Devil†Story

「………ハァ」


稀琉と別れて自室に向かう廊下でクロムは溜め息をついた。
…我ながらなんであんな事したんだか。わざわざ輝太の記録を作って…それを稀琉に送るなんて…ヤキでも回ってきてんのか。

クロムは自分がした行動に疑問を覚えていた。

…掘り返さねえんじゃなかったのかよ。第一、俺には関係ねえ事だろ。あいつがどうなろうと……関係ない事のはずだ。何になんであんな事したんだろうな。……クソ。俺も平和ボケしてきてんのか。

眉間に皺を寄せながら自室の中に入る。

「おー。おかえり〜…」

相変わらず疲れ果てているロスが机に突っ伏しながら手をヒラヒラさせた。

「……あぁ」

少し前までは返すことがなかったが、最近はロスが「返事をしろ!」とうるさいので返していた。そのままロスの横を通り過ぎる。


「あっ!ちょい待ち!!コートはーー」


ロスが言いかけている時にはクロムはコートを脱いでハンガーに手をかけていた。


「お?珍しい事もあったもんだな。ついに俺の言葉が届いたか」


「偉いじゃねえか」とドヤ顔をしやがっているロスにイラっとしながらも、黙ってコートをクローゼットにかけて入れる。そしてシャワールームへ直行した。


「おー…?なんだ。今日はヤケに素直じゃんか」


「……うるせぇ。立ち話してたから寒くなっただけだ」


「立ち話?確かにいつもより帰ってくんの遅かったなー」


「……入ってくる」


ロスの問いには答えずに俺はシャワールームの扉を閉めた。服や包帯を脱いでシャワーを浴びる。熱めのシャワーを浴びる。


「………」


お湯が体を伝ってタイルへ流れ落ちていく。今日の記録を作った事だけではなく、その記録を書いていた際に自身の行動も振り返る事になった。
…けん玉を教えたり、稀琉の茶番に付き合ったり……何してんだよ、俺は。輝太に同情でもしてんのか。…バカじゃねえの。それもこれも…こんなクソみてえな生活しているせいか。あいつらに怪我が見つかったのは…今回が初めてだった。それまでは馴れ合ってなかったから、2人が待ち構えている事なんてなかった。それがいつの間にか寝ないで俺の帰りを待つようになっている。…ロスとの関係だってそうだ。慣れてきてるからと…一線を引く事を忘れてんじゃねえのか。少し…頭冷やさねえと駄目だな。

シャワーのお湯を止めて今度は水を浴びる。寒暖差に体がビクッと反応してしまうがすぐに慣れてきた。水を浴びていると段々と頭がハッキリしてきた。
……平和ボケしてんじゃねぇぞ。後1週間と少し…それで終いだ。元の生活に戻れば…少しは俺のボケもなくなるだろう。
段々と体が水の冷たさに負けてきて震えが起きている。再びお湯を浴びてからシャワールームから出る。ドライヤーで髪を乾かしてから部屋へ戻った。


「随分長かったな。そんな寒かったのかー?」


相変わらず机に突っ伏していたロスが、直様声を掛けてくる。


「……そんなところだ」


「ふーん…。…ん?お前…水でも浴びてたのか?」


「……なんでだ」


「いや…唇が若干紫色してるから」


…チッ。相変わらず細かいところまで見てくる野郎だ。湯を浴びたんだがな。まだ血色が戻ってなかったか。
ベッドに向かいながら俺は適当な言い訳をする。

「……疲れたんでな。サウナの代わりだ」


先日、稀琉に聞かされた奴のブームを言い訳に使う。自宅で出来るサウナで熱めのシャワーを浴びてから水を浴び、その後座って休むとサウナと同じように整うというものだった。


「…サウナァ?前に「あんなのやる奴の気が知れねぇよ」とか言ってなかったか?」


寝転ぶ俺とは対照的にロスは体を起こして俺の方を見てくる。
…本当細え事まで覚えてんじゃねえよ。うぜぇ。


「……そうだな。やってみたが何も成果を得られた感じはなかった」


再び適当な事を言う。水を浴びていた理由は出来れば知られたくないが…多分こいつの事だから掘り返して来るだろうな。


「……なんか今日のお前変じゃねぇ?なんかあったのか?」


「…別に何もねぇよ。てめぇが毎日うるせぇからやってやってんだろ」


案の定、突っ込んできたロスに一言だけ返す。


「……さっき、稀琉が部屋に来たんだけどさー。お前に聞きたい事あるって。風呂入ってるって言ったら、明日聞くから大丈夫。今日はありがとうって言っといてーって言われたんだよ。…それと関係あんの?」


「!」


その言葉に俺は僅かに反応する。…チッ。あいつ…部屋まで来るんじゃねぇよ。余計な事知られるだろうが。


「…疲れたって毎日言ってるけど…なかなか“光“には慣れねぇもんだな?…堕ちんのは早かったのに」


「……なんだよ。ヤケに詮索してくるな」


「まぁなー。俺は悪魔だからな。…お前のその心の揺らぎを見ればそりゃ知りたくもなるよ」


「!」


チラリと横目でロスを見るとニヤニヤと卑しい笑みを浮かべている。
…そこまで知られてりゃ…黙っている方がみみっちいな。
溜め息をついたクロムは窓の方を向いてロスの問いに答えた。


「…輝太」


「ん?」


「あいつ俺が思った通り虐待されてるらしい。それで稀琉がアホな事しようとしていたから止めたんだよ。あいつ頑固だからな。変な事させねぇ様に色々してやっただけだ」