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「どうして電話に出なかったの?」
一穂の口調はやっぱり怒っていて、だけど、納得いく返事を返せばすぐに優しくなる音。
「ごめん、ね」
言い訳なんて考えてない。なるようになる、なんて考えてるあたしだって適当だ。
「ごめん、じゃなくて」
一穂は続きを促したけど、あたしは眠くて、一穂は仕事中で、機械を通した会話は仕方なく絶たれる。
『とにかく、また連絡する。』
そう言って、通話は終えた。
あたしは今日は遅出だから、いつもより少し遅い時間に家を出ればいい。動きやすいラフな恰好。少しだけ伸びた爪を短く切る。
そういえば、僚はあたしの指先にキスを落とした。
『爪が短い女は執着心が少ない』
そう言った彼の声を思い出す。
『冷たいってよく言われる』
あたしが答えると、
『…爪を噛む癖は寂しがり屋だからだ』
とあたしの指先を見てクと笑った。

