なぜなら、いつもなら元気よく走ってくる輝太が今日はとぼとぼと…と言うよりも少しふらふらしながらこっちに向かっていたからだ。顔は完全に下を向いている。
…具合でも悪いのか?
そんな輝太の様子を見ていないのか、待っていた稀琉が逆に走って行った。
「輝太!」
「!」
輝太は顔を上げた。一瞬だけだったが浮かない表情をしていたのを見逃さなかった。しかし、瞬時に表情を変えて嬉しそうに笑顔を作っていた。
「稀琉お兄ちゃん!クロムお兄ちゃん!」
手を振っている稀琉の所にいつもの様にニコニコしながら寄っていく。その姿はいつもの輝太そのものだ。何処も気になる部分は見受けられない。
…具合が悪いわけじゃねぇのか……。
「どうしたの?今日は遅かったね?」
「あっ、うん。学校で少しだけ居残りがあって…それで先生からお母さんに連絡がいったみたいで、宿題をしてから来たから…」
輝太は少し困った顔をしながら答えていた。やはり居残りをしていたようだ。母親に連絡が行ったと言う事はきっと叱られたのだろう。
…にしても教師から連絡行く前に気付きそうなもんだがな。
クロムは密かにそう思っていた。稀琉には話していなかったが、輝太の勉強の遅れは深刻だと感じていたからだ。算数だけではなく平仮名はかろうじて書けるが、カタカナは思い出せない事も多かった。書くだけではなく読むのも苦手なようでいまだに字を指で追っている。字も筆跡が薄く読みづらかった。接している感じや、教えた時の様子から学習障がいがあるようには感じない。輝太は2年生だ。ここまで至るまでに母親が気づかないものなのかと疑問を覚えたのだった。
「そうなんだ。勉強苦手だもんね」
「そ、そうなんだ。だから…ちょっと怒られちゃって…」
そう言って笑う輝太だが、クロムの目には無理して笑っているように映っていた。それだけではなく、稀琉に近寄る輝太の歩き方に違和感を覚えた。左足を地面につけている時間を減らそうとしているのか少し覚束ない足取りだった。
「……」
輝太の異変にクロムは気付き、僅かに目を細めた。稀琉はまだ気付いていないようでそのまま話続ける。
「大丈夫?ちょっと落ち込んでいるように見えるけど…」
「だっ、大丈夫。でも、少し早く帰らないといけないんだー」
「そうだよね。お母さんに怒られちゃったなら、早めに帰らないといけないよね」
「うん…。そ、それとね…」
何かを言いかけたが口ごもる輝太。その輝太の反応でクロムの中にあった疑念は確信へと変わった。
「ーー?どうしたの?」
「や…やっぱり何でもないよ」
「そう?」
「うっ、うん。だから早く遊ぼうよ。稀琉お兄ちゃんけん玉してたんでしょ?僕も見たいな。…あっ、クロムお兄ちゃん。こんにちは」
俺が見ているのに気付いた輝太は慌てて挨拶をしてきた。いつもなら座っている俺に飛びついてくる。しかし、それをせずに頑なに俺の側には来なかった。何かを隠そうとしているのは明白だった。
「………」
俺は黙ったまま輝太を見た。よく見ると顔色もあまりよくない。叱られたのなら、顔色が悪くなる事もあるだろう。しかし、それとは違う顔色の悪さだと感じた。
「クロムお兄ちゃん?」
俺の様子に輝太はきょとんとしている。口を開こうとして思い止まる。
…そんな首を突っ込む必要があるか?俺が今、思っている事を言うのは簡単だ。だが…それを言う必要は正直ねぇだろうが。
そう思うが記憶の扉が勝手に開かれ、脳内にそのカケラが再生される。
ーーどうした?…またやられたのか。ったく、あのガキども一言言ってやるーーえ?なんで分かったかって?そりゃお前の様子見てれば分かるさーー
「………」
…なんだよ。いつもなら何も思わねぇだろうが。…なんで出てくんだよ。
まるで示されたかのように飛び出したその記憶に溜め息をつく。
…こいつとは後少しの付き合いだからな。それで関係も終わるんだから多少は仕方ないか…。
自身を納得させるように、そう思ったクロムは一呼吸置いてから、ゆっくり口を開いた。
「……輝太」
「ーー? 何?クロムお兄ちゃん」
「その怪我…どうした?」
「!」
俺の問いに輝太は驚いた様に目を大きくさせた。
…具合でも悪いのか?
