広瀬は、父親と腕を組みながらバージンロードを歩き、ゆっくりと信二の元に向かう。
広瀬の父親は信二に頭を下げて、彼女ににっこりと微笑んだ。


広瀬の父親の瞳には、涙が滲んでいる。
信二も頭を下げ、彼女の父親は席に座った。


両家の両親と美乃、そして俺が見守る中、式は順調に進められていった。
いよいよ終盤になり、誓いの言葉が始まった。


軽く深呼吸をして右側にいる美乃の手を握ると、彼女は不思議そうに瞬きをして俺を見上げた。
俺は優しく微笑み、自分の小指を美乃の小指にゆっくりと絡めた。


「誓いますか?」


信二に向けられた神父の声を聞きながら、美乃の耳元に唇を寄せた。


「誓います」


彼女は、俺の言葉に一瞬だけ目を見開いたあと、少しだけ照れ臭そうにしながらも桜の花が綻ぶように柔らかく笑った。
続いて、神父は広瀬に同じことを訊いた。


「誓いますか?」


神父に尋ねられている広瀬を横目に、悪戯っぽく笑いながら美乃に目で合図をした。
彼女はにっこりと笑って、俺の耳元でそっと囁いた。


「誓います」


美乃の隣に座っていた彼女の両親が俺たちの声に気付いたらしく、ゆっくりとこっちを見た。


「それでは、指輪の交換を」


神父の声が響いた直後、スーツのポケットから小さな箱を取り出した。
俺たちを見ている美乃の両親に、微笑みながら頭を小さく下げる。


それから、美乃の左手をそっと持ち上げ、彼女の薬指に箱から出したリングをゆっくりと着けた。
美乃と彼女の両親は、目を見開きながら俺を見た。


美乃にとって、このリングがエンゲージリングになるのかはわからないけれど、俺はそのつもりだ。
俺を見たままの彼女の両親に、もう一度頭を深く下げる。


美乃は、俺の手をギュッと握って、瞳に涙を浮かべながら幸せそうに笑っていた――。