「……あなたと話してるとなんだか馬鹿馬鹿しくなるわね」


ハァと息を吐いた貴子さんは、面倒くさそうに前髪をかきあげて香水の匂いが空気に浮いた。


「ひとつ聞いていい?」

「なんですか」


貴子さんが飾らず、気負わずあたしを見つめたから、あたしも真っ直ぐその瞳を見つめ返す。


「自分が素直だと思う?」


え、まるで予想外。僚を好きかどうかを聞かれるかと思ったから。貴子さんの真意は読み取れないけれどその目には何の陰りもない。


「思います、自分でも持て余すくらい」


だったら、答えなんて簡単過ぎる。あたし位、素直に感情と状況に流される女いないんじゃないかな、今更改めて言葉に出すとなんだか不甲斐なさすぎて泣きたくなるんだけど。


「そう」


貴子さんは一言そういった後、突然吹き出すと何故か屈託なく笑った。


「変な人ね、本当に。」

「そうですか」


変?褒め言葉じゃないよね、多分。あたしは眉をしかめる。


「────きっちり一週間後、日本航空002便サンフランシスコ行き午後6時半」


貴子さんはひとしきり笑った後、そう言って背中を向けた。