「ねぇ、クロム」
帰路についていると稀琉が話し掛けてきた。
「なんだ」
「…さっきの事だけど…。オレはやっぱり許せないよ、あの子達」
「…まだ言ってんのか。いい加減しつけぇよ」
「だって…輝太にやった事はもちろんだけど…クロムにあんな事言ってさ…」
「だから相手にしてねぇって言ってんだろ」
「それにしたって!インキャとか見た目の事を言ってきて…」
「うるせぇな。さっき言っただろうが。余計なお世話だっての」
「……分かってるよ。でも…友達にそんな事言ってくるのは…例え相手が子どもだったとしてもオレが許せないんだもん」
「………」
稀琉の言葉に返さずに前を向いて歩き続ける。
…だからいつお前と俺が友達になったんだっつうの。あんなクソガキの戯言なんて放っておけって言ってんのにうるせぇな…。大体てめぇの事を言われてんじゃねえのに、何をそんな気にする事があるんだよ。輝太もこいつも面倒くせぇな。
「当人がいいっつってんだから、放っておけよ。面倒くせぇな」
「……クロムはさ…もしかして、前とかも言われた事あったりするの?見た目の事とか…」
「……さぁな。あんなゴミ共に何言われてもどうでもいい」
「……」
その発言で、以前公園で女性達が言っていた事も聞こえていたのだと確信した。
やっぱり…聞こえてたんだね…。クロムは強いから気にしないだろうし、クロムが言うように本当に余計なお世話なのは分かるけど…。でも、やっぱりオレは許せないよ。みんな勝手だ…。確かにオレ達がしている事は…褒められたものじゃないし、寧ろ命を奪う行為をしている。でも…それでもクロムは優しいところたくさんあるもん…。それに通り魔のような事をしている訳じゃない。それなのに…見た目が不気味なんて、どうしてそんな酷い事を言えるのだろう。
少し前を歩くクロムを見ると、全く気にする素振りもなく驚く程、普通であった。
…そういう人がたくさんいるから…オレ達の仕事も成り立っているんだろう。仕事の量を見れば、そういう人で溢れかえってるんだろうなって分かる。…きっとクロムはそういう人達の悪意に晒されてきたんだろうな。だけど…余計なお世話かもしれないけど。それでもオレは君に言い続けたい。君の事をそう思わない人だって居るって分かってもらいたいから。
変わらず歩き続けているクロムの後ろ姿を見た稀琉は走り出した。
「……クロム!」
「さっきからなんだ。うるせぇな」
ぶっきらぼうに返すクロムに、稀琉は後ろから抱きついた。
「おい!触んな!鬱陶しい!」
「オレはクロムの事、そう思ってないからねー」
「ハァ?うぜぇ。寧ろ思ってくれ。そして離れてけ」
「そんな事思わないもんねー!」
「うぜぇな!離れろ!気色悪い!」
それから暫くはその状態のまま、帰路についていた。普段であればそのままカフェに戻るだけなのだが、今日は違っていた。
「…あ。そうだった…。忘れてた」
理由は帰路の途中にコンビニが目に入ったクロムが昨日、ロスと約束した猫饅頭の事を思い出したからだ。
「ーー?どうしたの?」
「いや…ロスに今日発売の猫饅頭買うって約束しててな。…チッ。面倒くせー……。仕方ないが行くか…。買ったら帰るから先戻ってろ」
「え?でもあれって…」
心底面倒そうにコンビニに向かおうと方向転換したクロムに何か言いたげであった稀琉だったが、少し考えた後にその後を追った。
「待ってー!オレも行くよー!」
「ついてくんな。鬱陶しい」
「いいからいいから!」
文句を言うクロムに稀琉は無理矢理ついて行った。
「…は?」
コンビニの入り口でクロムは大変不機嫌そうな声をあげた。何故なら扉の前に「猫饅頭売り切れ」と貼り出されていたからだ。
「あー、売り切れちゃってるねー…」
「…チッ。めんどくせー……。一ヶ所で済めよ…怠い」
「ネットで凄く話題になってたんだよねー。もしかすると…この辺のコンビニは売り切れてるかも」
「ハァ?んな訳ねえだろ。たかが饅頭で。面倒だが買っていかねえと、あいつうるせえからな…。さっさと済ます」
「うーん、でも結構真面目に無くなってる可能性がーーって!待ってよ!」
さっさと歩き出してしまったクロムの後を追い掛ける。たかだか猫の形をした饅頭にちょっとおまけがついている物。そう思っていたクロムはネットの恐ろしさを垣間見る事になる。
