ーその頃、稀琉と麗弥side
「ーー本当に頭にきちゃう!あの子達!」
食事をとっていた2人は賑やかな食堂に居た。丁寧に魚の煮物から綺麗に骨を取り出した稀琉は怒りながら麗弥に今日の出来事を話していた。
「あー、太一なぁ。俺も一度見た事あったけど今どきの悪ガキって感じの子やったなぁ」
焼肉丼をテーブルに置いた麗弥は飲み物を飲み、思い出したかのように答える。その横には空になった丼が2枚重ねられている。今食べているのは3杯目の様だ。
「麗弥も会った事あるの?」
「会ったというよりかは輝太と一緒に居る時に、他の子とその兄貴に絡んでるとこを見たって感じやな。生意気なこと言うてたのが聞こえたんよ。そん時に輝太が教えてくれたんや」
「え!色んな子にちょっかいかけてるの!?」
「せやなぁ。その子のはもちろんやけど、兄貴の方にも「インキャ豚がフゴフゴしてんじゃねぇよ!よく聞こえないんですけどー!」とかなんとか言うてるの聞こえてきてなぁ。兄貴の方がまた気が弱そうな奴やったから、調子にのったんだろうけど、それにしてもそんなん言うのかって驚いたもんや」
「何それ……!あの子達、誰に対してもそんな事を言って…!」
「ちょい、稀流。怒りのオーラがアカンし、箸が折れとるよ」
怒った稀琉が怒りを露わにしつつ、持っていた箸を折っていた。その様子を見た麗弥が「どうどう!」と稀琉を宥めていた。賑やかだった食堂も一瞬シンと静まり返る。
「あっ…やっちゃった。でも!ムッときちゃったんだもん」
周りに謝罪し、折れた箸をトレーに置いてから新しい箸を取り出す。シンと静まり返っていた食堂が徐々に賑やかさを取り戻していた。
「気持ちは分かるけどなぁ。それよか、よくクロムは怒らへんかったな。真っ先に蹴り飛ばしそうなもんやのに」
「そうなんだよ!クロムが言われてるのに涼しい顔しちゃっててさ!でも、相手にしてないって言ってて…」
「なるほどなぁ。確かにその方がええのかもしれへんけどな」
「どうして?」
再び、丼を持った麗弥の返答に詰め寄るように聞き返す。豪快に丼をかけ込んだ麗弥は空になった容器を重ね、箸を置いてから答える。
「クロムの言葉を真似する訳やあらへんけど、そないな小学生相手に怒ったところでこっちが疲れるだけやんか。それに俺らが本気出したらそれこそ事件になるしな。ましてやクロムは洒落っ気の1つもあらへんから、着てる衣服全てが任務用のままやろ?それで蹴っ飛ばされてみぃ。痣どころや済まへんやんか」
「見てみぃ。少し前にクロムに蹴られたところがまだ治ってへんのよ」とズボンの裾を上げる。薄くなっているが、そこには内出血の痕が残っていた。
「それは分かるけど…。でもオレは許せなかったんだもん」
「せやなぁ。俺かて友達馬鹿にされたら嫌やで?せやけど、やっぱ色々考えると相手にすべきやないんやない?…言うても、直接聞いたら俺も怒っとると思うけどな」
「このガキ!ってな!」と、豪快に笑っている麗弥を見てハッとする。
ー先を見据えて行動しろよー
クロムの言葉が頭を過ったからだ。稀琉は普段ほとんど感情的になることはない。寧ろ、4人の中では1番温厚であった。あれが自分に向けられた言葉だったら、同じように「小学生が言った言葉だし、気にしないよ」と笑いながら宥めていただろう。2人が言ったように子ども相手に本気にならないでとも。しかし、どうしても稀琉にとって身近な人を悪く言われるのは許せなかった。それでも稀琉の性格を知った上で、クロムはその言葉を口にしているのは稀琉にも理解できていた。
