「ハァッ…ハァ…」
稀琉は走っていた。
オレのせいで……!
無我夢中で暗闇を走っていた時だった。
「稀琉!!」
「!」
刹那の声がした。
立ち止まって振り替える。
そこには、刹那とロスがいた。
「稀琉…」
刹那の心配そうな声が耳に届く。
きっとオレは涙目なのだろう。
凄く心配そうだ。
「刹那…ロス…」
「まだ、怪我が完治した訳じゃないんだから…走っちゃ駄目だよ」
敢えて触れない刹那。
本当に優しいんだから……。
「いや…怪我は…大丈夫……」
そう消えるような声で答えるのが精一杯であった。
麗弥が、傷付いたのは……オレのせい。
いくら、皆が違うと言ったって……。
稀琉は、誰とも目を合わせようとしなかった。
さて、どうしたものか…。
そう考えている刹那だったが、中々良さそうな声掛けが出来ずにいた。
「……はー」
そんな中ロスが溜め息をつきながら、稀琉に近付いた。
「……なぁ、稀琉。稀琉は、何をそんなに怯えてるの?」
「えっ…?」
やっと稀琉がロスの顔を見た。
その瞳に映るロスは、いつもと同じ…読めない微笑があった。
「今の稀琉はまるで猫に追いやられた鼠みたいだからさ。何をそんなに怯えてるの?麗弥が大怪我をして死にかけたこと?それとも、お兄さんがまた稀琉の目の前に現れて稀琉を苦しめようとしてること?俺らが…この場所がなくなって自分の安心できる場所がなくなること?」
「ロス?!」
刹那は、何を言い出すのだと驚いた様子だったが、ロスはそのまま続ける。
「だってそうでしょ?今、刹那が稀琉を呼んだときの反応…完全にそうだったよ?それとも、他に何か恐れることがあるって言うの?」
「そ…れは…」
また目をそらしてしまう稀琉に、ロスはもう一度溜め息をつきながら言った。
「きっとクロムも麗弥に言ってると思うけど…。確かに稀琉のお兄さんは、稀琉のことを恨んでると思うよ?そして、そんな稀琉の小さな幸せの種になってる俺等も、この場所も。でも…今回はたまたま“稀琉のお兄さんが出現して、その刺客が麗弥を襲った”のが重なっただけでさ。いつだって俺達は誰かに狙われる危険な一本道に立たされてるんだよ」
「……」
その意味をなんとなく理解した稀琉は、ロスの顔を見つめた。
「稀琉なら分かるだろ?俺たちが今までしてきた事を。その身に1番染み込まされて痛いほど理解してるのは、稀琉だと思うから。
今まで俺たちが命を奪ってきた人たちの…屍の後を俺達は通ってるんだよ。でも、それは俺達には関係のないことじゃなくて…その道を作り出してるのは今までは俺たちだけだっただけで、その道の屍になる可能性だっていつだってある。それは、普通の人間にも言えることでしょ?いつ、病気になるか分からない、いつ通り魔にあって殺されるか分からない。いつ事件に巻き込まれるかもしれないし、いつ事故にあうかも分からない。皆、それぞれの十字架を背負ってその道を歩いてるんだ。天命がつきるまでね。その道が俺達は狭いんだよ。だから、他の人間より…屍になる可能性が高い道に俺達は歩み続けてるんだよ」
「道……」
思い返せば暗い道ばかりを歩んできた。
血にまみれ、血のついた身体で歩き続けたその後ろには血と死体が落ちていた。
そんな中、先が少しずつ明るくなってきた。
刹那に会って、麗弥に会って…クロムとロスに会って。
だから、この間までは幸せすぎるくらいの時間が…道がそこにはあったんだ。
でも、俺についたあの事件という重りがそれを許さなかっただけだ。
でも…それは、他の人だって同じことだろう。
「また今度ね」
そう言って別れた恋人が事故に遭って突然いなくなるかもしれない。
「いってらっしゃい」
そう言って見送った我が子が帰らぬ人になってしまうことだってあるかもしれない。
ちょっとした口喧嘩をして別れた両親がその喧嘩で出るのが遅れたせいで何かがあってもう二度と会えなくなってしまうことだって…
でも、皆はそれぞれ前を向いて歩いてるんだ。
オレたちは…他の人よりもそうなる可能性がある茨の道を…傷付きながら自分で選んで進んでいるんだ。
「……」
ギュッと服をつかむ手に自然と力がこもる。
「それに、きっとさ。麗弥は、クロムに怒鳴り付けられてる思うよ?」
「えっ…?」
「“テメェが弱いせいで、勝手にやられただけだろ”……ってね」
「!」
ロスの言葉でやっと先程の麗弥の状態が分かった。
アレは…麗弥は、オレを責めさせる原因を自分が作ったことを…悔やんでいたのだと。
「確かにきっかけは、稀琉の過去が絡んでたかもしれない。でも、ただそれだけなんだよ。その道の中で…麗弥は襲われて怪我をしてしまっただけ。稀琉のお兄さんだって稀琉を苦しませようとしてるだけで、誰だって良かったと思うよ。そのターゲットに麗弥はなってしまっただけ。でも、生きて帰ってきてくれたんだよ?それで、いいんじゃないかな。麗弥が無事というその事実だけで」
