その理由を聞いているのに、あたしはまた口を閉ざしてしまう。この人、自分がどれだけ魅力的なのか分かってない。綺麗な顔で、低くて甘い優しい声で殺人級に胸を突く言葉をあっさり言い放ってしまう。これが自覚しての事だったら、最強に悪い男だ。


「もー…」


あたしはおでこを掻いて、行き場のないこの動揺を鎮める。



何を言ったって、かなわない。


あたしだって、今まで何度か恋はしたし、深くならない淡白な関係で割り切る事だって出来るようになった。


それが大人になったって事なのか、それともいい加減になったって事なのかは分からないけど。


だけど、この人の前じゃ、何も通用しない。