「…そうだよね。でも!やっぱりオレは許せないよ!インキャってさ!髪長くて気持ち悪いとか!挙げ句の果てに目の色まで馬鹿にしてさ!」
「自分が言われたもやしはどうでもええんやな。まあ、生まれ持ったもんを言うのはアカンよなぁ。確かにクロムもロスも珍しい目の色やと思うけどなぁ」
「オレのもやしはいいよ!それよりクロムに対する暴言!それに輝太にも馬鹿って言ってるし!」
「ーーへぇ?そんな事があったんだ」
「そう!ロスも許せないと思わなーーえっ!?」
「おわ!ロス!?」
突然会話に入ってきたロスに驚き、声が聞こえた方向を見るといつの間にか稀琉の隣にロスが座っていた。驚く2人を尻目ににっこり笑うと「よっ」と手を挙げた。
「い、いつからそこに!?」
「ここに座ったのは稀琉が「やっぱりオレはーー」って言ってた辺りかな。そうそう。朝はありがとな、稀琉」
「い、いいえ…。それよりビックリしたよ……」
「俺も椅子から落ちそうになったわ。相変わらず気配あらへんなぁ。心臓に悪いわ」
「隠密は得意なもので。…で?何があったんだ?俺にも聞かせてよ」
テーブルに肘をつけたロスは微笑を浮かべている。既に部屋に戻っているはずのクロムに聞かずに、稀琉に聞きにきたロスに疑問を覚えた。
「あれ?クロム部屋に戻ってない?結構前に別れたんだけど…」
「戻ってきてるけど超絶機嫌悪くてさ〜。そもそも稀琉みたいに話す奴じゃないし。だから何かあったのかなーって聞きにきたんだよ」
食堂にロスが来ることはない。クロム同様に、いつ食事をしているか2人は分からなかった。そのロスがここに来てまで、今日の出来事を聞きに来ているのは部屋に戻ったクロムの機嫌がかなり悪いことを想像させた。
「そうなんだ…。別れた時は普通だったのに」
「初めはそこまでじゃなかったんだけどな〜。土産も貰ったし。でも、途中から急によ」
「ほんとに扱いづらくて敵わないよ」と呆れたように首を左右に振っている。
「それは御愁傷様やなぁ。機嫌が悪いクロムと同室では過ごせへんもん」
「アハハ。…で?初めから聞いてもい?」
「うん。実はねーー」
稀琉は初めから今日の出来事をロスに話した。輝太が太一にちょっかいをかけられていた事、それをクロムは流していたが輝太が怒って相手を殴ろうとした事、クロムがそれを止めた事、今までクロムが周りの人々に陰口を言われてた事など…数日間の事も含めて丁寧に話した。
「ーーあー。にゃるほど。大体分かったよ」
全てを聞いたロスは納得したように頷いた。
「…ロスは知ってた?クロムがそういう事を言われてたのって」
「そうね〜。俺もそうだけど、確かに俺等の目の色は珍しいからな〜。加えてあいつはあの身なりだしな〜。詳しく聞いた事はなかったけど、想像は出来るな」
「そうやったんやな。ロスも言われた事あるん?」
「あるね〜。まぁ、俺は温厚だから基本流すけどさ。あんまムカついたら……ボコすけどな」
ーーゾクッ
薄く笑って答えたロスの最後の言葉に寒気が走る。そんな2人をからかうように笑っている。
「た、たまにおっかないよな、ロス」
「そ〜?そんなことねぇけど。とりあえずある程度分かったよ。ありがとな」
そう言って立ち上がったロスに稀琉は呼び止めた。
「そういえばクロムからお土産を貰ったって言ってたけど、置物はなんだったの?」
「それが聞いてくれよ、稀琉〜。黒にゃんこだったんだよ!すげぇ可愛かったんだ〜」
さっきの雰囲気から一変し、再び椅子に座ったロスは嬉しそうに返した。
「黒にゃんこ?」
事情を知らない麗弥はロスから出たあまりにも可愛いワードに頭上に?を浮かべている。