「あっ……」
そうだ。
殺されるかもしれないこの状況で……麗弥は生きて帰ってきてくれたんだ…。
それは、大切なことに決まってる。
「稀琉。麗弥は、今、クロムが怒って同じようなことを言ってるはずだけど…きっと前を向いて自分と向き合ってるよ。…逃げたって何も変わらないんだよ」
「!!」
ロスの言葉がストンと心に落ちてきた。
悔しくないはずがない。
だって、麗弥はいつだってオレの事を心配してくれた。
刹那だってそうだ。
そんな人たちがいるのに…。
オレは、また現実から目をそらそうとしていたんだ。
あの時と同じように…逃げていただけたったんだ。
稀琉の瞳に少しずつ光が戻ってきた。
それを確認した上でロスは、また先程の質問をぶつけた。
「もう一度聞くよ。…何をそんなに怯えてるの?」
クロムとは、また違う紅い目が稀琉を捉えた。
オレは…何してるんだろう。
本当に…こんなことで取り乱して逃げ出すなんて…追い詰められた鼠みたいだ。
怪我をした麗弥を目の当たりにして…それは自分のせいだと自分を説得して、じゃあオレが消えればって勝手に思ってるだけじゃないか。
そうすれば…何も考えなくて済むからって逃げ出しただけじゃないか。
12年前に家族の命を奪って逃げた…あの頃と何も変わってないじゃないか。
ギュッと、拳を力強く握り締める。
そして、稀琉はハッキリ答えた。
「…ロスの、言う通り…オレは逃げてただけだ。でも、今は…何も怯えてない。逃げるのはやめるよ。オレは…全てを受け入れる」
空のような透き通った海のような目がロスの紅い目に映る。
本当に…綺麗な目だ。
荒療治だったけど…効果あったみたいで良かった。
ロスは、そう考えながら「そう。なら良かった」と呟いた。
刹那もほっとした様子だった。
全く…悪魔に光を与えさせるたぁ…やってくれるなクロム。
でも、お前はイライラしてただけだと言うかもしれないけど。
…てか、多分7割はそうだと思うけど。
でも、これで俺の仕事は終わりだぜ?
後は、稀琉次第だ。
「じゃあ、部屋に戻ろう」と安心した刹那の言葉に歩き出す3人。
かなーり、イライラしてたから…
……麗弥を殴ってなければいいけど。
そう思いながら、3人は麗弥とクロムが居る部屋に戻っていった。
稀琉は走っていた。
オレのせいで……!
無我夢中で暗闇を走っていた時だった。
「稀琉!!」
「!」
刹那の声がした。
立ち止まって振り替える。
そこには、刹那とロスがいた。
「稀琉…」
刹那の心配そうな声が耳に届く。
きっとオレは涙目なのだろう。
凄く心配そうだ。
「刹那…ロス…」
「まだ、怪我が完治した訳じゃないんだから…走っちゃ駄目だよ」
敢えて触れない刹那。
本当に優しいんだから……。
「いや…怪我は…大丈夫……」
そう消えるような声で答えるのが精一杯であった。
麗弥が、傷付いたのは……オレのせい。
いくら、皆が違うと言ったって……。
稀琉は、誰とも目を合わせようとしなかった。
さて、どうしたものか…。
そう考えている刹那だったが、中々良さそうな声掛けが出来ずにいた。
「……はー」
そんな中ロスが溜め息をつきながら、稀琉に近付いた。
「……なぁ、稀琉。稀琉は、何をそんなに怯えてるの?」
「えっ…?」
やっと稀琉がロスの顔を見た。
その瞳に映るロスは、いつもと同じ…読めない微笑があった。
「今の稀琉はまるで猫に追いやられた鼠みたいだからさ。何をそんなに怯えてるの?麗弥が大怪我をして死にかけたこと?それとも、お兄さんがまた稀琉の目の前に現れて稀琉を苦しめようとしてること?俺らが…この場所がなくなって自分の安心できる場所がなくなること?」
「ロス?!」
刹那は、何を言い出すのだと驚いた様子だったが、ロスはそのまま続ける。
「だってそうでしょ?今、刹那が稀琉を呼んだときの反応…完全にそうだったよ?それとも、他に何か恐れることがあるって言うの?」
「そ…れは…」
また目をそらしてしまう稀琉に、ロスはもう一度溜め息をつきながら言った。
「きっとクロムも麗弥に言ってると思うけど…。確かに稀琉のお兄さんは、稀琉のことを恨んでると思うよ?そして、そんな稀琉の小さな幸せの種になってる俺等も、この場所も。でも…今回はたまたま“稀琉のお兄さんが出現して、その刺客が麗弥を襲った”のが重なっただけでさ。いつだって俺達は誰かに狙われる危険な一本道に立たされてるんだよ」
「……」
その意味をなんとなく理解した稀琉は、ロスの顔を見つめた。
「稀琉なら分かるだろ?俺たちが今までしてきた事を。その身に1番染み込まされて痛いほど理解してるのは、稀琉だと思うから。
