Devil†Story

「あっぶねー!セーフセーフ!」


「あー、ビックリしたぁ…」


「アハハ!ありがとな、稀琉!めっちゃ似てたよ!」


「本当にやめてよー!もー!恥ずかしかったんだからね!」


「ダハハーー」


ーーバタン!!


大きな声で話していたからか、再びクロムが窓を開けて辺りを見渡した。間一髪、2人は茂みに再度隠れ、互いに口を押さえていた。キョロキョロと辺りを見渡していたクロムだったが、再度稀琉が猫の鳴き真似をすると、盛大に舌打ちをした後に窓を閉めた。


(……場所を移動しようか)
(賛成)


こそこそと2人と1匹は茂みの中を通って、場所を移動した。ようやく、クロムの部屋が見えなくなり、今度こそ茂みから抜け出た。


「危なかったー!」


「まだ心臓がバクバクしてるよ…。クロムってあんなに寝起き悪いの?確かに、睡眠妨害したら殺すって言われたけど、半分冗談だと思ってたよ」


「マジ、マジ。睡眠深めなんだけど、音とかにはかなり敏感でさー。大体は寝てんだけど、朝方は起きる率が高いから、俺もよく怒鳴られてるよ」


「支給品のナイフなんてほとんど使わないんだけど、この為だけにしまってるようなもんだよ。何度、ナイフ投げられたか覚えてねぇな」とケラケラ笑うロスに呆れてしまう。


「……よく一緒の部屋で無事だね、ロス」


「この俺を舐めてもらっては困るよ〜。寝惚けてるあいつの攻撃なんて余裕、余裕!逃げるだけならもっと余裕だし。それに、起きた時に覚えてねぇ事も多いからな。たまーに覚えてると、起きた瞬間殴られそうになるけど」


「オレなら持たないなー…」


「慣れもあるかもな。何はともあれ、稀琉と姫のお陰で助かったよ!ありがとな!」


「それにしても、あいつのあの顔!鬼みてぇだったな!なー?姫ー?」と楽しそうに笑うロスを見る。いつも微笑んではいるが、あまり楽しそうに笑っている所を見たことがなかったのもあり、つられて笑顔になった。


「どういたしまして。…でも、なんでそんなにバレちゃ駄目だったの?覚えていない事も多いんでしょ?」


「言ったろー?今日はあいつに恩を売っとかないとなんない日だって。あの蜘蛛の巣をとる礼として猫饅頭買ってきてくれるって約束しててさ。だから、うやむやにされる不安材料は、少しでもなくしとかないと、いけなかったんだ」


「あー!今日発売だったよね?」


「そうらしいな!饅頭は別に食わなくてもいいんだけどさ。おまけの猫の置物が楽しみなんだよー!黒猫の欲しいなー」


「あれ?あの中だと、見た目がちょっと怖いやつじゃなかった?てっきり白の子が欲しいと思ってたよ。コットンちゃんに似てるし」


「白のも可愛いんだけど、やっぱそれがいいんだよ〜。黄色と赤のオッドアイと、あのツンデレっぽいところが可愛いんだよな〜。あー、楽しみだな〜」


本当に嬉しそうにしているロス。よっぽどその置物が欲しい様子だ。ロスの趣味や私生活は謎に包まれている。先日、クロムに暴露された事によって、初めて猫好きである事が分かったくらいだ。そんなロスが嬉しそうに話しているのは、珍しい光景であった。
…本当に猫が好きなんだな、ロス。意外だったけど……コットンちゃんを姫って呼んでるくらいだもんね。


「……ニャーオ」


その時、不満げな鳴き声が聞こえてきた。見ると、白猫がロスの事をジトッと見ている。明らかにヤキモチを妬いている白猫を見たロスは、慌てて手を振った。


「ご、ごめん!姫!違うんだよ〜。ほら!俺は黒が好きだからさ〜!」


そう言って稀琉の腕で抱かれている猫に手を伸ばすも、ヒョイっと避けられショックを受けている。白猫はスルリと稀琉の腕から抜け出すと、ロスを一瞥してから不機嫌そうにしつつ、エレガントな仕草でカフェの裏口に向かって歩いて行った。


「待って!姫ー!誤解なんだって!悪い!稀琉!俺、姫の機嫌直してもらわないとなんねえから!色々ありがとな!」


「うん。またねー!」


そう言いながら、既に白猫を追いかけているロスに手を振る。追いついたロスは必死に白猫に話しかけているが、変わらずフンっと横を向いている。普段は余裕のある振る舞いをしているロスが、ここまで必死になるのもまた、珍しい光景であった。


「……あのロスをここまで服従させられるなんて…。侮れないな、コットンちゃん」


それにしても…あんなに欲しいんだね、黒猫ちゃん。



「………」


少し考えた後、稀琉は外に出掛けた。その時に、猫饅頭を購入していたのであった。