「こ、困りますね」



鼓動が馬鹿みたいに早くて、この車内という逃げ場のない密室でそれでも警戒心を抱いてない自分が嫌になる。


「本当に?」


「え?」


淡い瞳が少し色を変えてあたしを見つめた。




「本当に、困ってるのか?」



落とした声は、冷静で、それなのに、酷く甘い。



やだ、この人。本当に、殺人級に、やばい。




あたしは、深い溜め息を落とした。



「あたし、婚約者、いるんです」



その視線を振り解けないと知った上で、挑むように見つめる。



「そうか」




全く、動じない。なんなのよ。



「いつも、こんな事してるんですか」



「いや、君が初めてだ」


少し自嘲気味に笑った顔さえも、綺麗だなんてズルい。





「多分、最初で最後、だな」





もしも、その甘い言葉が嘘でも、あたしに言い返す事ができたのか。