「そうじゃとも。恋は良い。愛する者がいるのは幸せなものじゃ。ワシとばーさんの話を聞いておれば分かるじゃろう?」
「恋…ねぇ」
幸せそうに笑う老人を見てから、机に肘をついて庭園を眺める。ロスの頭の中には、1人の人物が浮かび上がっていた。肘をついた際に少し前のめりになった為か、ジャラリと首につけていたネックレスが服から飛び出した。クロムがつけているピアスと似ている、ティアドロップ型のネックレスだ。真紅のガーネットを連想させる色合いの石があしらわれている。その石は太陽光に照らされて輝いていた。それを見たロスは僅かに頬を緩ませる。
「ほれほれ、どうなんじゃ?」
「そうだな〜…。昔したかもしれないね〜」
飛び出したネックレスを服の下に入れたロスは目を瞑りながら答えた。
「昔と言ったら…小学生の時とかかの?」
「そうね〜。そんくらいかな〜」
「なんじゃ、曖昧じゃのう。それならば…幼稚園とかかの?」
「どうだろうな〜。…ずっとずーっと前かもね〜」
普段よりも柔らかな表情で微笑むロスの顔をじっと見つめた。
「ずっと前とな?ふむ…やはりか。お前さん…人間じゃないんじゃろう?」
「!」
これまた突然の問い掛けに僅かに驚く。
…なんだこのじーさん。まさか俺が悪魔だって気付いたのか?…いや。んな訳ねぇよな。同じ話を繰り返ししてるじーさんに俺の正体が分かる訳ない。
「…どーしてそう思うんだ?」
目を細めて笑いながら、いつものように飄々と返した。
「お前さん日光が苦手なんじゃろ?ワシが相手にした者たちも日差しが強い日には体を覆っておったのぅ」
「…相手にしてたって言うのはよく分かんねぇけど、俺の美肌見えてる?ただ単に紫外線が嫌いなだけだよ〜」
「ほっほっほ。隠さんでも良い。今こそこんなヨボヨボじゃが昔は兵士をしてた事もあるからのう。その時に魔の者とも対峙した事があってなぁ。直接会えばなんとなく分かるもんじゃよ。まぁ誰も信じちゃくれんがのぅ」
朗らかに笑う老人はずっと水蓮を見ていた。
(あー…なるほどな。少し前にあった大きな戦争の時に、暗躍してた魔物と対峙した事あんのか)
今の時代になる少し前。世界は大きな戦争をしていた。その際に一部の魔物は、それに高じて人間の負の感情を取り込んでいた。また、人間に化けて直接人間の魂を奪っていた魔物も存在していた。老人が言っている魔の者はその者の事であろう。
(…だったら空気感とかで分かるかもな。もし、本当に俺の正体に気付いたのなら…生い先短いのに悪いけど生かしてはおけねぇな。どれどれ…ちょっと脅かしてやるか)
密かにそう思っていたロスは更に目を細めて微笑する。
「ふーん…。仮に俺が人間じゃなかったとして…そんな発言したら駄目なんじゃねぇの〜?…殺されちゃうかもよ?」
フードの影になっている紅黒い瞳が老人を捉えた。微笑こそしているが、体の中が凍りつくような冷たい雰囲気を醸し出している。老人はそんなロスの様子を見たが、再び水蓮に目を戻した。
「ほっほ。お前さん相当強い魔の者じゃろ。敵わない事など初めから分かっておるよ。じゃが…今更、何も怖いものはないからの。それにお前さんからは…殺気が感じられない。例え、それがまやかしだったとしても…ばーさんに早く会えるのであれば、悪くないしのぅ」
「………」
老人の言葉にロスはそのまま老人の様子を見ていた。
(嘘は…ついてねぇな。大体の人間はさっきの脅しで屈するんだがな。本当に殺されても別にいいって感じだ。寧ろ望んでるのかもな。…本当にこのじーさんは、ばーさんの事を好きだったんだな)
物々しい話をしているのにも関わらず、老人の視線は離される事なく水蓮に向けられている。その様子に、老人が写真に映る女性をどれだけ愛していたか見てとれた。
「………」
「綺麗じゃのう…。お前さんもそう思わないか?」
その様子を見たロスは肩をすくめた。いまだに水蓮を見つめる老人に声を掛ける。
「…じーさんさ。ばーさん落とすのに時間がかかったって言ってただろ?だったら少しくらい待たせてもいいと思うけど」
「…なんじゃって?」
「後、なんだっけ?水墨画ででっけぇ水蓮描いてんだろ?それ完成させなくていいのか?」
「そうじゃったのう…。ワシが死んだら飾って貰おうと思っとったんじゃ」
「だろ〜?悔いが残ったまま死んだら死に切れねぇだろ。それに…もう少しでばーさんと会えんだから急がなくていいんじゃねぇの〜?全部やりきってさ。それで会えたらいいな〜」
老人がこちらを見るのと同時に、ロスは水蓮に目を移した。…本当俺も甘くなったもんだ。まあ…死を望んでいる、生い先短いじーさんの命を奪ったところで何も面白くねえし。
自身の甘さに溜め息をついたロスは、可憐に咲く水蓮を見ていた。暫くの間、沈黙が流れる。
「……そうじゃな。お前さんも…会えるとええのぅ」
「!」
何気ない一言にロスは思わず老人の方を向いた。変わらず仏のような顔をして微笑みながら水蓮を見ていた。
「じーさん」
「……はて?なんじゃったかのぅ。…おお!そうじゃった、そうじゃった。それでのぅ。ワシが若かった頃はーー」
再び同じ話を始めた老人に唖然とする。しかし、すぐにまた呆れたように笑いながら「だからそれさっき聞いたって〜」と手をヒラヒラとさせて答えた。
