Devil†Story

「いい子だよね」


「…ガキなんてそんなもんだろ」


立ち上がり首を鳴らす。辺りは暗くなり始め、カラスが鳴く声が聞こえてきた。
この鳴き声に関しては何て言っているのかは分からない。意味もなく鳴いているようだ。


「もう…クロムはいつもそういう事を言うんだから」


稀琉は溜め息をつきながら言った。
…溜め息をつきてぇのはこっちだっての。


「明日は行かねぇからな」


「駄目だよ!あんなに懐いてるんだから来てよ」


「勝手に約束したのはてめぇだろ。俺はしてねぇよ」


「可哀想でしょー?クロムにも言ってたようなものだしさ。それに少しは外に出ないと体に毒だよ!」


稀琉がクロムに言い聞かせていた瞬間だった。


「稀ー琉ーお兄ちゃーん!クーロームーお兄ちゃーん!明日も遊ぼーねー!!」


「!」


大声が聞こえてそっちを向くと、輝太が公園入り口で手を振っていた。クロムと稀琉がこっちを向いたのを確認すると笑顔で大きく手を振りそのまま駆け出して行き、姿が見えなくなった。


「は?おい!…一瞬で消えやがった」


「……ほらね?」


「あいつ…デケェ声で名前呼びやがった挙句に勝手に約束していきやがって…」


「いいじゃない。少しはお日様に当たらないとダメだよ」


「チッ…ウゼェ……。明日は勝手に約束すんなって話するか……」


舌打ちをしつつ、明日も行く事を承諾したクロムを見て稀琉は小さく呟く。


「…やっぱりなんだかんだ輝太には甘いなぁ…だったら素直に来てくれてもーーいた!?」


稀琉の呟きが聞こえたのかクロムは右足で左脹脛辺りを蹴った。


「痛いよ!クロムのブーツ戦闘用のでしょ!?やめてよ!それで蹴るの!」


「てめぇがアホな事言うからだろうが」


「いたた…痣になっちゃうよ」


「うるせぇ。蹴られたくなかったらよく考えて発言しろ」


「本当の事でしょー!さっきだって頭撫でてたりさ!」


「あいつが勝手に俺の手を使ってただけだ」


「それにしたって振り解こうとしないじゃないか。オレ達には手を洗え、触るなって言うのに」


「だからてめぇは小学生と同じ扱いでいいのか。てめぇ等の方が出来る事多いんだから要求が増えんのは当たり前だろうが」


「もーああ言えばこう言うんだから…。あっ!そうだ!聞きたかったんだけどけん玉!とめけんじゃなくて、回しけんを教えてたよね」


先程けん玉のアドバイスをした時の事を思い出した稀琉はクロムに質問をする。
輝太がクロムに見せたかったのはとめけんというけん玉の技で、垂直に玉を上げ、けん先に刺すという物だった。玉を垂直に上げるのにはコツがいる。慣れるまではなかなか上手くいかないものであった。一方クロムが輝太にアドバイスしていた技は、回しけんという技で玉を回すことによって遠心力がかかり、少し穴からズレても入りやすくなるものであった。それでも見た目はほぼ一緒の技であり、一般人からすれば凄いと感じられる技だ。

「穴に入るのを俺に見せられれば満足するって言ってろ。あのままずっと目の前で見せられるのも怠かったからな」


「それにしたってよく知ってたね?クロムもけん玉出来るの?」


ーほら!スゲェだろ!?スゲェ練習したからな!もしかめからのサイドスパイク!連続技やれるとカッコいいよな!ー
ーまずはこっちやってみろよ。まわしけん。これだけでも充分凄いからな!ここに入るだけでヒーローみたいなもんだ!ー


再び昔の記憶が脳内に顔を出した。輝太と同じようにとめけんが上手くいかずに教えてもらった技だった。その為、ある程度の技や知識があったのだ。


「…ある程度な」


「クロムも出来るなんて意外!今度見せてよ!」


「断る」


「えー!!見たいんだけど!」


「てめぇ俺が怪我してんの忘れてるだろ」


「忘れてないよ!だから今度って言ってるんだもん」


「数年触ってねえし特別出来るわけじゃないからな。それよりお前こそ自分のけん玉持ってる程、やってたんだな。それパフォーマンス用のだろ」


話を逸らすように稀琉のけん玉を指差した。和柄で金魚が描かれているけん玉だった。


「うん!昔、教えてもらってね!そこからたまーにやってるんだー!普段は輝太に貸してたようなシンプルなのしか買わないんだけど、これは金魚柄のけん玉に一目惚れして買っちゃった」


嬉しそうにけん玉を見せてくる稀琉。「見てみて!金魚可愛いよね!」とはしゃいでいる。
本当ガキみてぇだな、こいつ。輝太と変わりねぇってどう言う事だよ。輝太より図体はデケェクセしてひっついて来たりーー。
そこで俺はある事を思い出した。

「…稀琉」


「何?」


「てめぇさっき…なんでオレはダメなのに輝太はいいんだろとかほざいてやがったな」


「え!」


先程の様に稀琉を睨みつける。稀琉はまさか先程の事を掘り返されるとは思っていなかったようで焦った表情のまま固まっていた。


「…やっぱ俺の話を少しも理解してなかったって事か?」


「え、え?あの…」


「後、輝太が俺の事を呼びに来た時に下でドヤ顔してたな。…何様なんだてめぇはよ。保護者でも気取ってやがんか?あぁ?精神年齢がガキのクセに」


「待って!ドヤ顔って何!?オレそんな顔した覚えないよ!」


無自覚だったらしい。稀琉は慌てて両手を左右に振っていた。その反応にイラっとする。


「無自覚か?頷いてこっちを見てやがったクセに。俺の腕が固定されてるからと調子に乗ってんじゃねぇぞ」


「乗ってないよ!素敵な光景だなーって思ってただけ!」


「…あ?ぶっ殺すぞ」


「なんかさっきより言葉遣いが乱暴で雰囲気も怖いんだけど!」


段々と滲み出てきた殺気に稀琉は距離を取り始めた。


「だから…ガキと同じ扱いでいいのかって何度言わせりゃ分かるんだてめぇ。いやもういい…よく分かった。てめぇが何も理解してない事は。帰りは説教だな。アホなてめぇにも分かるように体に教えてやるよ」


固定されていない右手の拳を強く握って更に睨みつける。それを見た稀琉も更に俺から距離を取った。


「や、やだよ!楽しく帰ろうよ!」


「うるせぇ。二度とアホな事をぬかさねぇようにきっちり教えてやる」


「くっ、暗くなってきたね!!早く帰ろうかー!!」


そのまま身を翻し、走り出そうとした稀琉のジャケットの襟を掴んだ。


「…逃げんな。遠慮すんなよ。俺と“ナカヨク“なりてぇんだろ?」


「やだやだー!!絶対そういう感じじゃないでしょ!?」


「デケェ声出してんじゃねぇよ。色々てめぇには足りねえもんがあるからな。そうだな…まずは人との…俺との距離感からきっちり教えてやるよ」


暴れる稀琉に再度蹴りを入れた俺はその後、みっちりしごいてやった。有言実行で距離感から全てきっちりと。カフェに着く頃は稀琉は魂を抜かれたような表情で自室に戻っていった。