そんな輝太の様子を見ていないのか、待っていた稀琉が逆に走って行った。
「輝太!」
「!」
輝太は顔を上げた。一瞬だけだったが浮かない表情をしていたのを見逃さなかった。しかし、瞬時に表情を変えて嬉しそうに笑顔を作っていた。
「稀琉お兄ちゃん!クロムお兄ちゃん!」
手を振っている稀琉の所にいつもの様にニコニコしながら寄っていく。その姿はいつもの輝太そのものだ。何処も気になる部分は見受けられない。
…具合が悪いわけじゃねぇのか……。
「どうしたの?今日は遅かったね?」
「あっ、うん。学校で少しだけ居残りがあって…それで先生からお母さんに連絡がいったみたいで、宿題をしてから来たから…」
輝太は少し困った顔をしながら答えていた。やはり居残りをしていたようだ。母親に連絡が行ったと言う事はきっと叱られたのだろう。
…にしても教師から連絡行く前に気付きそうなもんだがな。
クロムは密かにそう思っていた。稀琉には話していなかったが、輝太の勉強の遅れは深刻だと感じていたからだ。算数だけではなく平仮名はかろうじて書けるが、カタカナは思い出せない事も多かった。書くだけではなく読むのも苦手なようでいまだに字を指で追っている。字も筆跡が薄く読みづらかった。接している感じや、教えた時の様子から学習障がいがあるようには感じない。輝太は2年生だ。ここまで至るまでに母親が気づかないものなのかと疑問を覚えたのだった。
「そうなんだ。勉強苦手だもんね」
「そ、そうなんだ。だから…ちょっと怒られちゃって…」
そう言って笑う輝太だが、クロムの目には無理して笑っているように映っていた。それだけではなく、稀琉に近寄る輝太の歩き方に違和感を覚えた。左足を地面につけている時間を減らそうとしているのか少し覚束ない足取りだった。
「……」
輝太の異変にクロムは気付き、僅かに目を細めた。稀琉はまだ気付いていないようでそのまま話続ける。
「大丈夫?ちょっと落ち込んでいるように見えるけど…」
「だっ、大丈夫。でも、少し早く帰らないといけないんだー」
「そうだよね。お母さんに怒られちゃったなら、早めに帰らないといけないよね」
「うん…。そ、それとね…」
何かを言いかけたが口ごもる輝太。その輝太の反応でクロムの中にあった疑念は確信へと変わった。
「ーー?どうしたの?」
「や…やっぱり何でもないよ」
「そう?」
「うっ、うん。だから早く遊ぼうよ。稀琉お兄ちゃんけん玉してたんでしょ?僕も見たいな。…あっ、クロムお兄ちゃん。こんにちは」
俺が見ているのに気付いた輝太は慌てて挨拶をしてきた。いつもなら座っている俺に飛びついてくる。しかし、それをせずに頑なに俺の側には来なかった。何かを隠そうとしているのは明白だった。
「………」
俺は黙ったまま輝太を見た。よく見ると顔色もあまりよくない。叱られたのなら、顔色が悪くなる事もあるだろう。しかし、それとは違う顔色の悪さだと感じた。
「クロムお兄ちゃん?」
俺の様子に輝太はきょとんとしている。口を開こうとして思い止まる。
…そんな首を突っ込む必要があるか?俺が今、思っている事を言うのは簡単だ。だが…それを言う必要は正直ねぇだろうが。
そう思うが記憶の扉が勝手に開かれ、脳内にそのカケラが再生される。
ーーどうした?…またやられたのか。ったく、あのガキども一言言ってやるーーえ?なんで分かったかって?そりゃお前の様子見てれば分かるさーー
「………」
…なんだよ。いつもなら何も思わねぇだろうが。…なんで出てくんだよ。
まるで示されたかのように飛び出したその記憶に溜め息をつく。
…こいつとは後少しの付き合いだからな。それで関係も終わるんだから多少は仕方ないか…。
自身を納得させるように、そう思ったクロムは一呼吸置いてから、ゆっくり口を開いた。
「……輝太」
「ーー? 何?クロムお兄ちゃん」
「その怪我…どうした?」
「!」
俺の問いに輝太は驚いた様に目を大きくさせた。

