式は無事に終わり、全員で控え室に行った。


さっきのリングは、あのジュエリーショップで買った物だった。
美乃があの店を気に入っていると聞いて絶対にプレゼントしたいと思い、店頭で事情を説明して大急ぎで注文したけれど、正直に言うと彼女の反応が恐かった。


美乃は、俺に対してそんなことは望んでいない。
それは、周知の事実だ。


それを踏まえていても至って真剣だったから、拒絶されることが不安だったけれど、さっきの美乃の顔なら絶対に大丈夫だと思えた。
ただ、信二たちの結婚式だというのに彼女の両親の前で渡した手前、ふたりの反応も気になった。


あれから、美乃も彼女の両親も、なにも言ってこない。
あえてこのことに触れないような雰囲気が、俺を緊張させた。


みんなの輪に入り難かった俺は、そんな気持ちに邪魔をされたこともあって離れたところで様子を見ていた。
信二は両家の両親と、美乃は広瀬と話している。


しばらく遠目で見ていると、美乃の父親が近付いてきた。
一瞬、心臓が跳ね上がった。


いくらなんでも、信二の結婚式で美乃に指輪を渡すのは非常識だったかもしれない。
不安を抱く俺の頭の中に、一気に色々なことが駆け巡った。


「ちょっといいかな」

「あ、はい……」


美乃の父親の声がいつもよりも低い気がして、額に冷や汗が滲む。
俺は、ぎこちない笑みを貼り付けた。


「さっきの、あの指輪は……どういうつもりだったのかな?」


怒ってる……? でも、それにしては穏やかな声だよな……?


「婚約指輪のつもりです」


不安と緊張を隠し、真剣な顔で正直な気持ちを告げた。
再び緊張が走り、握った拳の中が汗ばんでいった。


「……そうか」


一言だけ呟いた美乃の父親が、程なくして優しく微笑んだ。