「よー。おかえり?」
「……」
扉を開けて部屋に入るなりニヤニヤとした顔でこちらを向いたロスと目が合う。
「珍しいじゃん。図書室も空いていないこの時間にお前が部屋にいないなんて。どうしたー?1人にでもなりたくなったのかぁ?」
「……だったらなんだってんだよ」
「べっつにー?そうそう。聞いたぞ〜。輝太の事、守ったんだってぇ?随分優しいじゃんかよ」
「…………」
予想通りの反応に反射的に溜め息が出る。戻りながら自身の行動を振り返ったが、何故あのような行動をしていたかは自分でもよく分からなかった。強いて言うのであれば太一が耳障りであった。そういうことにしておこうと、部屋の中に入りながらクロムは面倒そうに答える。
「……別に。うるさかったから追っ払ったまでの事だ」
「ふーん?それならそのまま輝太に殴らせておけば良かったじゃん。そしたらあのお利口さんの輝太の事だ。しばらくは反省して家から出なくなったんじゃねぇの〜?んでお前は行かなくなって済んだと思うけど〜?」
「……そうだな。だが周りに目撃者も居たからな。稀琉もうるさかったろうし、帰るのが遅くなんのが面倒だったからだ」
「それにお前が付き合う必要あんのかって。ねぇだろ?いつもみたいに置いていけば良かったじゃんか」
「戻るなりうるせぇな。何も考えてなかっただけだ。平和ボケが早々治るかっての」
ロスの方を見ずにコートをかけにクローゼットに向かう。ハンガーを手に取ろうとした瞬間であった。
ーードンッ!
「!」
大きな音がして振り返ると机の上に足を乗せていた。足を少し強く乗せたようだ。表情は笑っているが目を細めている。
「だーかーらー。俺の言いたい事分かる?分かってねぇようだから分かりやすく言ってやるよ。やっぱ深入りしてんじゃねぇのかって聞いてんだよ。それで自分のご機嫌取れずに俺に当たってよ。……なぁ?」
さっきまでの笑みはなくなり、真顔になったロスが語尾を強めた。思ったよりも機嫌を損ねているようだ。両足を机に乗せて腕を組んでいる。
(…これは思ったよりも面倒だな。あー…クソ。やっぱ当たるんじゃなかった)
内心溜息をつきながらコートをかけようとした手を止めてロスの方を向く。
「……そんなに疲れてんのか?随分お怒りだな」
「そりゃあな。昨日の今日でこれだもんな。折角久々に機嫌が良かったのを邪魔されたうえに?お前の腑抜け具合を目の当たりにすればな」
「……正直俺が1番腹がたってる」
「どうだか」
やはり核心をつかない回答は納得しないらしい。段々と不機嫌になってきている。ピリピリとした空気が流れている。
(やっぱ適当にかわすのは無理か。見逃してくれる気がねぇな。面倒だから謝っとくか。…心底嫌だが)
腕を組んだクロムは片足に体重をかけ、眉間に皺を寄せた。
「……お前の機嫌を損ねるような事をしたのは悪かったよ。それを手に入れるのも苦労したし、疲れてお前に当たったのは認める」
「…ふーん?珍しいじゃん。お前が素直に謝るなんて」
「事実だからな」
「偉いじゃねえか。…まあ謝る顔と態度じゃねえけど」
本当は謝るのが嫌だと言うのが丸わかりのクロムに微笑しながら背中を伸ばした。
「大目に見ろよ」
「えー?どーしようかなー?」
嫌そうとはいえ謝ったのは正解だったらしい。いつもと同じように答えるロスに少し安堵する。チラリと机の上を見ると猫饅頭は蓋が開けられたままになっている。
「お前が俺の前で膝ついて謝るんなら考えてやるけどー?」
「………」
クスクスと笑うロスを睨みつけつつ歩き出す。
「…お?まさかマジでやってくれんの?」
偉そうに座っているロスの目の前にやってくる。鋭い目付きのままポケットから手を出して膝を曲げる。ロスはニヤニヤと笑っていた…が。