「えぇ!そうなの!?良かったね!」
「あの可愛さは犯罪的だよな〜。だから機嫌良く見てたのに急に不機嫌になってさー…」
「そうなんだね。それは災難だったね」
「そうなんだよ〜。全くクロムの奴…」
「ちょいちょい。2人だけで会話せんといてーや。何の事なん?」
ここまで置いてけぼりだった麗弥が不貞腐れたようにテーブルに肘をついた。
「ごめんごめん!実はねーー」
今朝の話を麗弥にし始める。ロスもテーブルに肘をつきながら話を聞いていたが、コートのポケットに手を入れて何かをし始めた。
「ーーってことがあったんだ!まさか本当に殺されそうになるなんて思わなかったからビックリしたよ」
「えー…マジ?俺も流石に嘘かと思っとったわ。それにしてもフッ…。その危機の脱し方がおもろすぎんねんけど」
「猫の鳴き真似って!それに騙されるクロムも意外とかわええとこあんねんな!」と大笑いし始めた。
「ちょっと!笑わないでよ!こっちは命がかかってたんだよ!ねぇ!?ロスーーってアレ?」
同意を求めようとし、ロスが座っていた椅子を見るとそこには誰もいなかった。代わりに机の上に「食事の邪魔して悪かったな。色々ありがとな〜」と書かれたメモが残されていた。
「い、いつの間に?」
「ほんま気配があらへんな〜。全然気付かなかったわ」
テーブルに置かれたメモを手に取りながら麗弥は辺りを見渡した。食堂内にもロスの姿はなかった。
「本当にね。それにしてもクロムもロスもいつご飯食べてるんだろ」
「それな!ほんまいつ食べてるんやろな?俺が捕まってた時にクロム付き合ってくれたって言うてたけど、そん時は食べてなかったんやろ?」
「うん。お腹空いてないって言って。そもそも綺麗好きだから、こういう場所じゃ食べないって言ってた」
「綺麗好きなんて可愛いもんやないやろ、クロムのあれは。ほんま病気レベルやで」
「こうして見てみると知らない事の方が多いよね、2人の事」
「せやなぁ。2人とも秘密主義やからな」
「……」
急に黙った稀琉に顔を向けると空になった食器を見つめていた。
「ーー?どないしたん?」
「……クロムさ。最近、ようやく話してくれるようになったよね」
「せやな。言うても俺はウザがれてるけどな〜。……だからこそやろ?稀琉がまだ怒ってるんは」
「…うん。クロムとこんなに過ごすことは今までなかったから、知らなかったんだけど…。子どもたちだけじゃないんだ。クロムに嫌な事を言ってるの。さっきも話したけどさ。あんな悪意の中にずっと晒されてたんだって思うと……余計ね」
帽子に触りながら稀琉は窓の方に顔を向けた。稀琉は麗弥の前では帽子に触れるのを隠していなかった。小さな頃から一緒に過ごしている2人は家族のようであり、親友同士であった。その為、麗弥の前ではそれを隠す事はしていなかった。周りでは食事を楽しむ他の授業員の楽しそうな声が聞こえてくる。今まで知らなかった友達のその扱いに思うことがあるのだろう。それを感じ取っている麗弥も同じように窓に顔を向けた。
「……そうやな。クロムは強いからなぁ。言葉通り気にしてへんのやろうけど」
「……でもね。最近、前よりもたくさん話してくれるようになったんだ。さっきもね。お礼言ってくれたんだ。どうもって。一言だけだけど…それでも嬉しかった」
「そうか。ほんならもっと2人となかようなって飯食べれるようになるとええよな」
「…うん!」
麗弥のその言葉に稀琉は笑顔を向けた。そこからいつも通りの雰囲気に戻り「そろそろデザート頼もうかな〜」とメニュー表を見た麗弥に「え!?まだ食べるの?」と呆れた顔で言う稀琉であった。
