「むー……」

どうしてもクロムに見て欲しいようで何度か繰り返しチャレンジしていた。しかし、けん玉は意外ときちんとやると全身の筋肉を使う。初めは丁寧に上げられていた玉だったが段々と輝太の疲労と共に雑になっていく。


「やっぱり出来ない……」


「まあまあ輝太。明日も一緒にくるからさ!その時見せようよ」 


「折角頑張ったのになぁ……」


稀琉が慰めているが、明らかに落ち込んでいる輝太。そんな輝太の様子を見たクロムは溜め息をついた。


「……剣先に入んの見せられればいいのか?」


「え?」


突然のクロムの問いに戸惑いながら聞き返す。


「だから剣先に入ったところを俺に見せられりゃ満足すんのかって聞いてんだ」


「う、うん。そうだけど…」


「なら玉を回してみろ」


「クロム?それって…」


「お前は黙ってろ。輝太。構わずやれ」


稀琉が何かを言いかけたがクロムはそれを制止し、輝太に再度やってみるように伝えた。


「えっと…玉を回すんだよね?こう?」


伸び切って下に垂れている玉を手のひらで回し始める。クルクルと回される度に紐が捻れていく。


「そしたら玉が安定するまで待って逆回転し始めたら上げてみろ」


「えー?回ってるよ?」


止まった状態でも上手くいかないのに回った状態で出来るのか不安そうな輝太にクロムは無表情で答える。


「いいからやってみろ」


「わ、分かった」


輝太は不安を抱えながらもクロムの言葉を信用した。集中し、クルクルと回転する玉を見ながらスッと玉を上に上げる。カンッと木の乾いた心地良い音がして玉が剣先に刺さった。


「で、出来た!出来たよ!」


「綺麗に出来たじゃねぇか。上出来だ」


「凄いよ!クロムお兄ちゃん!一回で出来ちゃった!」


喜ぶ輝太に「良かったな」とぶっきらぼうに返していた。

「凄いね輝太!やっぱり筋があるよ!一発で決めるなんてなかなか出来ない事だもん」


稀琉が笑顔で優しく頭を撫でると輝太は嬉しそうに「えへへー」と笑っていた。そこから2人はけん玉熱が再燃したのか再びけん玉をやり始めた。その様子を見たクロムは近くにあったベンチに腰をかけた。


「はー……」


思わず溜め息が溢れる。
早く帰りてぇんだがな…。こんな人が密集する場所なんか居たくねぇんだっての……。
チラッと時計を見ると今は16時になったばかりであった。
げ…帰るまでまだ1時間位あるじゃねぇか…めんどくせぇ……。
少し日が傾いて来ており、吹く風はまだ少し冷たいが陽の光が温かさを与えていた。冷たい風が花の匂いを運んできて、辺りに立ち込める。


「…………」


この穏やかな時間がクロムにとっては苦痛だった。
クソ…本でも持って来るんだったな。
部屋で本でも読んでた方がまだ良いってのにだりぃ……。風も強いし…戻ったらさっさとシャワーでも浴びねぇと汚ねぇな。
フードを深く被り直すとポケットに重みを感じた。
…携帯か。どうせ暇だし、うるせぇあいつはいねぇし…こないだの書き込みは消されてるのか確認するか。
先日壊してしまった携帯とは別に新しく支給された携帯を取り出す。ヤナの情報を集めていた時に書かれていた、自分やロスの書き込みを消すように刹那に伝えていたが、きちんと消してあるのかを確認する為に調べ始めた。
……よし。消えてんな。ったく…刹那の野郎ちゃんと見ろよな…。
刹那がきちんと消していたのを確認しつつ、対応が遅れた事に対して溜め息をついた。
ついでに…調べもんでもしとくか。
普段部屋にいる時はロスに小言を延々と言われる為、調べ物をしたい時は部屋から出る必要があった。今、外出している事を利用してついでにやってしまおうと思い立ったのだ。暫くの間、携帯を操作し調べ物をしていた。大方調べ物が終わり、携帯の電源を落としていた時だった。


「クロムお兄ちゃん!」


「!」


前から輝太の声がして前を向くと同時に膝の辺りに抱きついて来た。


「なんだ。けん玉してたんじゃねぇのか」


「してたよー!でも疲れちゃったからやめたの!」


「そうか」


「後ね!これクロムお兄ちゃんにあげる!」


そう言って差し出して来たのは四葉のクローバーで作った指輪だった。どうやら見つけてから間もないらしいくらまだ生き生きとしていた。


「…四葉なんて珍しいんじゃねぇのか」


「うんっ!でもさっきけん玉のやり方教えてくれたからお礼!」


嬉しそうに手のひらに乗っけてくる輝太。
…あんまその辺の草に触れたくないんだが。何ついてるかわからねぇし、虫でもついてそうだし。
流石にそれを口にするのは憚られ、どうするか考えてると視界に稀琉が見えた。


「俺よりも稀琉にやれよ。あいつに基本教わったんだろ」


「え?でも…」


「気持ちだけ受け取っといてやる。あいつに渡してこい」


もじもじとしている輝太にそう話すと納得したのか大きく頷いた。


「分かった!今度見つけたらクロムお兄ちゃんにあげるね!」


「…それよりもけん玉頑張れよ」ととりあえず受け取るのを回避できたことに安堵する。…稀琉ならその辺気にせずに受け取って尚且つ喜ぶだろ。


「うん!頑張るね!」


そう言ってギュッとくっついてくる。
…やっぱガキは体温高ぇからあったけぇな。春とは言え、まだ冷たい風が吹いている公園。日も傾き始めているので輝太の体温は温かいと感じた。


「あー、輝太いいなぁ。オレだって、あんまりクロムにくっつけないのに」


側に来ていた稀琉がいじけた様に話しかけてくる。
…何言ってやがんだこいつ。散々俺にくっついてるだろうが抱きつき魔め。


「てめぇはガキか。くっついてくんな、鬱陶しい」


「だってクロムにくっついてるとなんか落ち着くんだもん」


「…は?」


本当にこいつは何を言ってやがんだ。野郎同士でひっつき合うとか気持ち悪いだろうが。
俺が呆れていると稀琉は輝太に話しかけていた。


「輝太もそう思うよねー?」


「うんっ!稀琉お兄ちゃんは“友達”でクロムお兄ちゃんは本当の“お兄ちゃん”って感じがするっ!」


猫のように俺の膝に顔を擦り付けている輝太を見て俺は溜め息をついた。