Devil†Story

同日。クロムは変わらずに公園に居た。輝太はいつも通り公園に来た。しかし、手足に痣が増えており、昨日の怪我もまだ痛むようだった。


その傷を見た瞬間、輝太は「今度は寝てる時にぶつけちゃったみたい。僕、寝相悪くなっちゃったのかな?」と言った。きっと、暴力を振るわれただろうがそう言っていた。こういう時、子どもは親を庇う。言えば…親を裏切る事になるから。どんな親でも…親は親であり、愛情をかけて欲しいのだ。


「本当に大丈夫だよ?ちょっとぶつけちゃっただけだし」


ニコニコと笑う輝太のその笑顔は、無理をしているようにしか見えなかった。


「…輝太?無理はダメだからね?」


稀琉は敢えてそこには触れずに声を掛け、頭を撫でていた。どうやらクロムに言われた通りに文献を読んで学んだらしい。ゆっくりとした動きで、頭を撫でていた。


「…うんっ!」


輝太は嬉しそうに笑っていた。そこからは普段とあまり変わらず、遊具で遊んだり、絵を描いたり、話をして過ごしていた。クロムはそれを時折眺めつつ、本を読んでいた。


「クロムお兄ちゃん。本好きなの?」


「そうだな」


稀琉がトイレに行っているのに気付いていたクロムは、一瞥もせず輝太の質問に答えた。


「見てもいい?」


「…お前には難しいんじゃねえのか」


クロムが読んでるのは普通の小説だ。もちろんルビは振っておらず、表現も子どもには難しい。


「本当だー。僕には全然分かんないや」


「だろうな」


「どんなお話なの?」


「お星様が描いてあるね!」と小説の表紙を見てから、輝太は隣に座った。この小説は表紙の可愛らしさや、冒頭の絵本調の始まり方だけ見れば子どもにも、見やすい印象を受ける。しかし、実際は語り手の星の子の心の葛藤が描かれており、内容としては小学生が見るようなものではなかった。少し考えた後、クロムは簡単に説明する。


「俺も途中までしか読んでねぇから結末は知らねぇが、弱っちぃ星の子どもが主人公だ。他の奴と違う見た目でいじめられてたんだが、自分を犠牲にしてでも仲間とかを守ったり、人間の夢を叶えてく内に人気者になるって話だな」


「へぇー!なんで人間の願いを叶えるの?」


「それは流れ星って事じゃねぇのか」


「そっかぁ!僕見た事ないんだよね。3回願い事を言えれば叶うんだったよね?」


キラキラとした笑顔で聞いてくる輝太の言葉に、また記憶の扉が開かれた。


ー◯◯!ほら。見てみろよ。流れ星だ!ー
ー…!…初めて見たー
ーお?初めて見たのか!どうだ?綺麗だろ?ー
ー……うん。すぐ消えるけど…綺麗だー
ーハハッ!今日は流星群らしいからな!沢山見れると思うぞ!ー
ー……うん。眠いけど……見ててもいいー
ーそうだな!今日は夜更かししようか!ー


「………」


…またか……。本当なんなんだよ。最近…物思いに更け過ぎじゃねえのか。ロスの野郎にもどやされてるってのに……。勝手に頭ん中に再生されやがって…。しかもやけに鮮明なのが…また腹立つ。……捨ててきたんだろ。全て。今更戻りたいとか思ってんのかよ。


ーーお前まさか“目的“忘れてたりしてねぇよな?


ロスの言葉が頭を過ぎる。
……ロスに返した言葉は事実のはずだ。なのに、何で俺はこんな簡単に"それ"を安売りしてやがるんだ。


「ー?クロムお兄ちゃん何か怒ってる?」


「!」


思わず表情に出ていたのだろう。輝太が不安気な顔でこちらを見ていた。
…本当、こいつを見てると勝手に記憶が流れ出すな。そんな意識はねえがロスが言うように、無意識にガキの頃の俺とこいつを重ねてやがんのか?……だったらとんだ腑抜けに成り下がったもんだ。…"あれ"はこんなガキに絆される程度の事だったっていうのか?…ちげぇだろ。
溜め息をつくと輝太はビクッと身を縮こませた。


「…怒ってねぇよ。お前は見た事がねぇから分からないと思うが、3回願い事言えんなら言ってみろってくらい一瞬で消えるぞ」


再び本に目を落とし、字を追う。普段通りに返された事により、安心したようで輝太はほっとしたように頬を緩ませた。


「良かったぁ!そうなんだねっ!僕も見てみたいなぁ」


「いつか見れんじゃねぇの」


「うん!絶対見るよ!でもその流れ星の子凄いね!そんな早いのに聞けるなんて!」


「そうだな」


「いいなぁ…。僕も人気者になりたいなぁ」


「……」


横目で輝太を見るとニコニコと笑いながら、前を向いていた。この物語はそんな、綺麗なまま進まない。少し先の展開は、人によっては鬱展開という落差があるものだった。また少し考えた後にクロムは口を開いた。


「…どうだろうな。そいつはずっと虐げられてた。その時に受けた言葉は…いくら人気者になってチヤホヤされてもずっと残り続けてる。それを抱えて生きてくのは地獄かもしれねぇぞ」


「え?」


「そんな簡単に消えるもんじゃねぇだろ。自分に向けられた悪意なんて。自分でも気付かねえ内に残り続けたそれが…白になる事はない。それどころか蝕み続けていつか牙を剥く事もあるかもな」


「………」


難しい言葉を使って話していたが、なんとなく理解は出来たのだろう。思うところがあったのか、ギュッとズボンを握り締めていた。クロムはそれ以上は何も言わず、そのまま小説を読み続ける。


「…クロムお兄ちゃん。あのね…僕ねーー」


輝太が何か言いかけた時だった。