「ーー本当に頭にきちゃう!あの子達!」
食事をとっていた2人は賑やかな食堂に居た。丁寧に魚の煮物から綺麗に骨を取り出した稀琉は怒りながら麗弥に今日の出来事を話していた。
「あー、太一なぁ。俺も一度見た事あったけど今どきの悪ガキって感じの子やったなぁ」
焼肉丼をテーブルに置いた麗弥は飲み物を飲み、思い出したかのように答える。その横には空になった丼が2枚重ねられている。今食べているのは3杯目の様だ。
「麗弥も会った事あるの?」
「会ったというよりかは輝太と一緒に居る時に、他の子とその兄貴に絡んでるとこを見たって感じやな。生意気なこと言うてたのが聞こえたんよ。そん時に輝太が教えてくれたんや」
「え!色んな子にちょっかいかけてるの!?」
「せやなぁ。その子のはもちろんやけど、兄貴の方にも「インキャ豚がフゴフゴしてんじゃねぇよ!よく聞こえないんですけどー!」とかなんとか言うてるの聞こえてきてなぁ。兄貴の方がまた気が弱そうな奴やったから、調子にのったんだろうけど、それにしてもそんなん言うのかって驚いたもんや」
「何それ……!あの子達、誰に対してもそんな事を言って…!」
「ちょい、稀流。怒りのオーラがアカンし、箸が折れとるよ」
怒った稀琉が怒りを露わにしつつ、持っていた箸を折っていた。その様子を見た麗弥が「どうどう!」と稀琉を宥めていた。賑やかだった食堂も一瞬シンと静まり返る。
「あっ…やっちゃった。でも!ムッときちゃったんだもん」
周りに謝罪し、折れた箸をトレーに置いてから新しい箸を取り出す。シンと静まり返っていた食堂が徐々に賑やかさを取り戻していた。
「気持ちは分かるけどなぁ。それよか、よくクロムは怒らへんかったな。真っ先に蹴り飛ばしそうなもんやのに」
「そうなんだよ!クロムが言われてるのに涼しい顔しちゃっててさ!でも、相手にしてないって言ってて…」
「なるほどなぁ。確かにその方がええのかもしれへんけどな」
「どうして?」
再び、丼を持った麗弥の返答に詰め寄るように聞き返す。豪快に丼をかけ込んだ麗弥は空になった容器を重ね、箸を置いてから答える。
「クロムの言葉を真似する訳やあらへんけど、そないな小学生相手に怒ったところでこっちが疲れるだけやんか。それに俺らが本気出したらそれこそ事件になるしな。ましてやクロムは洒落っ気の1つもあらへんから、着てる衣服全てが任務用のままやろ?それで蹴っ飛ばされてみぃ。痣どころや済まへんやんか」
「見てみぃ。少し前にクロムに蹴られたところがまだ治ってへんのよ」とズボンの裾を上げる。薄くなっているが、そこには内出血の痕が残っていた。
「それは分かるけど…。でもオレは許せなかったんだもん」
「せやなぁ。俺かて友達馬鹿にされたら嫌やで?せやけど、やっぱ色々考えると相手にすべきやないんやない?…言うても、直接聞いたら俺も怒っとると思うけどな」
「このガキ!ってな!」と、豪快に笑っている麗弥を見てハッとする。
ー先を見据えて行動しろよー
クロムの言葉が頭を過ったからだ。稀琉は普段ほとんど感情的になることはない。寧ろ、4人の中では1番温厚であった。あれが自分に向けられた言葉だったら、同じように「小学生が言った言葉だし、気にしないよ」と笑いながら宥めていただろう。2人が言ったように子ども相手に本気にならないでとも。しかし、どうしても稀琉にとって身近な人を悪く言われるのは許せなかった。それでも稀琉の性格を知った上で、クロムはその言葉を口にしているのは稀琉にも理解できていた。
