「……なんだ。遊んでねえのか」
「ーー!」
突然後ろから声を掛けられる。その声に心音が更に大きく鳴り響いた。後ろを振り返ると案の定そこにはクロムが立っていた。手をハンカチで拭いているところを見ると手を洗いに行ってきたらしい。
「ク…クロムお兄ちゃん…」
「あー、やっぱり!手を洗いに行ってきたんだね」
「え?」
始めから分かっていたように話す稀琉にキョトンとする。稀琉の問いに忌々しそうにクロムは返した。
「さっきあのクソガキ共のボール触っちまったからな。あんな小汚ぇガキ共のボールだ。何ついてるか分かったもんじゃねぇからな」
「え……」
輝太はクロムの言葉が俄かに信じられなかった。太一達は比較的富裕層の家系の子ども達である。格好も綺麗でボールなんかは新品そのものだ。それなら自分の方が汚い格好をしているのは幼いながらも感じ取っていた。そのボールや太一達に対してクロムが“小汚い”と言っているのが理解できなかった。
「で、でも…太一くん達は服もボールも新しいのだって…」
「新品だからなんだ。あんなクソガキ共…何触ってるか分かったもんじゃねぇよ。ボールだって手垢まみれに決まってーー…駄目だ。寒気してきた」
そのまま自然と輝太の隣に座りつつ、ポケットに手を入れた携帯用の除菌スプレーを取り出し消毒した後、除菌シートで手を拭く。拭いたシートを地面に捨てようとしたのを稀琉が慌てて受け止めた。
「コラ!ゴミ袋持ってるからその辺に捨てないの!」
「あぁ?こんな汚ねぇもん持ってられるかよ」
「言ってくれれば捨てるよ!」
「…!」
変わらずに稀琉と話しているクロムに唖然とした。そんな輝太の様子を見た稀琉が説明をしようと口を開いた。
「輝太。クロムはね、凄く綺麗好きなんだ。だから汚いものは触りたくないんだよ。触ったらこんな感じで手を洗わないと気が済まないんだ」
「え……」
「当たり前だろ。汚ねぇもんに触りたくないのは。衣類につくのもお断りだな」
「あいつらのボール拭いたら絶対真っ黒になるぞ。…クソ。寒気がする」と悪態をついた。クロムの方を見ると普段と全く変わらない。コートが輝太の体に触れているが、全く気にする素振りもない。そもそも今までも“距離感を持て”と言われたことはあっても“汚いから触るな”とは言われたことがなかった。
「………」
手が冷たいのかしきりに手を摩っていた。普段なら「あっためてあげるー!」と触れているところだ。
「…ゴクッ」
静かに生唾を飲む。昨日までは何も考えずにクロムに触れていたが「綺麗好き」という言葉を聞いたせいか緊張が走る。…もし嫌がられたら?そう思うと震えが止まらなくなりそうだった。
ーー「我慢しないからね」
先程稀琉に言われた言葉を思い出す。ギュッと拳を握りしめた後、意を決して手を伸ばした。クロムの手に触れると氷のように冷たくなっていた。すぐに触れられた事に気付いたクロムが輝太の方を向く。ドクンと大きく心臓が鳴り響いた。少しの間の後、クロムは口を開いた。
「…なんだよ。いくらお前でも冷てえんじゃねぇのか?」
「…!」
やはり普段と変わらずに返してくるクロムの反応に涙が出そうな程、安心する。
「…ううん!大丈夫だよ」
それを隠すように冷たくなったクロムの手を摩った。やはり拒絶されることはなく、されるがままにされていた。チラッと輝太の足を見たクロムが口を開いた。
「さっき足痛めたんじゃねぇのか。あのクソガキに押されて尻餅ついただろ。いてぇなら稀琉に診て貰えよ。後で悪化しても面白くねぇからな」
「ーー!」
「え!?痛めたの!?」
驚いた声をあげた稀琉にクロムは溜め息をついた。
「…さっき連れてったのに気付いてねぇのかよ。歩く速度が落ちてるし、足引きずってんだから見りゃ分かんだろ。昨日から色々怪我してんだからよ。ボケっとしてんじゃねぇよ」
「そうだった!元々怪我してたんだよね…。あー!やっぱりあの子達許せない!酷い事言うだけじゃなくて、怪我までさせんなんて!」
「…うるせぇな。声がでけぇんだよ。いいからさっさと診てやれ」
「これが怒らずにいられる!?もー!!」
「うるせぇっての!いいから黙ってやれ!ボケが!」
普段通りのクロムの様子に唖然としていた輝太だったが、再び泣きそうになりながらも「…ありがとう、クロムお兄ちゃん」と感謝の言葉を述べた。それに対しクロムは「んな事どうでもいいからさっさと診せろ」とぶっきらぼうに返した。その後、応急処置をしてもらうとすぐに帰る時間となり、それぞれ帰路につく事となった。
