Devil†Story

ーー朝。稀琉はカフェ内にある中庭を散歩していた。任務がない時は基本的に規則正しい生活をしている稀琉の朝は早かった。花の香りがほのかに香っている。春の朝の肌寒さに身震いした。


(輝太…大丈夫かな……。クロムから貰った文献読んだけど…確かに当てはまるところたくさんあったもんな…)


携帯を開き、読んでいたページにアクセスする。虐待の種類に関するものや、生活習慣などで起こる愛着障がいについてなど一晩では読みきれない程の情報量がそこには載っていた。


(…クロム詳しかったな。オレも一般知識位はあったけど…知らない事もたくさんあったもん。記録も…とても丁寧だった。やっぱり…優しいよね、クロム)


ふと、クロムの自室がある方角を見るとロスが窓から身を乗り出していた。片手にはスプレーと棒を持っている。何処か機嫌良さそうにしている様子が見られた。


「あ、おはようロス!」


「!」


更に窓から身を乗り出そうとしたロスに声を掛けるとこちらを見る。


「おー、おはよう稀琉。随分早いんだなー」


乗り出した身を少し室内へ戻し、窓のへりに腰掛けたロスは微笑みながら挨拶を返した。


(危ねー…。そうだった。稀琉は朝早いんだった…)


クロム達の自室は2階にある。その為、窓から身を乗り出して取ることは、可能ではあった。だが、早朝なら誰も見ていないと思い、飛んで蜘蛛の巣を取ろうとしていた。ロスは内心慌てつつ、表情は微笑んでいた。


「そんな所から身を乗り出してどうしたのー?」


「いやー、ここに蜘蛛の巣張っててさ〜。クロムが嫌だから取れって言うから、取ってたんだよ〜」


「クロムは虫が苦手だもんね。でも、その体勢で取るの危なくない?」


「大丈夫、大丈夫!俺、足長いし!2階なら、にゃんぱらりんって降りれるからー!」


…そもそも飛べるしなと心の中で思いながらロスは足を叩いた。


「そうかもしれないけど…。…ところでにゃんぱらりんって何?」


「あれ知らねー?猫って高いところから落ちてもにゃんぱらりんで着地出来んだぜー?」


「可愛くて身体能力高いのスゲェよなー」と上機嫌で蜘蛛の巣を棒で取っている。にゃんぱらりんとは、猫が空中で回転しながら着地する事で、昔の漫画になぞらえてそう呼ばれている。
簡潔に言えば猫は空中立位反射で、必ず足から着地するので、成猫ならばある程度高いところから落ちても見事着地する事が出来る。しかし、ロスの言葉だけだと、どんな高い場所からも出来る聞こえるのだが、もちろん高ければ高いほど危険であるのには変わらない。


「…限度があると思うよ?」


「またまた稀琉ったら〜。…よし!取れた取れた」


稀琉の言葉を嘘だと思っているロスは、軽く流していた。それから蜘蛛の巣を取った棒を下に捨てた。


「後は…こいつをぶっかけて終わりっ!」


意気揚々とスプレーを窓の周りに吹きかけていく。


「え?かけすぎじゃない?」


「そう思うだろ?でもクロムの奴、この位かけないと安心出来ないってうるせぇからさ」


時折スプレーを振りながらロスは慣れた手つきでスプレーを噴射していく。この手慣れた様子から2人の間では日常茶飯事の出来事らしい。


「そこまでなんだ」


「そうなんだよ…うっし。これで文句ねぇだろ」


本当に空になったスプレーを室内に入れたロスは晴々としていた。


「ロスって凄く面倒見がいいよね」


「え〜?そんな事ねぇけど」


「だってクロムに頼まれたからって、こんな朝早くから蜘蛛の巣取ってあげてるんでしょー?なかなかそこまで出来ないと思うよ」


「まぁなー。こいつは本当、手の掛かる奴なんだよ」


ふと室内の斜め下を見ているロス。そこにクロムが居る事は安易に予想できた。


「え、まさか…そこで寝てるの?クロム」


「当たり。こんな窓開けて話してても起きねぇくらい爆睡中ーーおっと!」


急にロスが猫のように手を払い始めた。


「何してるの?」


「いやね、今小虫が入って来そうだったから払い除けたんだよ。小虫1匹で大騒ぎする奴だから」


半分窓を閉めたロスは同じように手を払い、小虫の襲来から部屋を守っていた。


「よく見えるね!」


「まぁなー。今日は絶対にこいつの機嫌を損ねずに、恩を売っておこないといけないからさ」


今度は綺麗な蝶がヒラヒラと窓に向かっていた。両手をさっしに置いて、じっと見ていたロスだったが、窓の側に来るや否や、手で払った。その風圧に驚いたのか、蝶は違う方向に飛んでいった。


「なんか猫みたい!」


「そうか〜?あんな尊い生き物に似てるなんて
、嬉しい事言ってくれーーおっと」


先程虫を払った時と、同じリアクションをしたロスはカーテンを閉めた。そして、瞬時に窓に手をかけてから下に飛び降りた。