「……逆に聞くが…てめぇは輝太と同じ扱いでいいのか?」


「え?」


「"8歳の小学生"と同じ扱いでいいのかって聞いてんだ」


「……すみません」


「…少しは考えろボケが」


クロムが稀琉に悪態をつくと同時に、公園内に17時を知らせるメロディが流れて来た。


「…おら。てめぇが出しっぱなしにしてるアレ片付けてこい」


クロムはそのままになっていたけん玉等を指差し、若干稀琉を睨みつけた。


「はーい…」


怒られてシュンとしている稀琉はトボトボと歩いて行く。


「走って行ってこい!」


「はい!」


これ以上ダラダラ公園に居たくないクロムはトボトボ歩いていた稀琉の後ろ姿に怒鳴りつけ「ったく……」と再度ベンチに座り込んだ。その隣には輝太が座っている。


「……お前は片付けるもんねぇのか」


「え?う、うん…。僕は荷物ないよ」


「そうか」


「うん……」


少しの間、沈黙が流れる。横目で輝太を見るともじもじとしていた。その様子から何か言いたい事があると察したクロムは溜め息をついた。


「…何か言いたい事があんなら言え」


「え?」


「ウジウジされんのは嫌いだ。言いたい事があんなら言え」


「あ……その……」


「ねぇならいい」


「あ、あのね!クロムお兄ちゃん」


「なんだ」


「僕…僕ね…。さっきクロムお兄ちゃんに言われた事……先生にも言われたんだ」


「……」


「"輝太さんはお友達や先生にギュッとくっつくけど人と人とはちょうどいい距離があるから、あまりくっつき過ぎるのはよくないので気をつけましょう"って…。先生に言われたから…気をつけてるつもりなんだけど…でも…気付いたらくっついちゃうの。特に好きな人にはどうしても触りたくなっちゃう…だから……気をつけるけど…また同じ事をしちゃったら…ごめんなさい……」


「………」


再び横目で輝太を見ると落ち込んでいた。この様子だと本当に気をつけているのだろう。それが出来ない事による自分への劣等感が滲み出ている。


ーーこら!料理作ってる時は声を掛けてから来い!危ねぇだろうが!ー
ーいいか?人の体には触れちゃいけないところがある。そこは絶対触んな。そしてそこは人に見せるものじゃねぇ。それに男、女関係ないー
ー適切な距離感!良くも悪くも必要な事だ。それは生きる上で学ばないとならねぇ。普段から身につけとかねぇと出来ない。覚えとけー


「………」


昔言われた言葉が頭を過ぎる。


「……輝太」


「うん?」


「……俺がさっき言ったのは適切な距離感を保てって事だ」


「…うん」


「知らねぇ奴について行くな、互いの体が密着する位近づくな、他人が不快と感じる接し方をすんな。そういう事だ」


「うん」


「…だが、それはいつもじゃねぇ。常にじゃなければある程度は許容される。…さっき俺がお前を抱き上げたようにな」


「!」


輝太がハッとこっちを見る。俺は輝太の方を見ずにそのまま話す。


「ずっとじゃなければ腕とかは別に相手が良ければいい。お前が膝に居た時は何も言わなかっただろ」


「あ…」


「目に見えねぇもんを判断すんのは難しいのかもしれねぇな。…稀琉はいまだに分かってねぇのがその証拠だ。だが全く同じ事はすんな。同じ事を何度も言うのは相手は疲れるもんだ。俺は怒鳴りつけるがな」


右手を上げて輝太の頭に乗せた。輝太は一瞬ビクッとしていたが優しく乗せられている事に気付いてクロムの顔を見た。


「…少しずつでも考えて行動しろ」


そう言って頭をぽんぽんと優しく叩いた。唖然としていた輝太だったが嬉しそうに笑って「うん!分かったよ!」とクロムに寄りかかった。先程までに比べれば落ち着いた甘え方に何も言わずに手を下ろす。


「待って!もう少し撫でてて」


そう言うとクロムの手を掴んだ自分の頭に乗せた。


「…なんでだよ」


「嬉しいから!」


「…怒られて嬉しいとか意味分かんねぇよ」


「えへへ」


自分で俺の手を動かしてセルフ撫でをし始めた輝太に「…それ意味あんのか」と問い掛けた。


「ただいま!急いで戻って来たよ……ってアレ?」


急いで戻って来た稀琉はクロムにくっつき、そのクロムの手を持って自分の頭を撫でている輝太と、呆れたような表情を浮かべながらも何も言わずにそれを受け入れているクロムの姿に唖然とした。