それから1週間後。
毎日ではないが高頻度でこの公園に来させられているので流石に慣れてきた。桜の蕾もだいぶ膨らんできている。この様子だと俺の傷が治る頃には満開になるだろう。左腕もようやく固定していた包帯がとれ、だいぶ窮屈さはなくなった。
「ねぇクロム!もう一回教えてー!」
ベンチに座っていると稀琉がこっちに寄ってきた。手にはあの金魚柄のけん玉を持っている。
「……どれだ」
「あれ!もしかめした後にするやつ!」
「サイドスパイクな」
「それそれ!どうするといいんだっけ?」
「…なんで何回も教えなきゃなんねぇんだよ。一回で覚えろ」
「クロムみたいに出来ないよ。単発技は割と得意なんだけど、連続技って難しいんだもん」
「……もしかめの時に穴の向きを調整しろ。自分が決めやすい穴の位置に持って来て、穴に刺さった感覚がした瞬間に上に向ければ出来るだろ」
「言葉では分かるんだけどなかなかねー…一回やって見せてよ〜」
「断る」
「えー!見せてよー!この間輝太に見せてたでしょー?」
頬を膨らませた稀琉はぶーぶー言っている。何故、やらないと言っていたけん玉を教える事になったのか。それは2日前に輝太にどうしてもとせがまれて技を1つ見せてしまった事がきっかけだった。
その日、稀琉はトイレに行っておりその場におらず、クロムと輝太の2人になった。
その時、輝太はとんぼから滑りとめけんをする連続技を練習していたのだが、なかなか上手くいかなった。
何度も練習を積み重ねていたが、ついに心が折れてしまい酷く落ち込んでしまった。
「出来ない……なんで上手くいかないんだろう…。いっぱい練習してるのに……もう疲れちゃった……」
「……」
しゃがみ込んで膝に顔を埋めている輝太は、いつもの元気はなく声からして半分泣いている状態だった。
「…いつもなんだ僕……頑張るんだけど……出来ない事が多いの……。お母さんにも……よく怒られちゃうし……」
確かにここ数日ずっと練習しているのはクロムも見ていて分かっていた。初めの内はそれでも持ち前の元気で乗り切っていた。最初の技であるとんぼについては殆ど失敗しないで出来る程、上達している。
しかし、その後の滑りとめけんが一度も成功していないのだ。とんぼでけん先に玉を乗せた後、横にスライドさせ玉をずらし、けん先と穴が合った瞬間に上にけん軸を上に上げて入れる技なのだが、それが上手くいかない。
あまりにも失敗が続いていた為、一気に落ち込んでしまい、自己嫌悪の波に攫われてしまっていた。
そんな輝太の様子を見ていたクロムは溜め息をついた。
面倒くせー…なんでガキのうじうじしてる姿を見なきゃなんねえんだよ。大体そんな簡単に出来る技じゃねえんだっての。とんぼが出来るだけでもいいだろうが…。
チラリと輝太を見るとしゃがみ込んだまま動かなくなってしまっていた。クロムは舌打ちをした後におもむろに口を開いた。
「……もう1回やって見せろ」
「え?」
「もう1回俺の前でやって見せろって言ってんだ」
「で、でも…」
「うだうだ言ってないでさっさとやれ」
俺に言われた輝太は渋々…というか恐らくいやいやながらもやり始める。とんぼは見事決まった。そこからけん玉を右に動かして立てるが玉は下にブラリと落ちてしまった。それを見た輝太の目は涙目であった。
「ほら…やっぱり出来ないよ…」
「……とんぼの段階で、穴の向きがけん先につくようにしてみろ。今は疲れか嫌だからか分からんが穴がズレていたから出来なかったんだ。後はスピードとタイミングだ。右に移動させる時に穴の真下にけん先の先が来るようにしろ。そこまで出来ればあとはけん玉を立てれば穴に入る」
「え…どういう事…?」
「…いいからまずとんぼをやってみろ。やりたくねえならしなくてもいい。その代わりやらねえと決めたんならウジウジすんな。ウジウジされんのは嫌いだ」
クロムの言葉に一瞬考えていた輝太だが立ち上がってとんぼをやり始めた。スッと玉を上げてけん先に玉を乗せる。
「今、穴はどこを向いてる?」
「えっと……下かな」
「そうだ。常にそれが出来るように上げろ。そこから右に移動させるが思い切り引くな。軽くでいい。名前の通り滑らせるんだ。まずはそれだけやってみろ」
「う、うん…」
そこから数回右に移動させるだけの練習をしていた。初めの方は引き過ぎてテーブル引きのようになっていたが、段々と動きがコンパクトになってきた。
「今の感覚を忘れんな。後はけん玉を立てるだけだ。穴の位置がけん先の先に来たらすぐに立てろ。これも手でけん先に玉を乗せてそれだけ練習しろ」
「分かった」
滑りとめけんだけを練習しろというクロムの言葉に疑問を覚えながら輝太は言われた通りに練習し始めた。何度も何度も失敗し心が折れそうになるが、その度にクロムに「すぐ出来る訳ねえだろうが」と言われ、ヤケになり始めると「そんな気持ちならやめちまえ」と叱責された。自分の気持ちと戦いながら必死に練習し続け…チャレンジ回数が10回を超えた時だった。
ーースッ
「!!」
ついに輝太の努力は実を結び、けん先に玉が入ったのだった。
