通された個室にあたしと一穂は並んで座る。上座の席に、その誰かが来るんだろう。


「多分、もう着くから。」

「誰なの?」


「兄さんだよ」


一穂は柔らかく笑う。


「お兄さん?やだ、もっと早く言ってよ」


あたしはついキツい口調になる。


「言ったら来ないだろ。」


一穂の方が上手だ。そう、あたしは何だかんだで、一穂にプロポーズされてからも一穂の家族に会うのを断っていたから。一穂のご両親も忙しい人らしかったし、一穂が育ちが良いのはどう考えても分かる。実際、あたしなんかでいいのかとずっと思っていた。


そこに来て、僚の事もあるあたしは、とてもじゃないけど一穂の兄に会うなんて出来ない。


引き返せない状況に、理不尽にもあたしは溜め息をついた。