Devil†Story

仕事の内容は表のカフェでの事しか言っていない。…言えるわけない。俺が…殺人の仕事をしてる事なんて。


姉さんは…ある殺人鬼のせいで体が弱くなったのだから。…その行為をしているなんて口が裂けても言えなかった。もちろん姉さんはそんなことに気付くわけもない。


それでも毎月結構の量の金が振り込まれているのに対して疑問を抱いているが。


澪「ねぇ…レイちゃん。本当に無理してない?毎月大金を送ってくれてるけど…」


その疑問を姉さんはいつもぶつけてくる。何処か暗い表情になってしまう俺を見て無理をしていると思っているのだろう。


澪「私は良いのよ?確かに体は弱くなってしまったけど…働けないわけじゃないし。裕福な暮らしじゃなくてもレイちゃんが居てくれたらそれで良いの。だからレイちゃんに迷惑かけたくないのよ…」


姉さんは静かに…目を伏せながら言った。確かに普通だったらかなり無理しなければいけない量の金を送ってる。それもこれも俺が裏の従業員になるのを承諾したから故の金だ。


―「君が俺の裏の仕事を手伝ってくれると言うなら…俺は君のお姉さんを助ける手立てをするよ」―


刹那にそう言われたのが8年前…。俺はそれを承諾した。


確かに最初は辛かった。人を殺した罪悪感をくっついてきて、くっついてきて重かった。死のうとも思ったくらい…。でも、1人じゃなかったから…。


そう…稀琉が居たから。


その後はクロムとロス…


3人が居たから乗り越えられた。


それにこれは自分で決めた事。幼い俺を育ててくれた…姉さんへのせめてもの恩返し。俺ははにかみながら口を開いた。



麗「なーに言うとんねん。姉ちゃんはー。俺の“親”同然なんやからそんなの当然やん?それに俺は寮に居るし、飯も出るから金には困らんもん。それに無理なんかしてへんから安心して、な?」


いつものようにその顔に笑顔を貼り付ける。偽りの笑顔を貼り付ける事に今はもう慣れてしまった。チクリと痛む心を押さえつけて俺は姉さんの手に手を重ねた。

澪「でも…」


やはり姉さんの表情は曇っている。それもいつもと変わらない。更に突き刺さる心の棘を押し殺して俺は笑った。


麗「ほんまに大丈夫やって!俺…無理する程つよないし?」


「いまだに注射怖いねんもん!」と過剰にビビる姿を見て姉さんもようやく折れてくれる。


澪「…本当ね?」


麗「ほんま、ほんま!」


俺が笑いながら言うと姉さんは納得してはいないだろが「なら良いけど…」と答えた。


あぁ、あかん…。


姉さん暗くなってるわ…。俯く姉さんに俺は明るい声で話した。


麗「あっ!そういやな姉さん。こないだ、またクロムに怒られたんやで〜」


澪「あら…クロムくんに?」


麗「そうなんよ〜。ホンマあいつ短気やねん」


澪「レイちゃんが何かしたんじゃないの?」


麗「そんな悪い事してへんよ〜。ただ読書中に抱きついただけ。…まぁでもその時に顔に本が当たってしもたんねん」


澪「それは怒るわよ〜」


麗「そうだけどさ〜!稀琉には怒らへんやで!?慣れたとか言って!」


澪「アハハ。よっぽどレイちゃんのタイミングが悪いのね」


麗「そんな〜!」


澪「ふふ」


姉さんが笑ってくれた。さっきまでの暗い表情は消えた。


良かった…。俺はほっとしながら話をしていく。


麗「せやけど意外な一面を見たねん。俺の好きな作家をクロムも気に入ってんねんて!」


澪「へー!同じ趣味だったんだね」


麗「せやせや!初めてクロムと趣味の話したんよ〜!」


澪「それは素敵なことね」


麗「そうなんよ!」


そこからカフェでの出来事を一つ一つ丁寧に伝えていった。姉さんは笑いながら楽しそうに聞いてくる。もちろん守秘義務は守っている。名前も本来はダメなのだが…そこまで隠すと怪しまれるので刹那に相談してそこだけは了承を得ていた。そんな事をしている内に外は夕焼けの赤の色になっていて、帰る時間になった。


麗「じゃあまたな。姉さん」


俺はニコッと笑いながら言った。


澪「うん。またね。レイちゃん。体に気を付けてね」

麗「姉さんもな」


俺がそう言うと姉さんも笑った。


そして俺は優しく微笑み、俺が見えなくなるまで手を振る姉さんを後にカフェに帰った。