久しぶりに、浴びるように酒を飲んだ。
広瀬にした忠告を忘れたかのように、信二も何杯もビールを煽っていた。


さっきまでの重苦しい空気は、無理矢理作った明るさで隠した。
そんな風にして過ごし、気が付けば閉店時間になってしまっていた。


「今日は俺が奢るよ!」

「マジで⁉」

「ああ。結婚祝いだ」

「じゃあ、ご馳走様!」


信二は酔い潰れた広瀬に肩を貸しながら、ニカッと笑った。
俺は笑顔を向け、ふたりの荷物を持った。


「遅くなったけど、大丈夫か?」


会計を済ませて外に出たあと、完全に潰れた広瀬に苦笑混じりに視線を遣る。


「ああ、その辺でタクシー拾うよ」


信二は困り顔で笑いながら、今にも崩れてしまいそうな彼女に視線を落とした。


「大変だな、お前の嫁は……」

「まぁな……。でも、こいつのおかげで今の俺がいるんだし……。これでも本当に感謝してるんだ」


信二は笑みを浮かべ、愛おしげに広瀬を見下ろした。


「なんかいいな、そういうの。ちょっと憧れるよ」

「ははっ、どうだろうなぁ。……でも、お前にそんなこと言われるとむず痒いな」

「今日しか言わないよ」


アルコールのせいだといわんばかりの俺に、信二も目を細めていた。
弱音を吐いた夜の会話は静かな闇に溶け、明日にはきっとお互いに何事もなかったように顔を合わせるだろう。


「じゃあ、帰るか。今日はご馳走様」

「おう、またな」


大通りでタクシーを拾った信二に、荷物を渡して笑顔を向ける。
ふたりと別れたあと、冷たい風が吹く道を歩き出した。


夜空を仰ぐと、ぽっかりと浮かぶ蜂蜜色の月が輝いていた。
俺の心に反して今夜は憎らしいほどに綺麗な満月で、それを囲むようにたくさんの星が瞬いていた――。