「職場でも散々からかわれたよ……」

「みんな、びっくりしてたでしょう?」

「ああ。もう十年くらい茶髪だったし、最近はどんどん明るくなってたからな……。俺だって、自分の行動にびっくりしてるよ」

「私だって、びっくりしたんだよ? まだ夢の中かと思っちゃった!」

「まだ夢かもよ?」

「そうかもね」

「確かめてみる?」

「え?」


俺は右手を伸ばし、楽しそうに笑っていた美乃の左頬にそっと触れた。
一瞬ピクッと反応した彼女が、少しだけ顔を赤らめた。


指先から、美乃の熱が伝わってくる。
左手で柔らかい髪に触れながら顔を近付け、彼女の唇をそっと塞いだ。


軽く唇を食んだ、甘いキス。
おもむろに唇を離して微笑み合ってから、もう一度キスをした。


今度は舌を絡めた、深いくちづけ。
甘くて、ほんの少しだけ切ない時間が流れた。


「夢じゃなかった?」


何度もキスを交わしたあと、顔を離して悪戯な笑みを浮かべた俺に、美乃がはにかんだように小さく頷く。


「なんなら、もう一回試してみるか?」


冗談半分でからかうと、彼女が恥ずかしそうに俯いた。
そんな可愛らしい姿に、思わず笑ってしまう。


その直後、俺の唇が甘い香りで塞がれた。
ほんの一瞬の出来事に呆然としていると、さっきまで照れていたはずなのにクスッと笑われてしまった。


やっぱり、美乃には敵わない。
嬉しさと照れ臭さを隠すために、また彼女にキスをした。


加速していく、止まらない想い。
俺の心は、美乃に支配されていく。


苦しいような悲しいような、甘くて切ない恋。
まるで吸い込まれるように、どんどん落ちていく。


だけど……美乃は、あとどれくらい生きられるんだ……?


甘い時間を過ごしていても、ふと脳裏に不安が過ると、一瞬で心が恐怖に襲われてしまう。
その夜は、なかなか寝付けなかった――。