「ーームグッ!?」
素早く手を伸ばして猫饅頭を掴んだクロムは曲げた足を戻してロスの口の中に猫饅頭を突っ込んだ。
「…調子に乗んな」
「ムグッ…!…!!」
突然口に物を入れられたロスは慌てて咀嚼してそれを飲み込んだ。
「ーっは!あっま!!おい!いきなり何するんだよ!!」
「うるせぇ。わざわざ買ってきてやったのに干からびさせる気か。さっさと食えよ」
「ふざけんなよ!あー…!口ん中気持ち悪い…!」
卓上にあったティッシュで口を押さえながらクロムを恨めしそうに睨みつける。
ロスは甘い物があまり得意ではなかった。果物のような自然な甘味は好みなのだが人工的に甘くされている甘味全般が好きではなかった。そんなロスを尻目にクロムは涼しげに猫饅頭を一つ取る。
「てめぇが調子に乗ってるからだろ」
気怠げに言い放つと饅頭を口に運んだ。
「なんだ大袈裟に言うから激甘かと思えば…そんな甘くねぇじゃんか」
「はぁ?お前の舌バグってんじゃねえのか?甘過ぎるっての!」
「お前こそ舌がじじぃなんじゃねぇのか?」
「誰がじじぃだ!失礼な!!」
「この俺が謝ってやってんのに調子に乗るからだろ」
「てめぇーー」
怒るロスを手で制してからクロムは口を開いた。
「……俺も一刻も早く元に戻りてぇんだよ。面倒だから言うこと聞いてやってるだけだから、そんなカッカすんな」
「………」
真剣な表情でそう話す。紅い目同士が合った。その雰囲気にロスは何か言いたげではあったがグッと堪えた。
「……そー。ならいいんだけど。あんまり俺を失望させんなよ」
「あと少しで終わるんだ。もう少しだけ黙っとけ」
そう言ったクロムはロスのコートの裾で手を拭った。
「あぁ!?てめぇ何しやがる!ベタつくだろうが!」
「うるせぇな。そんなついてねぇよ」
「寧ろ余計に汚れたくらいだ」とベッドの方に戻ってからウェットティッシュを取り出して手を拭いた。そのままクローゼットにコートをかけ、何くわぬ顔をしているクロムにロスはプルプルと震えながら立ち上がる。
「ふっざけんな!!汚れてねぇっての!やっぱ跪けよ!!」
こうしてギャーギャーと普段と変わらない喧嘩が今宵も繰り広げられたのであった。
「……」
扉を開けて部屋に入るなりニヤニヤとした顔でこちらを向いたロスと目が合う。
「珍しいじゃん。図書室も空いていないこの時間にお前が部屋にいないなんて。どうしたー?1人にでもなりたくなったのかぁ?」
「……だったらなんだってんだよ」
「べっつにー?そうそう。聞いたぞ〜。輝太の事、守ったんだってぇ?随分優しいじゃんかよ」
「…………」
予想通りの反応に反射的に溜め息が出る。戻りながら自身の行動を振り返ったが、何故あのような行動をしていたかは自分でもよく分からなかった。強いて言うのであれば太一が耳障りであった。そういうことにしておこうと、部屋の中に入りながらクロムは面倒そうに答える。
「……別に。うるさかったから追っ払ったまでの事だ」
「ふーん?それならそのまま輝太に殴らせておけば良かったじゃん。そしたらあのお利口さんの輝太の事だ。しばらくは反省して家から出なくなったんじゃねぇの〜?んでお前は行かなくなって済んだと思うけど〜?」
「……そうだな。だが周りに目撃者も居たからな。稀琉もうるさかったろうし、帰るのが遅くなんのが面倒だったからだ」
「それにお前が付き合う必要あんのかって。ねぇだろ?いつもみたいに置いていけば良かったじゃんか」
「戻るなりうるせぇな。何も考えてなかっただけだ。平和ボケが早々治るかっての」
ロスの方を見ずにコートをかけにクローゼットに向かう。ハンガーを手に取ろうとした瞬間であった。
ーードンッ!
