいのこどもを、少し痛めつけて拉致するだけの簡単な任務ー
彼等はこの時まではそう思っていた。…しかし、その扉の先で、まさかとんでもない恐怖を味わうことになるなど微塵も想像していなかった。
ーーパタン
無情にも最後の1人が部屋に入ると、扉は勝手に閉まる。彼等が平凡な日常と別れを告げた瞬間であった。飛んで火に入るなんとやら。そんな事とはつゆ知らず、男達はそれぞれの位置へ向かった。
「うるせぇな。あの匂いしつこ過ぎるんだよ」
頭をかきながら言い返す。どうやら髪の毛に匂いがかなりついていたようで長風呂をしていた様子だ。
「お前の髪が長すぎるんだろ。ドライヤーにも30分以上かけやがって」
「ほっとけ。さっさと済まして俺は少しでも寝てぇんだよ。ギャンギャン喚くな」
番号入力式の鍵の番号を手早く打ち込んで眠そうなクロムは乱暴に部屋に入った。
「おねむのクロムくんよ。こっからは演劇の時間だぜ」
「いちいち分かりきったこと言うな」
眠くて機嫌が悪いのか普段より更に不機嫌、乱暴な口調でズカズカ部屋に入っていく。そこからは敢えて少しカーテンを開け、そこにいる人影に何かを報告する振りをする2人。しばらくして部屋を後にし、用意された仮初の自室に戻った。すぐにコートを脱いでベッドに横になる。
「お疲れ〜。いやー…すげぇ茶番劇だったな」
ソファに寄りかかり背伸びをしたロスが思い出したかのように笑い始める。
「…舐めてんのか、あいつは」
目元を手の甲と手首で覆うように乗せ溜め息をつく。報告部屋にいたのは探索専門の従業員で何かの取引をするような振りをしていた。実際は部屋の中に通信機があり、刹那と小一時間雑談(ほぼネット対応の愚痴)をするハメになったのだ。時刻は23時を過ぎていた。
「いや〜見事にやり返されたな。刹那に。あんなに愚痴ってくるとは。俺は聞き流せるけどお前は眠いのもあってイライラ隠しきれてなかったな。上司役の従業員殺すんじゃないかってくらい睨みつけてたし」
「可哀想に。めっちゃ怯えてたよ」とクロムが睨みつけられた上に演技中で動けなかった哀れな従業員を思い返す。顔面蒼白で常に小刻みに震えていた。時折クロムが机を蹴る度にビクリと体が跳ね上がっていてまるで猫に…いや、虎に追い詰められた鼠状態であった。ぶつぶつと「すみません…すみません…俺じゃないんです…オーナー…お願いもう黙って…俺を解放して…」と小声で謝罪と悲願する姿はあまりに気の毒だった。彼はいまだにカタカタ震えており部屋の中に座り込んで「もう二度とオーナーの茶番劇に任命するのはやめてください!!特にクロムさんとの!命がいくつあっても足りません!!」と半泣きで刹那に報告しているところだった。
「知るかよ。もう少し長く刹那が馬鹿言ってたら殺してやるところだった」
「可哀想〜。あいつだって仕事で座ってなきゃならなかったのに〜」
「うるせぇ。……そういえば見てたな」
目元を腕で覆ったまま、突然話の流れを切って先程の茶番劇中のことを思い返していた。ちょうどイライラし始めたあたりから反対側のマンションの屋上に気配を感じていた。
「いたな。ここで問題だ。何人居た?」
「4人だな」
「上出来だ」
パチパチとわざとらしく拍手を送るロスを無視し、気怠い声で答える。
「様子見てるっぽいから俺は少し寝る」
「はいはい」
そのまま目を瞑りクロムはしばしの眠りにつくことにした。
―深夜―
部屋には静かな寝息しか聞こえない。
「よし……。あのガキだな…」
カーテンの隙間から部屋の中を覗く4人の怪しい人影。
「随分立派な所に住んでんな。よっぽどいいとこのお坊ちゃんってか?」
「まぁ、いいさ…。とりあえず……さっさと終わらしちまおう」
「そうだな…。おい、そっち開いたか?」
通信機で連絡を取る。
「待て……。よしっ、開いた。今から、すぐそっちの鍵を開ける」
「了解」
カチャッ……
玄関の鍵が開いた。
ーたかが高校生くらいのこどもを、少し痛めつけて拉致するだけの簡単な任務ー
彼等はこの時まではそう思っていた。…しかし、その扉の先で、まさかとんでもない恐怖を味わうことになるなど微塵も想像していなかった。
ーーパタン
無情にも最後の1人が部屋に入ると、扉は勝手に閉まる。彼等が平凡な日常と別れを告げた瞬間であった。飛んで火に入るなんとやら。そんな事とはつゆ知らず、男達はそれぞれの位置へ向かった。

