Devil†Story

ークロムsideー


「………」


中庭のデッキでクロムは夜風に身を置いていた。そのデッキは従業員が使用している棟の2階に存在していた。春になってきたとはいえ夜は冷え込む。普段なら風の強いデッキに来る事はないが、今のクロムにはちょうど良かった。頭を冷やしたかったからだ。デッキからは夜景が見えておりそれをぼんやりと眺めていた。


「………」


風が強くなってきたので無意識にフードを被る。


……マジで何してんだか。誰にも隙を見せねえんじゃなかったのかよ。隙しか見せてないじゃねぇかよ。


溜め息をつくと風を切る音が聞こえた。同時に肩を掴まれるような感覚があった。


「…どうしたクロー」


顔を向けると案の定そこに居たのはクローであった。


「カァ」


「…そうか。寝てなかったんだな」


「カー」


たまたま起きておりカラス小屋からクロムの姿が見えたらしい。クローの小屋の後ろの檻をいつでも出られるように少し広げていたようでそこから飛んできたとの事だった。


「カーカー」


「…少しな。うるせぇのばっかで疲れたから」


「…カァカァ」


「…いやいい。お前はうるさくねぇから」


そう答えた後に再び沈黙が訪れる。1人になりたいのを邪魔しているのではないかと心配していたが杞憂であった。しかしクロムの様子から何かを察していたクローはフードの影からクロムの顔を覗き込む。クロムは変わらずに真っ正面を見てぼんやりとしていた。聞きたい事はあったがクロムの邪魔をしたくないクローはそのまま黙って肩に止まっていた。


「……っし」


「…カァ?」


小さく聞こえたくしゃみの声に「寒くないのか?」と尋ねる。やはりデッキにはそれなりに強い風が吹き荒れていた。


「…さみぃな」


「カァカァ」


「……もう少ししたら戻る」


「…カー?」


「……」


クロムは大の寒がりだ。そのクロムがここに来てすぐに帰らないところを見て「どうかしたのか?」とつい尋ねてしまう。クローの問いにすぐには答えずに変わらず夜景を見つめていた。風の音と木々が揺れる音しかしない。少しの沈黙の後、クロムは口を開いた。


「……さっきも言ったがなんか疲れてな。慣れねぇ療養生活のせいで」


「カー?」


「…そうだな。自由に動けねぇのは思った以上にストレスだ」


「カァカァ。カー」


「……初めの2、3日はそれでも良かったんだがな。…いや、稀琉が来なければ今程疲れるハメにならなかったんだが。ほぼ毎日人混みの中に連れ出されんのは…骨が折れる。あいつ俺の話を聞かねぇで、嫌だって言ってんのに迎えに来やがって。馴れ馴れしくしてくんなっての。それで調子に乗ってんだかクソ眼帯まで馴れ馴れしくて腹が立つ。挙げ句部屋に戻ればクソ悪魔はうるせぇし。……いつまでこんな事しなきゃなんねぇんだか」


溜め息混じりに愚痴を溢す。ロスはともかく稀琉や麗弥の話をするのは稀なことだ。クローはそれを聞いて少し考えた後に答える。


「…カー。カーカァ……カー?」


「……どうだかな。あまりにも疲れちまってクソ悪魔に当たっちまう位には追い込まれてるな。……部屋に戻ったらどうせ嫌味言われる」


「カーカー。カァ?」


「……いや、いい。例えそうしてもそれが明日にズレるだけだ。俺がやっちまった事だしな。面倒な事はさっさと終わらせる」


「流石にこれ以上居たら凍える」と体を起こして歩き出す。


「………」


クローは少し考えた後、フードの中に入って首の後ろに体を入れ込んだ。


「…なんだよ。狭えだろ」


「カァ?」


「……あったけぇけど」


クローの高い体温がうなじを通して伝わってくる。寒さで震えていた体が少し緩和された。


「カー」


「……そうか。苦しくねえならいい」


フードがクローに引っ張られ、やや圧迫感を生み出していたがそれを口に出さずにそのまま歩いた。デッキからカラス小屋までは近い。あっという間にそこまで着いた。


「着いたぞ。遅くなっちまったが、いつ呼ばれんのか分かんねえんだからちゃんと寝ろよ」


腕を伸ばし、カラス小屋の中に手を入れたクロムは首元にいるクローに声をかける。首に巻きついていたクローは体を戻して跳ねるように腕に移動した。


「カー」


振り返りながらクローは穏やかな表情を浮かべていた。飛び立とうと羽を広げた時であった。


「……どうもな」


「!」


グッと踏み込み飛び立とうとしたクローの足が止まる。振り返るとクロムは変わらず無表情であったが首を指して「これ」とだけ言った。


「…!カー!」


嬉しそうに返事をしたクローは前を向いて飛び立った。クローが小屋に入ったのを確認し、すぐにカラス小屋を後にした。そのまま自室に戻る為に歩き出した。


「………」


部屋に近づくにつれ、ロスの嫌味にどう返そうか考えていた。


……どうせあいつの事だから抜けなく聞き出して今日の話しは筒抜けだろうな。加えてクソおしゃべりな稀琉の事だ。俺がクソガキ共を追い返した話しや、クソ共の俺に対する反応をペラペラ話してんだろうな。それでクソ悪魔が「聞いたぞ〜。輝太の事、守ったんだってぇ?随分優しいじゃんかよ」とかキショい笑顔で聞いてくるんだろ?


「……めんどくせ」


色々と考えるも疲れもあって面倒になる。


どうせ何を言ったって、邪魔されたって思ってんだろうからネチネチ言ってくるんだ。なら下手に何か言うよりも端的に答えるか。


コートのポケットに入っている自室の鍵を取り出して回す。


…ったく。なんで自室に戻るのにこんな面倒な事をしなきゃならんのか。


溜め息をつきうんざりとする。自室の前に着いたので鍵を開けて中に入った。