「ーー!」
突然後ろから声を掛けられる。その声に心音が更に大きく鳴り響いた。後ろを振り返ると案の定そこにはクロムが立っていた。手をハンカチで拭いているところを見ると手を洗いに行ってきたらしい。
「ク…クロムお兄ちゃん…」
「あー、やっぱり!手を洗いに行ってきたんだね」
「え?」
始めから分かっていたように話す稀琉にキョトンとする。稀琉の問いに忌々しそうにクロムは返した。
「さっきあのクソガキ共のボール触っちまったからな。あんな小汚ぇガキ共のボールだ。何ついてるか分かったもんじゃねぇからな」
「え……」
輝太はクロムの言葉が俄かに信じられなかった。太一達は比較的富裕層の家系の子ども達である。格好も綺麗でボールなんかは新品そのものだ。それなら自分の方が汚い格好をしているのは幼いながらも感じ取っていた。そのボールや太一達に対してクロムが“小汚い”と言っているのが理解できなかった。
「で、でも…太一くん達は服もボールも新しいのだって…」
「新品だからなんだ。あんなクソガキ共…何触ってるか分かったもんじゃねぇよ。ボールだって手垢まみれに決まってーー…駄目だ。寒気してきた」
そのまま自然と輝太の隣に座りつつ、ポケットに手を入れた携帯用の除菌スプレーを取り出し消毒した後、除菌シートで手を拭く。拭いたシートを地面に捨てようとしたのを稀琉が慌てて受け止めた。
「コラ!ゴミ袋持ってるからその辺に捨てないの!」
「あぁ?こんな汚ねぇもん持ってられるかよ」
「言ってくれれば捨てるよ!」
「…!」
変わらずに稀琉と話しているクロムに唖然とした。そんな輝太の様子を見た稀琉が説明をしようと口を開いた。
「輝太。クロムはね、凄く綺麗好きなんだ。だから汚いものは触りたくないんだよ。触ったらこんな感じで手を洗わないと気が済まないんだ」
「え……」
「当たり前だろ。汚ねぇもんに触りたくないのは。衣類につくのもお断りだな」
「あいつらのボール拭いたら絶対真っ黒になるぞ。…クソ。寒気がする」と悪態をついた。クロムの方を見ると普段と全く変わらない。コートが輝太の体に触れているが、全く気にする素振りもない。そもそも今までも“距離感を持て”と言われたことはあっても“汚いから触るな”とは言われたことがなかった。
「………」
手が冷たいのかしきりに手を摩っていた。普段なら「あっためてあげるー!」と触れているところだ。
「…ゴクッ」
静かに生唾を飲む。昨日までは何も考えずにクロムに触れていたが「綺麗好き」という言葉を聞いたせいか緊張が走る。…もし嫌がられたら?そう思うと震えが止まらなくなりそうだった。
ーー「我慢しないからね」
先程稀琉に言われた言葉を思い出す。ギュッと拳を握りしめた後、意を決して手を伸ばした。クロムの手に触れると氷のように冷たくなっていた。すぐに触れられた事に気付いたクロムが輝太の方を向く。ドクンと大きく心臓が鳴り響いた。少しの間の後、クロムは口を開いた。
「…なんだよ。いくらお前でも冷てえんじゃねぇのか?」
「…!」
やはり普段と変わらずに返してくるクロムの反応に涙が出そうな程、安心する。
「…ううん!大丈夫だよ」
それを隠すように冷たくなったクロムの手を摩った。やはり拒絶されることはなく、されるがままにされていた。チラッと輝太の足を見たクロムが口を開いた。
「さっき足痛めたんじゃねぇのか。あのクソガキに押されて尻餅ついただろ。いてぇなら稀琉に診て貰えよ。後で悪化しても面白くねぇからな」
「ーー!」
「え!?痛めたの!?」
驚いた声をあげた稀琉にクロムは溜め息をついた。
「…さっき連れてったのに気付いてねぇのかよ。歩く速度が落ちてるし、足引きずってんだから見りゃ分かんだろ。昨日から色々怪我してんだからよ。ボケっとしてんじゃねぇよ」
「そうだった!元々怪我してたんだよね…。あー!やっぱりあの子達許せない!酷い事言うだけじゃなくて、怪我までさせんなんて!」
「…うるせぇな。声がでけぇんだよ。いいからさっさと診てやれ」
「これが怒らずにいられる!?もー!!」
「うるせぇっての!いいから黙ってやれ!ボケが!」
普段通りのクロムの様子に唖然としていた輝太だったが、再び泣きそうになりながらも「…ありがとう、クロムお兄ちゃん」と感謝の言葉を述べた。それに対しクロムは「んな事どうでもいいからさっさと診せろ」とぶっきらぼうに返した。その後、応急処置をしてもらうとすぐに帰る時間となり、それぞれ帰路につく事となった。