今まで俺たちが命を奪ってきた人たちの…屍の後を俺達は通ってるんだよ。でも、それは俺達には関係のないことじゃなくて…その道を作り出してるのは今までは俺たちだけだっただけで、その道の屍になる可能性だっていつだってある。それは、普通の人間にも言えることでしょ?いつ、病気になるか分からない、いつ通り魔にあって殺されるか分からない。いつ事件に巻き込まれるかもしれないし、いつ事故にあうかも分からない。皆、それぞれの十字架を背負ってその道を歩いてるんだ。天命がつきるまでね。その道が俺達は狭いんだよ。だから、他の人間より…屍になる可能性が高い道に俺達は歩み続けてるんだよ」
「道……」
思い返せば暗い道ばかりを歩んできた。
血にまみれ、血のついた身体で歩き続けたその後ろには血と死体が落ちていた。
そんな中、先が少しずつ明るくなってきた。
刹那に会って、麗弥に会って…クロムとロスに会って。
だから、この間までは幸せすぎるくらいの時間が…道がそこにはあったんだ。
でも、俺についたあの事件という重りがそれを許さなかっただけだ。
でも…それは、他の人だって同じことだろう。
「また今度ね」
そう言って別れた恋人が事故に遭って突然いなくなるかもしれない。
「いってらっしゃい」
そう言って見送った我が子が帰らぬ人になってしまうことだってあるかもしれない。
ちょっとした口喧嘩をして別れた両親がその喧嘩で出るのが遅れたせいで何かがあってもう二度と会えなくなってしまうことだって…
でも、皆はそれぞれ前を向いて歩いてるんだ。
オレたちは…他の人よりもそうなる可能性がある茨の道を…傷付きながら自分で選んで進んでいるんだ。
「……」
ギュッと服をつかむ手に自然と力がこもる。
「それに、きっとさ。麗弥は、クロムに怒鳴り付けられてる思うよ?」
「えっ…?」
「“テメェが弱いせいで、勝手にやられただけだろ”……ってね」
「!」
ロスの言葉でやっと先程の麗弥の状態が分かった。
アレは…麗弥は、オレを責めさせる原因を自分が作ったことを…悔やんでいたのだと。
「確かにきっかけは、稀琉の過去が絡んでたかもしれない。でも、ただそれだけなんだよ。その道の中で…麗弥は襲われて怪我をしてしまっただけ。稀琉のお兄さんだって稀琉を苦しませようとしてるだけで、誰だって良かったと思うよ。そのターゲットに麗弥はなってしまっただけ。でも、生きて帰ってきてくれたんだよ?それで、いいんじゃないかな。麗弥が無事というその事実だけで」
「あっ……」
そうだ。
殺されるかもしれないこの状況で……麗弥は生きて帰ってきてくれたんだ…。
それは、大切なことに決まってる。
「稀琉。麗弥は、今、クロムが怒って同じようなことを言ってるはずだけど…きっと前を向いて自分と向き合ってるよ。…逃げたって何も変わらないんだよ」
「!!」
ロスの言葉がストンと心に落ちてきた。
悔しくないはずがない。
だって、麗弥はいつだってオレの事を心配してくれた。
刹那だってそうだ。
そんな人たちがいるのに…。
オレは、また現実から目をそらそうとしていたんだ。
あの時と同じように…逃げていただけたったんだ。
稀琉の瞳に少しずつ光が戻ってきた。
それを確認した上でロスは、また先程の質問をぶつけた。
「もう一度聞くよ。…何をそんなに怯えてるの?」
クロムとは、また違う紅い目が稀琉を捉えた。
オレは…何してるんだろう。
本当に…こんなことで取り乱して逃げ出すなんて…追い詰められた鼠みたいだ。
怪我をした麗弥を目の当たりにして…それは自分のせいだと自分を説得して、じゃあオレが消えればって勝手に思ってるだけじゃないか。
そうすれば…何も考えなくて済むからって逃げ出しただけじゃないか。
12年前に家族の命を奪って逃げた…あの頃と何も変わってないじゃないか。
ギュッと、拳を力強く握り締める。
そして、稀琉はハッキリ答えた。
「…ロスの、言う通り…オレは逃げてただけだ。でも、今は…何も怯えてない。逃げるのはやめるよ。オレは…全てを受け入れる」
空のような透き通った海のような目がロスの紅い目に映る。
本当に…綺麗な目だ。
荒療治だったけど…効果あったみたいで良かった。
ロスは、そう考えながら「そう。なら良かった」と呟いた。
刹那もほっとした様子だった。
全く…悪魔に光を与えさせるたぁ…やってくれるなクロム。
でも、お前はイライラしてただけだと言うかもしれないけど。
…てか、多分7割はそうだと思うけど。
でも、これで俺の仕事は終わりだぜ?
後は、稀琉次第だ。
「じゃあ、部屋に戻ろう」と安心した刹那の言葉に歩き出す3人。
かなーり、イライラしてたから…
……麗弥を殴ってなければいいけど。
そう思いながら、3人は麗弥とクロムが居る部屋に戻っていった。

