俺は入口に立っている男を見た。男はざっと見積もって年は20代後半だろう。
…食い付いたな。
チラリとロスを見ると僅かに頷いたロスは男の問いに答える。
「んー…まぁそんなとこ〜。ここの牧師さん?」
ロスがそう聞くと男は「そうです。私は『橘(タチバナ )』と申します」とあっさり答えた。恐らく偽名だろうが。
「お二人はどのような目的で御祈りしにいらしたのですか?」
「目的?いや、俺ら教会に興味があって〜。ここはどんな信仰があるのか是非聞かせて貰えればと思って〜」
ロスがチラリと目配せをしつつ何気に牧師から死角になるように俺を隠した。その意図に気づいた俺は探るような動きをした。
「いいですよ。こちらの像には女神様がいらっしゃって居て祈りを捧げればどんな願いも叶うんですよ」
そういかにも作った笑顔で答えた。
「へぇー…。前々から噂になってたから気にはなってたんだよね」
「…ほぅ?どんな噂です?」
「なんか癒しの効果あるって聞いてさ〜。俺等つい最近親を事故で亡くしたから神にも縋ってみようと思って覗きに来たんだよな」
よくもまぁペラペラと息をするように嘘がつけるなと思いつつ俺はコートをずらして奴に銃が見えるようにしつつしゃがんで辺りを探るフリをし続けた。
「それは……お辛いでしょう。見たところまだ学生さんでしょうか?」
「そうなんだよなー。喧嘩ばっかだったけど…居なくなると辛くてさ…。少しでも楽になれればと思って…」
段々楽しくなってきたのかロスは辛そうな演技をし始めた。
…キモっ。
素直な感想を心の中でしながらメモを取るフリをしていた。
「もちろん。主はお二人に手を差し伸べてくださいますよ」
「そっか…俺と弟もこれで救われる訳だ」
弟というワードでこちらに注意が向くように発言した瞬間にこのごっこ遊びを終わらせるというロスの意図を汲み取り俺は準備をした。
「ええ…。おや?どうされましたか?」
橘がしゃがんでいる俺に声をかけてきた。それと同時にメモ用紙や銃を慌てて隠すような動きをすると視線が腰にある銃に向けられたことに気付いた。ここでバレないようにロスは先手を打ってきた。
「だっ大丈夫か?弟よ。悲しいよな」
まるで慌てて俺のミスを隠すように肩を組んできたロスを見て橘は一瞬目を細めた。
「…そうですね」
相手が不審人物と確信した事を悟ったロスは念入りに役を演じるのか声を裏返しながら俺の方を向いた。その顔がいかにも「どう?やってやったぜ」と言いたげなドヤ顔をこちらに向けていた。
…ウゼー。こっち見んな。
「…?あの…弟さんでしたよね?」
突然、橘が変な質問をしてくる。
…なんだ?兄弟って設定は無理があったか?だが…俺もロスも黒髪で目が紅い。癪だが見た目だけなら、聞き返すような疑問が生まれないと思うのだが…。
「え?そうだけど」
「弟……?」
俺の顔を見て更に疑問が浮かび上がっている。
なんだよ。そもそもスパイだと思ってんなら兄弟が嘘だったとしてもそんな食いついてこねぇだろ。
さっきから一体なんだっての。
「えーそんな似てない?」
俺の側に来たロスが肩を組んで、俺の顔と自分の顔を指さす。
「…やめろ。触ってくんな。気持ち悪ぃ」
思わず眉間に皺を寄せて呟く。俺の声を聞いた橘は驚いたような表情をしていた。
「は?え?あ、あぁ…すみません。弟さん随分お綺麗な顔をされているので…」
「ブッ」
とんでもないことを言い出した。こいつは兄弟かどうか疑ってた訳じゃない。そもそも間抜けなスパイ役の時点で嘘だと勘づいているはずだ。
このクソ野郎…俺の事を男じゃねぇと思ってやがった。その事に気付いたロスが吹き出す。
「…あ?」
「す、すみません」
思わず殺気が漏れてしまい、橘は萎縮していたが関係ねぇ。ギロリと睨み付ける。
「あはは!こいつ綺麗な顔してるけど男なんだよなー!中性的っての?あっ!そろそろバイトの時間じゃね?」
ロスが半分笑いを堪えながら、俺をこの場から離そうと人差し指を立てながらわざとらしくそう言った。
…こいつも後で蹴る。本当は今すぐこのクソ野郎をぶっ殺してやりたいが、そう言う訳にはいかないので睨みつけながら俺は返事をした。
「…そうだな」
「じゃあまた来るよ〜」
そそくさと帰るような仕草をしてから橘の横を通り過ぎる。
「は、はい。よろしければまたいつでもいらしてください」
橘はまたニコッと笑って俺等を見送った。扉が閉まる直前に視線を後ろに向けるとさっきまでの優男風な笑みは消えており不適な笑みを浮かべていた。
ーーバタン