毎日ではないが高頻度でこの公園に来させられているので流石に慣れてきた。桜の蕾もだいぶ膨らんできている。この様子だと俺の傷が治る頃には満開になるだろう。左腕もようやく固定していた包帯がとれ、だいぶ窮屈さはなくなった。
「ねぇクロム!もう一回教えてー!」
ベンチに座っていると稀琉がこっちに寄ってきた。手にはあの金魚柄のけん玉を持っている。
「……どれだ」
「あれ!もしかめした後にするやつ!」
「サイドスパイクな」
「それそれ!どうするといいんだっけ?」
「…なんで何回も教えなきゃなんねぇんだよ。一回で覚えろ」
「クロムみたいに出来ないよ。単発技は割と得意なんだけど、連続技って難しいんだもん」
「……もしかめの時に穴の向きを調整しろ。自分が決めやすい穴の位置に持って来て、穴に刺さった感覚がした瞬間に上に向ければ出来るだろ」
「言葉では分かるんだけどなかなかねー…一回やって見せてよ〜」
「断る」
「えー!見せてよー!この間輝太に見せてたでしょー?」
頬を膨らませた稀琉はぶーぶー言っている。何故、やらないと言っていたけん玉を教える事になったのか。それは2日前に輝太にどうしてもとせがまれて技を1つ見せてしまった事がきっかけだった。
その日、稀琉はトイレに行っておりその場におらず、クロムと輝太の2人になった。
その時、輝太はとんぼから滑りとめけんをする連続技を練習していたのだが、なかなか上手くいかなった。
何度も練習を積み重ねていたが、ついに心が折れてしまい酷く落ち込んでしまった。
「出来ない……なんで上手くいかないんだろう…。いっぱい練習してるのに……もう疲れちゃった……」
「……」
しゃがみ込んで膝に顔を埋めている輝太は、いつもの元気はなく声からして半分泣いている状態だった。
「…いつもなんだ僕……頑張るんだけど……出来ない事が多いの……。お母さんにも……よく怒られちゃうし……」
確かにここ数日ずっと練習しているのはクロムも見ていて分かっていた。初めの内はそれでも持ち前の元気で乗り切っていた。最初の技であるとんぼについては殆ど失敗しないで出来る程、上達している。
しかし、その後の滑りとめけんが一度も成功していないのだ。とんぼでけん先に玉を乗せた後、横にスライドさせ玉をずらし、けん先と穴が合った瞬間に上にけん軸を上に上げて入れる技なのだが、それが上手くいかない。
あまりにも失敗が続いていた為、一気に落ち込んでしまい、自己嫌悪の波に攫われてしまっていた。
そんな輝太の様子を見ていたクロムは溜め息をついた。
面倒くせー…なんでガキのうじうじしてる姿を見なきゃなんねえんだよ。大体そんな簡単に出来る技じゃねえんだっての。とんぼが出来るだけでもいいだろうが…。
チラリと輝太を見るとしゃがみ込んだまま動かなくなってしまっていた。クロムは舌打ちをした後におもむろに口を開いた。
「……もう1回やって見せろ」
「え?」
「もう1回俺の前でやって見せろって言ってんだ」
「で、でも…」
「うだうだ言ってないでさっさとやれ」
俺に言われた輝太は渋々…というか恐らくいやいやながらもやり始める。とんぼは見事決まった。そこからけん玉を右に動かして立てるが玉は下にブラリと落ちてしまった。それを見た輝太の目は涙目であった。
「ほら…やっぱり出来ないよ…」
「……とんぼの段階で、穴の向きがけん先につくようにしてみろ。今は疲れか嫌だからか分からんが穴がズレていたから出来なかったんだ。後はスピードとタイミングだ。右に移動させる時に穴の真下にけん先の先が来るようにしろ。そこまで出来ればあとはけん玉を立てれば穴に入る」
「え…どういう事…?」
「…いいからまずとんぼをやってみろ。やりたくねえならしなくてもいい。その代わりやらねえと決めたんならウジウジすんな。ウジウジされんのは嫌いだ」
クロムの言葉に一瞬考えていた輝太だが立ち上がってとんぼをやり始めた。スッと玉を上げてけん先に玉を乗せる。
「今、穴はどこを向いてる?」
「えっと……下かな」
「そうだ。常にそれが出来るように上げろ。そこから右に移動させるが思い切り引くな。軽くでいい。名前の通り滑らせるんだ。まずはそれだけやってみろ」
「う、うん…」
そこから数回右に移動させるだけの練習をしていた。初めの方は引き過ぎてテーブル引きのようになっていたが、段々と動きがコンパクトになってきた。
「今の感覚を忘れんな。後はけん玉を立てるだけだ。穴の位置がけん先の先に来たらすぐに立てろ。これも手でけん先に玉を乗せてそれだけ練習しろ」
「分かった」
滑りとめけんだけを練習しろというクロムの言葉に疑問を覚えながら輝太は言われた通りに練習し始めた。何度も何度も失敗し心が折れそうになるが、その度にクロムに「すぐ出来る訳ねえだろうが」と言われ、ヤケになり始めると「そんな気持ちならやめちまえ」と叱責された。自分の気持ちと戦いながら必死に練習し続け…チャレンジ回数が10回を超えた時だった。
ーースッ
「!!」
ついに輝太の努力は実を結び、けん先に玉が入ったのだった。