「…そうだよね。でも!やっぱりオレは許せないよ!インキャってさ!髪長くて気持ち悪いとか!挙げ句の果てに目の色まで馬鹿にしてさ!」
「自分が言われたもやしはどうでもええんやな。まあ、生まれ持ったもんを言うのはアカンよなぁ。確かにクロムもロスも珍しい目の色やと思うけどなぁ」
「オレのもやしはいいよ!それよりクロムに対する暴言!それに輝太にも馬鹿って言ってるし!」
「ーーへぇ?そんな事があったんだ」
「そう!ロスも許せないと思わなーーえっ!?」
「おわ!ロス!?」
突然会話に入ってきたロスに驚き、声が聞こえた方向を見るといつの間にか稀琉の隣にロスが座っていた。驚く2人を尻目ににっこり笑うと「よっ」と手を挙げた。
「い、いつからそこに!?」
「ここに座ったのは稀琉が「やっぱりオレはーー」って言ってた辺りかな。そうそう。朝はありがとな、稀琉」
「い、いいえ…。それよりビックリしたよ……」
「俺も椅子から落ちそうになったわ。相変わらず気配あらへんなぁ。心臓に悪いわ」
「隠密は得意なもので。…で?何があったんだ?俺にも聞かせてよ」
テーブルに肘をつけたロスは微笑を浮かべている。既に部屋に戻っているはずのクロムに聞かずに、稀琉に聞きにきたロスに疑問を覚えた。
「あれ?クロム部屋に戻ってない?結構前に別れたんだけど…」
「戻ってきてるけど超絶機嫌悪くてさ〜。そもそも稀琉みたいに話す奴じゃないし。だから何かあったのかなーって聞きにきたんだよ」
食堂にロスが来ることはない。クロム同様に、いつ食事をしているか2人は分からなかった。そのロスがここに来てまで、今日の出来事を聞きに来ているのは部屋に戻ったクロムの機嫌がかなり悪いことを想像させた。
「そうなんだ…。別れた時は普通だったのに」
「初めはそこまでじゃなかったんだけどな〜。土産も貰ったし。でも、途中から急によ」
「ほんとに扱いづらくて敵わないよ」と呆れたように首を左右に振っている。
「それは御愁傷様やなぁ。機嫌が悪いクロムと同室では過ごせへんもん」
「アハハ。…で?初めから聞いてもい?」
「うん。実はねーー」
稀琉は初めから今日の出来事をロスに話した。輝太が太一にちょっかいをかけられていた事、それをクロムは流していたが輝太が怒って相手を殴ろうとした事、クロムがそれを止めた事、今までクロムが周りの人々に陰口を言われてた事など…数日間の事も含めて丁寧に話した。
「ーーあー。にゃるほど。大体分かったよ」
全てを聞いたロスは納得したように頷いた。
「…ロスは知ってた?クロムがそういう事を言われてたのって」
「そうね〜。俺もそうだけど、確かに俺等の目の色は珍しいからな〜。加えてあいつはあの身なりだしな〜。詳しく聞いた事はなかったけど、想像は出来るな」
「そうやったんやな。ロスも言われた事あるん?」
「あるね〜。まぁ、俺は温厚だから基本流すけどさ。あんまムカついたら……ボコすけどな」
ーーゾクッ
薄く笑って答えたロスの最後の言葉に寒気が走る。そんな2人をからかうように笑っている。
「た、たまにおっかないよな、ロス」
「そ〜?そんなことねぇけど。とりあえずある程度分かったよ。ありがとな」
そう言って立ち上がったロスに稀琉は呼び止めた。
「そういえばクロムからお土産を貰ったって言ってたけど、置物はなんだったの?」
「それが聞いてくれよ、稀琉〜。黒にゃんこだったんだよ!すげぇ可愛かったんだ〜」
さっきの雰囲気から一変し、再び椅子に座ったロスは嬉しそうに返した。
「黒にゃんこ?」
事情を知らない麗弥はロスから出たあまりにも可愛いワードに頭上に?を浮かべている。
「えぇ!そうなの!?良かったね!」