「!」
大きな音がして振り返ると机の上に足を乗せていた。足を少し強く乗せたようだ。表情は笑っているが目を細めている。
「だーかーらー。俺の言いたい事分かる?分かってねぇようだから分かりやすく言ってやるよ。やっぱ深入りしてんじゃねぇのかって聞いてんだよ。それで自分のご機嫌取れずに俺に当たってよ。……なぁ?」
さっきまでの笑みはなくなり、真顔になったロスが語尾を強めた。思ったよりも機嫌を損ねているようだ。両足を机に乗せて腕を組んでいる。
(…これは思ったよりも面倒だな。あー…クソ。やっぱ当たるんじゃなかった)
内心溜息をつきながらコートをかけようとした手を止めてロスの方を向く。
「……そんなに疲れてんのか?随分お怒りだな」
「そりゃあな。昨日の今日でこれだもんな。折角久々に機嫌が良かったのを邪魔されたうえに?お前の腑抜け具合を目の当たりにすればな」
「……正直俺が1番腹がたってる」
「どうだか」
やはり核心をつかない回答は納得しないらしい。段々と不機嫌になってきている。ピリピリとした空気が流れている。
(やっぱ適当にかわすのは無理か。見逃してくれる気がねぇな。面倒だから謝っとくか。…心底嫌だが)
腕を組んだクロムは片足に体重をかけ、眉間に皺を寄せた。
「……お前の機嫌を損ねるような事をしたのは悪かったよ。それを手に入れるのも苦労したし、疲れてお前に当たったのは認める」
「…ふーん?珍しいじゃん。お前が素直に謝るなんて」
「事実だからな」
「偉いじゃねえか。…まあ謝る顔と態度じゃねえけど」
本当は謝るのが嫌だと言うのが丸わかりのクロムに微笑しながら背中を伸ばした。
「大目に見ろよ」
「えー?どーしようかなー?」
嫌そうとはいえ謝ったのは正解だったらしい。いつもと同じように答えるロスに少し安堵する。チラリと机の上を見ると猫饅頭は蓋が開けられたままになっている。
「お前が俺の前で膝ついて謝るんなら考えてやるけどー?」
「………」
クスクスと笑うロスを睨みつけつつ歩き出す。
「…お?まさかマジでやってくれんの?」
偉そうに座っているロスの目の前にやってくる。鋭い目付きのままポケットから手を出して膝を曲げる。ロスはニヤニヤと笑っていた…が。
「ーームグッ!?」
素早く手を伸ばして猫饅頭を掴んだクロムは曲げた足を戻してロスの口の中に猫饅頭を突っ込んだ。
「…調子に乗んな」
「ムグッ…!…!!」
突然口に物を入れられたロスは慌てて咀嚼してそれを飲み込んだ。
「ーっは!あっま!!おい!いきなり何するんだよ!!」
「うるせぇ。わざわざ買ってきてやったのに干からびさせる気か。さっさと食えよ」
「ふざけんなよ!あー…!口ん中気持ち悪い…!」
卓上にあったティッシュで口を押さえながらクロムを恨めしそうに睨みつける。
ロスは甘い物があまり得意ではなかった。果物のような自然な甘味は好みなのだが人工的に甘くされている甘味全般が好きではなかった。そんなロスを尻目にクロムは涼しげに猫饅頭を一つ取る。
「てめぇが調子に乗ってるからだろ」
気怠げに言い放つと饅頭を口に運んだ。
「なんだ大袈裟に言うから激甘かと思えば…そんな甘くねぇじゃんか」
「はぁ?お前の舌バグってんじゃねえのか?甘過ぎるっての!」
「お前こそ舌がじじぃなんじゃねぇのか?」
「誰がじじぃだ!失礼な!!」
「この俺が謝ってやってんのに調子に乗るからだろ」
「てめぇーー」
怒るロスを手で制してからクロムは口を開いた。
「……俺も一刻も早く元に戻りてぇんだよ。面倒だから言うこと聞いてやってるだけだから、そんなカッカすんな」
「………」
真剣な表情でそう話す。紅い目同士が合った。その雰囲気にロスは何か言いたげではあったがグッと堪えた。
「……そー。ならいいんだけど。あんまり俺を失望させんなよ」
「あと少しで終わるんだ。もう少しだけ黙っとけ」
そう言ったクロムはロスのコートの裾で手を拭った。
「あぁ!?てめぇ何しやがる!ベタつくだろうが!」
「うるせぇな。そんなついてねぇよ」
「寧ろ余計に汚れたくらいだ」とベッドの方に戻ってからウェットティッシュを取り出して手を拭いた。そのままクローゼットにコートをかけ、何くわぬ顔をしているクロムにロスはプルプルと震えながら立ち上がる。
「ふっざけんな!!汚れてねぇっての!やっぱ跪けよ!!」
こうしてギャーギャーと普段と変わらない喧嘩が今宵も繰り広げられたのであった。