ーー30分後。
「……あ?」
先程よりも苛立ちを露わにしたクロムは店の前で険しい表情を浮かべていた。この店に来るまでに既に5軒のコンビニを回っていた。この店で6軒目だったのだが、ことごとく売り切れていた。
「あちゃー…ここも駄目だね…」
「なんでねえんだよ……。何軒目だと思ってんだ…?たかだか…猫の形をしてる饅頭1つ買うのに……なんでこの俺がこんなに振り回されなきゃなんねえんだ…?」
「発売決定してから凄く話題になってたんだよね、猫饅頭。有名な人とかも持ち上げてたから…それでかも」
「…どいつもこいつも…頭沸いてんじゃねえのか…?」
「ちょっと…クロム。怖いからやめて」
店先で貧乏ゆすりをし、殺気を出し始めたクロムを稀琉が宥める。その時、店先に店員が出てきた。
「あっ、すみません!猫饅頭っていつ入荷しますか?」
険しい顔をしているクロムの前に立った稀琉が機転を効かせ、入荷状況を確認した。
「いらっしゃいませ。申し訳ございません…。こちら大人気商品となっており、いつ入荷するかはこちらもハッキリお伝え出来ない状況でした」
困った表情を浮かべながらも、流れるように答えた店員。きっと何回も同じ説明をしてきたのだろう。ハッキリとしない答えにクロムの苛立ちが頂点に達した。
「……チッ」
「あっ…その…も、申し訳ございません…」
「ちょっとクロム!ストップ!怖いから!」
思わず文句を言ったクロムに「落ち着いて!顔が怖い!」と稀琉は相変わらず宥めていた。それを見た店員は困ったような笑顔を作る。
「はは。誠に申し訳ございません。入荷次第この貼り紙はとらせていただき…ま…すの…で……」
段々と語尾が小さくなっている。理由はクロムが怒りのあまり殺気を出し始めたからだ。店員は「ヒッ」と小さく悲鳴をあげて「誠にも…申し訳ございません…」と震えていた。
「あっ、あはは!すみません!どうしても欲しかったもので!お騒がせしました!これで失礼しますね!」
「ほら!クロム行こう!」と、その威圧感で店員を殺すような勢いで憤っているクロムを稀琉が慌てて連れ出した。
帰路についていると稀琉が話し掛けてきた。
「なんだ」
「…さっきの事だけど…。オレはやっぱり許せないよ、あの子達」
「…まだ言ってんのか。いい加減しつけぇよ」
「だって…輝太にやった事はもちろんだけど…クロムにあんな事言ってさ…」
「だから相手にしてねぇって言ってんだろ」
「それにしたって!インキャとか見た目の事を言ってきて…」
「うるせぇな。さっき言っただろうが。余計なお世話だっての」
「……分かってるよ。でも…友達にそんな事言ってくるのは…例え相手が子どもだったとしてもオレが許せないんだもん」
「………」
稀琉の言葉に返さずに前を向いて歩き続ける。
…だからいつお前と俺が友達になったんだっつうの。あんなクソガキの戯言なんて放っておけって言ってんのにうるせぇな…。大体てめぇの事を言われてんじゃねえのに、何をそんな気にする事があるんだよ。輝太もこいつも面倒くせぇな。
「当人がいいっつってんだから、放っておけよ。面倒くせぇな」
「……クロムはさ…もしかして、前とかも言われた事あったりするの?見た目の事とか…」
「……さぁな。あんなゴミ共に何言われてもどうでもいい」
「……」
その発言で、以前公園で女性達が言っていた事も聞こえていたのだと確信した。
やっぱり…聞こえてたんだね…。クロムは強いから気にしないだろうし、クロムが言うように本当に余計なお世話なのは分かるけど…。でも、やっぱりオレは許せないよ。みんな勝手だ…。確かにオレ達がしている事は…褒められたものじゃないし、寧ろ命を奪う行為をしている。でも…それでもクロムは優しいところたくさんあるもん…。それに通り魔のような事をしている訳じゃない。それなのに…見た目が不気味なんて、どうしてそんな酷い事を言えるのだろう。
少し前を歩くクロムを見ると、全く気にする素振りもなく驚く程、普通であった。
…そういう人がたくさんいるから…オレ達の仕事も成り立っているんだろう。仕事の量を見れば、そういう人で溢れかえってるんだろうなって分かる。…きっとクロムはそういう人達の悪意に晒されてきたんだろうな。だけど…余計なお世話かもしれないけど。それでもオレは君に言い続けたい。君の事をそう思わない人だって居るって分かってもらいたいから。