「あの可愛さは犯罪的だよな〜。だから機嫌良く見てたのに急に不機嫌になってさー…」
「そうなんだね。それは災難だったね」
「そうなんだよ〜。全くクロムの奴…」
「ちょいちょい。2人だけで会話せんといてーや。何の事なん?」
ここまで置いてけぼりだった麗弥が不貞腐れたようにテーブルに肘をついた。
「ごめんごめん!実はねーー」
今朝の話を麗弥にし始める。ロスもテーブルに肘をつきながら話を聞いていたが、コートのポケットに手を入れて何かをし始めた。
「ーーってことがあったんだ!まさか本当に殺されそうになるなんて思わなかったからビックリしたよ」
「えー…マジ?俺も流石に嘘かと思っとったわ。それにしてもフッ…。その危機の脱し方がおもろすぎんねんけど」
「猫の鳴き真似って!それに騙されるクロムも意外とかわええとこあんねんな!」と大笑いし始めた。
「ちょっと!笑わないでよ!こっちは命がかかってたんだよ!ねぇ!?ロスーーってアレ?」
同意を求めようとし、ロスが座っていた椅子を見るとそこには誰もいなかった。代わりに机の上に「食事の邪魔して悪かったな。色々ありがとな〜」と書かれたメモが残されていた。
「い、いつの間に?」
「ほんま気配があらへんな〜。全然気付かなかったわ」
テーブルに置かれたメモを手に取りながら麗弥は辺りを見渡した。食堂内にもロスの姿はなかった。
「本当にね。それにしてもクロムもロスもいつご飯食べてるんだろ」
「それな!ほんまいつ食べてるんやろな?俺が捕まってた時にクロム付き合ってくれたって言うてたけど、そん時は食べてなかったんやろ?」
「うん。お腹空いてないって言って。そもそも綺麗好きだから、こういう場所じゃ食べないって言ってた」
「綺麗好きなんて可愛いもんやないやろ、クロムのあれは。ほんま病気レベルやで」
「こうして見てみると知らない事の方が多いよね、2人の事」
「せやなぁ。2人とも秘密主義やからな」
「……」
急に黙った稀琉に顔を向けると空になった食器を見つめていた。
「ーー?どないしたん?」
「……クロムさ。最近、ようやく話してくれるようになったよね」
「せやな。言うても俺はウザがれてるけどな〜。……だからこそやろ?稀琉がまだ怒ってるんは」
「…うん。クロムとこんなに過ごすことは今までなかったから、知らなかったんだけど…。子どもたちだけじゃないんだ。クロムに嫌な事を言ってるの。さっきも話したけどさ。あんな悪意の中にずっと晒されてたんだって思うと……余計ね」
帽子に触りながら稀琉は窓の方に顔を向けた。稀琉は麗弥の前では帽子に触れるのを隠していなかった。小さな頃から一緒に過ごしている2人は家族のようであり、親友同士であった。その為、麗弥の前ではそれを隠す事はしていなかった。周りでは食事を楽しむ他の授業員の楽しそうな声が聞こえてくる。今まで知らなかった友達のその扱いに思うことがあるのだろう。それを感じ取っている麗弥も同じように窓に顔を向けた。
「……そうやな。クロムは強いからなぁ。言葉通り気にしてへんのやろうけど」
「……でもね。最近、前よりもたくさん話してくれるようになったんだ。さっきもね。お礼言ってくれたんだ。どうもって。一言だけだけど…それでも嬉しかった」
「そうか。ほんならもっと2人となかようなって飯食べれるようになるとええよな」
「…うん!」
麗弥のその言葉に稀琉は笑顔を向けた。そこからいつも通りの雰囲気に戻り「そろそろデザート頼もうかな〜」とメニュー表を見た麗弥に「え!?まだ食べるの?」と呆れた顔で言う稀琉であった。