「恋…ねぇ」
幸せそうに笑う老人を見てから、机に肘をついて庭園を眺める。ロスの頭の中には、1人の人物が浮かび上がっていた。肘をついた際に少し前のめりになった為か、ジャラリと首につけていたネックレスが服から飛び出した。クロムがつけているピアスと似ている、ティアドロップ型のネックレスだ。真紅のガーネットを連想させる色合いの石があしらわれている。その石は太陽光に照らされて輝いていた。それを見たロスは僅かに頬を緩ませる。
「ほれほれ、どうなんじゃ?」
「そうだな〜…。昔したかもしれないね〜」
飛び出したネックレスを服の下に入れたロスは目を瞑りながら答えた。
「昔と言ったら…小学生の時とかかの?」
「そうね〜。そんくらいかな〜」
「なんじゃ、曖昧じゃのう。それならば…幼稚園とかかの?」
「どうだろうな〜。…ずっとずーっと前かもね〜」
普段よりも柔らかな表情で微笑むロスの顔をじっと見つめた。
「ずっと前とな?ふむ…やはりか。お前さん…人間じゃないんじゃろう?」
「!」
これまた突然の問い掛けに僅かに驚く。
…なんだこのじーさん。まさか俺が悪魔だって気付いたのか?…いや。んな訳ねぇよな。同じ話を繰り返ししてるじーさんに俺の正体が分かる訳ない。
「…どーしてそう思うんだ?」
目を細めて笑いながら、いつものように飄々と返した。
「お前さん日光が苦手なんじゃろ?ワシが相手にした者たちも日差しが強い日には体を覆っておったのぅ」
「…相手にしてたって言うのはよく分かんねぇけど、俺の美肌見えてる?ただ単に紫外線が嫌いなだけだよ〜」
「ほっほっほ。隠さんでも良い。今こそこんなヨボヨボじゃが昔は兵士をしてた事もあるからのう。その時に魔の者とも対峙した事があってなぁ。直接会えばなんとなく分かるもんじゃよ。まぁ誰も信じちゃくれんがのぅ」
朗らかに笑う老人はずっと水蓮を見ていた。
(あー…なるほどな。少し前にあった大きな戦争の時に、暗躍してた魔物と対峙した事あんのか)
今の時代になる少し前。世界は大きな戦争をしていた。その際に一部の魔物は、それに高じて人間の負の感情を取り込んでいた。また、人間に化けて直接人間の魂を奪っていた魔物も存在していた。老人が言っている魔の者はその者の事であろう。
(…だったら空気感とかで分かるかもな。もし、本当に俺の正体に気付いたのなら…生い先短いのに悪いけど生かしてはおけねぇな。どれどれ…ちょっと脅かしてやるか)
密かにそう思っていたロスは更に目を細めて微笑する。
「ふーん…。仮に俺が人間じゃなかったとして…そんな発言したら駄目なんじゃねぇの〜?…殺されちゃうかもよ?」
フードの影になっている紅黒い瞳が老人を捉えた。微笑こそしているが、体の中が凍りつくような冷たい雰囲気を醸し出している。老人はそんなロスの様子を見たが、再び水蓮に目を戻した。
「ほっほ。お前さん相当強い魔の者じゃろ。敵わない事など初めから分かっておるよ。じゃが…今更、何も怖いものはないからの。それにお前さんからは…殺気が感じられない。例え、それがまやかしだったとしても…ばーさんに早く会えるのであれば、悪くないしのぅ」
「………」
老人の言葉にロスはそのまま老人の様子を見ていた。
(嘘は…ついてねぇな。大体の人間はさっきの脅しで屈するんだがな。本当に殺されても別にいいって感じだ。寧ろ望んでるのかもな。…本当にこのじーさんは、ばーさんの事を好きだったんだな)
物々しい話をしているのにも関わらず、老人の視線は離される事なく水蓮に向けられている。その様子に、老人が写真に映る女性をどれだけ愛していたか見てとれた。
「………」
「綺麗じゃのう…。お前さんもそう思わないか?」
その様子を見たロスは肩をすくめた。いまだに水蓮を見つめる老人に声を掛ける。
「…じーさんさ。ばーさん落とすのに時間がかかったって言ってただろ?だったら少しくらい待たせてもいいと思うけど」
「…なんじゃって?」
「後、なんだっけ?水墨画ででっけぇ水蓮描いてんだろ?それ完成させなくていいのか?」
「そうじゃったのう…。ワシが死んだら飾って貰おうと思っとったんじゃ」
「だろ〜?悔いが残ったまま死んだら死に切れねぇだろ。それに…もう少しでばーさんと会えんだから急がなくていいんじゃねぇの〜?全部やりきってさ。それで会えたらいいな〜」
老人がこちらを見るのと同時に、ロスは水蓮に目を移した。…本当俺も甘くなったもんだ。まあ…死を望んでいる、生い先短いじーさんの命を奪ったところで何も面白くねえし。
自身の甘さに溜め息をついたロスは、可憐に咲く水蓮を見ていた。暫くの間、沈黙が流れる。
「……そうじゃな。お前さんも…会えるとええのぅ」
「!」
何気ない一言にロスは思わず老人の方を向いた。変わらず仏のような顔をして微笑みながら水蓮を見ていた。
「じーさん」
「……はて?なんじゃったかのぅ。…おお!そうじゃった、そうじゃった。それでのぅ。ワシが若かった頃はーー」
再び同じ話を始めた老人に唖然とする。しかし、すぐにまた呆れたように笑いながら「だからそれさっき聞いたって〜」と手をヒラヒラとさせて答えた。