変わらず歩き続けているクロムの後ろ姿を見た稀琉は走り出した。
「……クロム!」
「さっきからなんだ。うるせぇな」
ぶっきらぼうに返すクロムに、稀琉は後ろから抱きついた。
「おい!触んな!鬱陶しい!」
「オレはクロムの事、そう思ってないからねー」
「ハァ?うぜぇ。寧ろ思ってくれ。そして離れてけ」
「そんな事思わないもんねー!」
「うぜぇな!離れろ!気色悪い!」
それから暫くはその状態のまま、帰路についていた。普段であればそのままカフェに戻るだけなのだが、今日は違っていた。
「…あ。そうだった…。忘れてた」
理由は帰路の途中にコンビニが目に入ったクロムが昨日、ロスと約束した猫饅頭の事を思い出したからだ。
「ーー?どうしたの?」
「いや…ロスに今日発売の猫饅頭買うって約束しててな。…チッ。面倒くせー……。仕方ないが行くか…。買ったら帰るから先戻ってろ」
「え?でもあれって…」
心底面倒そうにコンビニに向かおうと方向転換したクロムに何か言いたげであった稀琉だったが、少し考えた後にその後を追った。
「待ってー!オレも行くよー!」
「ついてくんな。鬱陶しい」
「いいからいいから!」
文句を言うクロムに稀琉は無理矢理ついて行った。
「…は?」
コンビニの入り口でクロムは大変不機嫌そうな声をあげた。何故なら扉の前に「猫饅頭売り切れ」と貼り出されていたからだ。
「あー、売り切れちゃってるねー…」
「…チッ。めんどくせー……。一ヶ所で済めよ…怠い」
「ネットで凄く話題になってたんだよねー。もしかすると…この辺のコンビニは売り切れてるかも」
「ハァ?んな訳ねえだろ。たかが饅頭で。面倒だが買っていかねえと、あいつうるせえからな…。さっさと済ます」
「うーん、でも結構真面目に無くなってる可能性がーーって!待ってよ!」
さっさと歩き出してしまったクロムの後を追い掛ける。たかだか猫の形をした饅頭にちょっとおまけがついている物。そう思っていたクロムはネットの恐ろしさを垣間見る事になる。
ーー30分後。
「……あ?」
先程よりも苛立ちを露わにしたクロムは店の前で険しい表情を浮かべていた。この店に来るまでに既に5軒のコンビニを回っていた。この店で6軒目だったのだが、ことごとく売り切れていた。
「あちゃー…ここも駄目だね…」
「なんでねえんだよ……。何軒目だと思ってんだ…?たかだか…猫の形をしてる饅頭1つ買うのに……なんでこの俺がこんなに振り回されなきゃなんねえんだ…?」
「発売決定してから凄く話題になってたんだよね、猫饅頭。有名な人とかも持ち上げてたから…それでかも」
「…どいつもこいつも…頭沸いてんじゃねえのか…?」
「ちょっと…クロム。怖いからやめて」
店先で貧乏ゆすりをし、殺気を出し始めたクロムを稀琉が宥める。その時、店先に店員が出てきた。
「あっ、すみません!猫饅頭っていつ入荷しますか?」
険しい顔をしているクロムの前に立った稀琉が機転を効かせ、入荷状況を確認した。
「いらっしゃいませ。申し訳ございません…。こちら大人気商品となっており、いつ入荷するかはこちらもハッキリお伝え出来ない状況でした」
困った表情を浮かべながらも、流れるように答えた店員。きっと何回も同じ説明をしてきたのだろう。ハッキリとしない答えにクロムの苛立ちが頂点に達した。
「……チッ」
「あっ…その…も、申し訳ございません…」
「ちょっとクロム!ストップ!怖いから!」
思わず文句を言ったクロムに「落ち着いて!顔が怖い!」と稀琉は相変わらず宥めていた。それを見た店員は困ったような笑顔を作る。
「はは。誠に申し訳ございません。入荷次第この貼り紙はとらせていただき…ま…すの…で……」
段々と語尾が小さくなっている。理由はクロムが怒りのあまり殺気を出し始めたからだ。店員は「ヒッ」と小さく悲鳴をあげて「誠にも…申し訳ございません…」と震えていた。
「あっ、あはは!すみません!どうしても欲しかったもので!お騒がせしました!これで失礼しますね!」
「ほら!クロム行こう!」と、その威圧感で店員を殺すような勢いで憤っているクロムを稀琉が慌てて連れ出した。

