* * *

「どうして電話に出なかったの?」


一穂の口調はやっぱり怒っていて、だけど、納得いく返事を返せばすぐに優しくなる音。


「ごめん、ね」


言い訳なんて考えてない。なるようになる、なんて考えてるあたしだって適当だ。


「ごめん、じゃなくて」


一穂は続きを促したけど、あたしは眠くて、一穂は仕事中で、機械を通した会話は仕方なく絶たれる。


『とにかく、また連絡する。』



そう言って、通話は終えた。


あたしは今日は遅出だから、いつもより少し遅い時間に家を出ればいい。動きやすいラフな恰好。少しだけ伸びた爪を短く切る。



そういえば、僚はあたしの指先にキスを落とした。



『爪が短い女は執着心が少ない』


そう言った彼の声を思い出す。


『冷たいってよく言われる』


あたしが答えると、


『…爪を噛む癖は寂しがり屋だからだ』


とあたしの指先を見てクと笑った。