Devil†Story

ーー「そういう訳で買ってきてたんだ!オレも興味あったし、もし黒猫なら交換しようと思って」


そう言う稀琉はニコニコと笑っていた。クロムが買うと言っていたが、おまけでついてくる置物は完全にランダムだ。1/6の確率でしか手に入らない。それを鑑みて、購入していたのであった。


「…いいのかよ。お前の分ないんじゃねぇのか?」


「いいよ、いいよ!興味はあったけど、あんなに猫が好きなんだもん。きっとロスの元にあった方がいいと思うから。それにどっちかというと、オレは犬が好きなんだよね!だから気にしないで!置物は何が当たったかは、開けてないから分からないけど、良かったら貰ってよ」


変わらず笑顔の稀琉にクロムは手元の饅頭を見つめる。
…わざわざ買ってきたのか、こいつ。本当にお人好しというか、なんというか……。あいつの正体も知らねぇで、おめでたい奴だ。
いまだに笑顔の稀琉に溜め息をつきながら、ポケットに手を入れた。


「……そうか。悪いな」


「どういたしまして!役に立てたなら嬉しいよ」


「で?いくらだった?」


コートのポケットから財布を取り出したクロムは手袋をし、財布を開いた。キョトンとしていた稀琉だったが、手を左右に振る。


「え?お金なんていいよ。プレゼントって事で」


「駄目だ。いくらお前が平和ボケしてるとはいえ、金銭関係はきっちりしねぇと」


「そんないいって!クロムにはいつもお世話になってるし!」


「駄目だって言ってんだろ。世話してねえし。いいからさっさと値段を言え。これ以上は聞かん」


「えー!も〜…。変に真面目なんだから」


「真面目とか真面目じゃねぇとかじゃない。金のことはきっちりしとかねぇと今後、痛い目に遭うぞ。それに俺はお前に施しを受けるほど落ちぶれてねぇんだよ。貸しも作りたくねぇからな」


「またそんな言い方して…。もう少し優しい言い方してよ。はー…分かったよ。680円だったよ」


「うるせぇ。680円だな」


財布を開いて小銭入れを開く。しかし、一瞬眉をひそめてから、10000円を取り出し、稀琉の目の前に突き出す。


「細かいのなかった。面倒だから、これ受け取っとけ」


「え?1万円!?多過ぎだよ!」


「言ってんだろ。細かいのがなかった、貸しは作らねぇって。てめぇが歩いたガソリン代みたいなもんだ」


「流石にこんなに受け取れないって!1000円とかならまだしも!」


「うるせぇな。黙って受け取れっての!この俺に一度出した金、引っ込めろってのかよ」


「そうじゃないけど、こんな受け取れないよ!1000円とかないの?」


「ねぇんだよ」


「そんなに入ってるのに?」


開いている財布にはお札がそれなりに入っている。千円札も入っていそうなものだったが、クロムは首を横に振った。


「ねえって言ってんだろ。全部万札だ」


「えー!それ全部一万円札なの!?ありすぎじゃない?買い物とかしないの!?」


パッと見た所、10万以上は入っている。確かに物欲はなさそうなイメージではあったが、全てが万札であることに驚いた稀琉は目を丸くした。


「あんましねぇな」


「あんまって事は少しはするんだよね?なら買い物してからでいいよ!」


「駄目だ。こういうのは後回しにするもんじゃねえんだよ。それに暫く買い物する予定ねえからな」


「それにしたって!やっぱり受け取れないよ!それにクロムでしょ?お金の事はきっちりしろって言ってるの」


「あー、面倒くせぇな!謝礼だ、謝礼!疲れてんだからさっさと受け取れよ!」


段々と面倒になってきたのか、貧乏ゆすりを始め、押し付けるように一万円札を稀琉に渡した。


「あっ!ちょっと!」


「うるせぇな!この俺が礼だって渡してんだから、黙って受けとんのが筋だろうが!」


財布の蓋を閉めたクロムは手袋を外した。これ以上、話し合う気はないらしい。その事を察した稀琉は溜め息をついて、ようやくそれを受け取った。


「もー…。頑固なんだから……。こんなに貰っちゃって、返って悪い事しちゃった気分だよ」


「うるせぇな。いちいち口に出すな、鬱陶しい」


「言い方!じゃあ今度、これで2人にプレゼント買ってくるよ」


「いらねぇ。受けとらんぞ。もし、無理矢理渡してきたら今度は3倍の金額渡すぞ」


「えー!意味ないじゃん!」


「そう思うなら、余計な労力使うな」


「うーん……。なら、ロスになんか買ってこようかなー。あんなにコットンちゃんにぞっこんだし、猫グッズ買っていったら喜ぶよね、きっと」


「だからいちいち口にすんな。勝手にしろよ。……あ?そういや朝、ロスと会ったんだよな?」


思い出したかのように顎に手を当てたクロムは問いかけた。


「え?うん。そうだよ」


「……もしかして朝、騒いでなかったか?中庭で」


「!」


朝の出来事を思い出したのか、クロムは睨みつけるように稀琉を見た。ギクっと体が跳ね上がりそうになるのを、なんとか抑える。