その笑みを浮かべた橘の姿は扉が閉まるという物理的な方法で消えた。
…食い付いたな。
チラリとロスを見ると僅かに頷いたロスは男の問いに答える。
「んー…まぁそんなとこ〜。ここの牧師さん?」
ロスがそう聞くと男は「そうです。私は『橘(タチバナ )』と申します」とあっさり答えた。恐らく偽名だろうが。
「お二人はどのような目的で御祈りしにいらしたのですか?」
「目的?いや、俺ら教会に興味があって〜。ここはどんな信仰があるのか是非聞かせて貰えればと思って〜」
ロスがチラリと目配せをしつつ何気に牧師から死角になるように俺を隠した。その意図に気づいた俺は探るような動きをした。
「いいですよ。こちらの像には女神様がいらっしゃって居て祈りを捧げればどんな願いも叶うんですよ」
そういかにも作った笑顔で答えた。
「へぇー…。前々から噂になってたから気にはなってたんだよね」
「…ほぅ?どんな噂です?」
「なんか癒しの効果あるって聞いてさ〜。俺等つい最近親を事故で亡くしたから神にも縋ってみようと思って覗きに来たんだよな」
よくもまぁペラペラと息をするように嘘がつけるなと思いつつ俺はコートをずらして奴に銃が見えるようにしつつしゃがんで辺りを探るフリをし続けた。
「それは……お辛いでしょう。見たところまだ学生さんでしょうか?」
「そうなんだよなー。喧嘩ばっかだったけど…居なくなると辛くてさ…。少しでも楽になれればと思って…」
段々楽しくなってきたのかロスは辛そうな演技をし始めた。
…キモっ。
素直な感想を心の中でしながらメモを取るフリをしていた。
「もちろん。主はお二人に手を差し伸べてくださいますよ」
「そっか…俺と弟もこれで救われる訳だ」
弟というワードでこちらに注意が向くように発言した瞬間にこのごっこ遊びを終わらせるというロスの意図を汲み取り俺は準備をした。
「ええ…。おや?どうされましたか?」
橘がしゃがんでいる俺に声をかけてきた。それと同時にメモ用紙や銃を慌てて隠すような動きをすると視線が腰にある銃に向けられたことに気付いた。ここでバレないようにロスは先手を打ってきた。
「だっ大丈夫か?弟よ。悲しいよな」
まるで慌てて俺のミスを隠すように肩を組んできたロスを見て橘は一瞬目を細めた。
「…そうですね」
相手が不審人物と確信した事を悟ったロスは念入りに役を演じるのか声を裏返しながら俺の方を向いた。その顔がいかにも「どう?やってやったぜ」と言いたげなドヤ顔をこちらに向けていた。
…ウゼー。こっち見んな。
「…?あの…弟さんでしたよね?」
突然、橘が変な質問をしてくる。
…なんだ?兄弟って設定は無理があったか?だが…俺もロスも黒髪で目が紅い。癪だが見た目だけなら、聞き返すような疑問が生まれないと思うのだが…。
「え?そうだけど」
「弟……?」
俺の顔を見て更に疑問が浮かび上がっている。
なんだよ。そもそもスパイだと思ってんなら兄弟が嘘だったとしてもそんな食いついてこねぇだろ。
さっきから一体なんだっての。
「えーそんな似てない?」
俺の側に来たロスが肩を組んで、俺の顔と自分の顔を指さす。
「…やめろ。触ってくんな。気持ち悪ぃ」
思わず眉間に皺を寄せて呟く。俺の声を聞いた橘は驚いたような表情をしていた。
「は?え?あ、あぁ…すみません。弟さん随分お綺麗な顔をされているので…」
「ブッ」
とんでもないことを言い出した。こいつは兄弟かどうか疑ってた訳じゃない。そもそも間抜けなスパイ役の時点で嘘だと勘づいているはずだ。
このクソ野郎…俺の事を男じゃねぇと思ってやがった。その事に気付いたロスが吹き出す。
「…あ?」
「す、すみません」
思わず殺気が漏れてしまい、橘は萎縮していたが関係ねぇ。ギロリと睨み付ける。
「あはは!こいつ綺麗な顔してるけど男なんだよなー!中性的っての?あっ!そろそろバイトの時間じゃね?」
ロスが半分笑いを堪えながら、俺をこの場から離そうと人差し指を立てながらわざとらしくそう言った。
…こいつも後で蹴る。本当は今すぐこのクソ野郎をぶっ殺してやりたいが、そう言う訳にはいかないので睨みつけながら俺は返事をした。
「…そうだな」
「じゃあまた来るよ〜」
そそくさと帰るような仕草をしてから橘の横を通り過ぎる。
「は、はい。よろしければまたいつでもいらしてください」
橘はまたニコッと笑って俺等を見送った。扉が閉まる直前に視線を後ろに向けるとさっきまでの優男風な笑みは消えており不適な笑みを浮かべていた。
ーーバタン
その笑みを浮かべた橘の姿は扉が閉まるという物理的な方法で消えた。

