「え、えー?なんで?」
「……あんま記憶にないんだが、机にナイフ出ててな。そういえば朝にうるさくて起きた気がしたんだ。……お前等、俺の睡眠妨害したりしてねぇだろうな…?」
更に鋭くなった目で稀琉を睨みつける。ドキドキと心音が鳴っている。
ど、どうしよう…!もしバレたら…ロスに猫饅頭渡さなそうだよね…?あんなに楽しみにしてたのに、それは避けたい…!なんとか誤魔化さないと…!
思わず帽子に触れそうになった瞬間であった。
ー「そういう状況になったら、敢えて人の目を見るようにする。帽子には触らずにな。それだけで違うと思うぞ〜」ー
「!」
朝にロスに言われた言葉が頭を過った。一呼吸置いてから、稀琉はスッとクロムの目を見た。
「そうだったの?確かにロスと会話したけど、このくらいの声で話してた程度だよ。オレがロスと会ったのは裏口付近だったし。コットンちゃんに会いに来てたんだって、ロス。でも、中庭に居た時はオレ1人だったよ。オレはいつもの散歩してただけだったから、多分違うと思うんだけど」
ニコリと笑ってハッキリと嘘を交えながらも事実を伝える。表情に出てないが、内心は心音が鳴り響いていた。
う、うまく出来てる…?クロムの目力が強いから分からない…!
「………」
「ていうかナイフって…。クロムが睡眠妨害したら殺すって言ってたのって本当なの?」
観察されている様なクロムの目に耐えられなくなった稀琉は、動揺を悟られないように言葉を続けた。暫く稀琉の顔をジッと見ていたクロムだったが、目を瞑った後はいつもの表情に戻る。
「……そうか。ならいい。もし妨害したら、マジで殺すからな」
「そんなの分かってるよ〜」
ホッと胸を撫で下ろす。
良かった…。なんとか誤魔化せたみたい。朝にロスにアドバイス貰っておいて良かったぁ…。
「……なんかお前、急に表情緩んだな。やっぱ邪魔したんじゃねぇだろうな?」
「え!やめてよ!だってクロムの顔が怖かったんだもん。疑いが晴れて安心しただけだよ〜」
表情に出てしまい、帽子に触れそうになったがなんとか誤魔化す。
…顔が怖いのは本当の事だし。
そう思った稀琉はいつものように返した。
「…ほっとけ。まぁ邪魔してないならいい」
「うん。ところで、気になってたんだけど…。もしかしてクロム、お金は素手で触れない人?」
手に先程使った手袋を裏返して持っているのを見て質問する。気になっていたのはもちろんだが、話題を変える為に聞いていた。
「ああ。こんな誰が触ったか分からねえもん、素手で触れるかよ」
流石にその意図に気付いていないクロムは素直に答えた。再び安堵感を表情に出さないように稀琉は笑顔で話し続ける。
「本当に綺麗好きなんだね。良かったら手袋捨てておくよ。持っているのも嫌でしょ?」
「そうか。悪いな」
持っていた手袋を稀琉に渡すと、それ以上朝の話をしてこなかった。携帯の画面を見て時刻を確認する。
「もうこんな時間か。じゃあ俺は帰る」
「あいつ鬱陶しいくらい楽しみにしてるだろうからな」と言ったクロムは後ろを振り返る。
「うん、分かったよ。またね、クロム」
「ああ」
振り返りもせずに歩き続けるのはいつもの事だ。振り返らないと分かっているが、いつもの様にその後ろ姿に手を振っていた時だった。
「……これ、どうもな」
「!」
猫饅頭が入った袋を軽く上げ、小さな声で礼を言ったクロムに驚く。こういった機会が今までなかったのもあるかもしれない。唖然としていたが、フッと笑った稀琉は笑顔で答える。
「いいえー!ロスによろしく伝えておいて〜!」
振り返りこそしなかったものの、手を軽く上げて返事をする。クロムの姿が見えなくなってから稀琉は部屋に戻った。
「……少しは仲良くなってきてるって事かな。そうだといいな」
手に持っていた手袋を、ゴミ箱に捨てた稀琉は上機嫌で携帯を取り出し、夕食を取るために麗弥に連絡をした。
「………」
一方、自室に戻る為に廊下を歩いていたクロムはふと手に持っていたお土産を見る。
「……あいつこそ、猫の事ペラペラ喋って…弛んでんじゃねぇのか。稀琉になんか吹き込んだみたいだしな」
先程のやり取りに疑問を覚えていたクロムは独り言と呟いた。確信こそ得られなかったが、朝にロスに会って会話をしたと言ってから、極端に帽子に触らなくなっていたからだ。あれだけ,帽子に触れていた稀流が急にだ。それだけでも稀琉が何かを隠しているのに気付くのは簡単な事だった。
……きっとあいつ今頃、少しは俺と仲良くなった気でいんだろうな。……馬鹿な奴だ。そのお人好しのお陰で、助かっただけだっての。
「……早く終わんねぇかな」
これが終われば元通りになる。そうすれば今まで通り、必要最低限の関わりだけになる。次は絶対に見つからねぇようにしないとな。
溜め息をついたクロムは足早に自室に向かった。
「……あんま記憶にないんだが、机にナイフ出ててな。そういえば朝にうるさくて起きた気がしたんだ。……お前等、俺の睡眠妨害したりしてねぇだろうな…?」
更に鋭くなった目で稀琉を睨みつける。ドキドキと心音が鳴っている。
ど、どうしよう…!もしバレたら…ロスに猫饅頭渡さなそうだよね…?あんなに楽しみにしてたのに、それは避けたい…!なんとか誤魔化さないと…!
