「ニューヨークホットドックひとつ」


まだ視界を足元に向けていたあたしの耳に届いた声は、単調な低い声。このお気楽な名称を呼ぶには、良い声過ぎるかもしれない、と少し笑いそうになって顔を上げた。


あたしの横には、濃紺のスーツ。見上げるスラリとした身長。鼻筋の高い整った横顔。



「あ、」



思わず、声が漏れた。



『時計台の彼』だ。



あたしの小さなその声に、その人は僅かに眉を上げて神経質そうで涼しげな瞳を向ける。左目尻の下の小さな泣きボクロが異常に似合う。



あたしは、つい、見上げたまま口を閉ざした。