思わず帽子に触れそうになった瞬間であった。
ー「そういう状況になったら、敢えて人の目を見るようにする。帽子には触らずにな。それだけで違うと思うぞ〜」ー
「!」
朝にロスに言われた言葉が頭を過った。一呼吸置いてから、稀琉はスッとクロムの目を見た。
「そうだったの?確かにロスと会話したけど、このくらいの声で話してた程度だよ。オレがロスと会ったのは裏口付近だったし。コットンちゃんに会いに来てたんだって、ロス。でも、中庭に居た時はオレ1人だったよ。オレはいつもの散歩してただけだったから、多分違うと思うんだけど」
ニコリと笑ってハッキリと嘘を交えながらも事実を伝える。表情に出てないが、内心は心音が鳴り響いていた。
う、うまく出来てる…?クロムの目力が強いから分からない…!
「………」
「ていうかナイフって…。クロムが睡眠妨害したら殺すって言ってたのって本当なの?」
観察されている様なクロムの目に耐えられなくなった稀琉は、動揺を悟られないように言葉を続けた。暫く稀琉の顔をジッと見ていたクロムだったが、目を瞑った後はいつもの表情に戻る。
「……そうか。ならいい。もし妨害したら、マジで殺すからな」
「そんなの分かってるよ〜」
ホッと胸を撫で下ろす。
良かった…。なんとか誤魔化せたみたい。朝にロスにアドバイス貰っておいて良かったぁ…。
「……なんかお前、急に表情緩んだな。やっぱ邪魔したんじゃねぇだろうな?」
「え!やめてよ!だってクロムの顔が怖かったんだもん。疑いが晴れて安心しただけだよ〜」
表情に出てしまい、帽子に触れそうになったがなんとか誤魔化す。
…顔が怖いのは本当の事だし。
そう思った稀琉はいつものように返した。
「…ほっとけ。まぁ邪魔してないならいい」
「うん。ところで、気になってたんだけど…。もしかしてクロム、お金は素手で触れない人?」
手に先程使った手袋を裏返して持っているのを見て質問する。気になっていたのはもちろんだが、話題を変える為に聞いていた。
「ああ。こんな誰が触ったか分からねえもん、素手で触れるかよ」
流石にその意図に気付いていないクロムは素直に答えた。再び安堵感を表情に出さないように稀琉は笑顔で話し続ける。
「本当に綺麗好きなんだね。良かったら手袋捨てておくよ。持っているのも嫌でしょ?」
「そうか。悪いな」
持っていた手袋を稀琉に渡すと、それ以上朝の話をしてこなかった。携帯の画面を見て時刻を確認する。
「もうこんな時間か。じゃあ俺は帰る」
「あいつ鬱陶しいくらい楽しみにしてるだろうからな」と言ったクロムは後ろを振り返る。
「うん、分かったよ。またね、クロム」
「ああ」
振り返りもせずに歩き続けるのはいつもの事だ。振り返らないと分かっているが、いつもの様にその後ろ姿に手を振っていた時だった。
「……これ、どうもな」
「!」
猫饅頭が入った袋を軽く上げ、小さな声で礼を言ったクロムに驚く。こういった機会が今までなかったのもあるかもしれない。唖然としていたが、フッと笑った稀琉は笑顔で答える。
「いいえー!ロスによろしく伝えておいて〜!」
振り返りこそしなかったものの、手を軽く上げて返事をする。クロムの姿が見えなくなってから稀琉は部屋に戻った。
「……少しは仲良くなってきてるって事かな。そうだといいな」
手に持っていた手袋を、ゴミ箱に捨てた稀琉は上機嫌で携帯を取り出し、夕食を取るために麗弥に連絡をした。
「………」
一方、自室に戻る為に廊下を歩いていたクロムはふと手に持っていたお土産を見る。
「……あいつこそ、猫の事ペラペラ喋って…弛んでんじゃねぇのか。稀琉になんか吹き込んだみたいだしな」
先程のやり取りに疑問を覚えていたクロムは独り言と呟いた。確信こそ得られなかったが、朝にロスに会って会話をしたと言ってから、極端に帽子に触らなくなっていたからだ。あれだけ,帽子に触れていた稀流が急にだ。それだけでも稀琉が何かを隠しているのに気付くのは簡単な事だった。
……きっとあいつ今頃、少しは俺と仲良くなった気でいんだろうな。……馬鹿な奴だ。そのお人好しのお陰で、助かっただけだっての。
「……早く終わんねぇかな」
これが終われば元通りになる。そうすれば今まで通り、必要最低限の関わりだけになる。次は絶対に見つからねぇようにしないとな。
溜め息をついたクロムは足早に自室に向かった。

