「あれっ⁉ その髪、どうしたの⁉」


改めて俺を見た美乃は、目を大きく見開いてポカンとした。
さっきの不安ですっかり忘れていたけれど、彼女の言葉で昨夜実行したことを思い出す。


「急にどうしたの? あっ……! もしかして……」


美乃は昨日のことを思い出したらしく、次の瞬間から肩を震わせて笑い出した。


「おい……」

「ごめん、ごめん! ぷっ……!」


恥ずかしがっている俺を見て、ますます笑いが止まらなくなったらしい。
彼女は肩を震わせながらもなんとか堪えようとしているみたいだけれど、お腹を抱えて笑い続けていた。


「はぁ〜、本当におかしい……。それで、その髪どうしたの?」

「わかってるくせに、いちいち訊くなよ……」


しばらくして、吉野がようやく落ち着きを取り戻した。
瞳に涙を浮かべたままの彼女に、大きなため息を返す。


昨夜、俺は風呂で髪を黒く染めた。
理由はもちろん、昨日の車内での出来事しかない。


美乃の父親が『茶髪=ヤンキー』だと認識しているんだと知って、ずっと気になっていた。
俺の髪は、昨日まで金髪に近い茶髪だったけれど、自分をヤンキーだと思ったことは今まで一度もない。


正直に言うと、茶髪だけでヤンキーなんていう考え方自体が、信じられない。
それでも、他人からの第一印象があまりよくないことは、ちゃんとわかっている。


人目を気にしたことはあまりないとは言え、相手が恋人の父親となると、いくら俺でも話は別だった。
だから、俺は高校に入学して以来ずっと染めていた髪を、思い切って黒に戻したんだ。


今日は、職場でも散々からかわれて来た。
自分でも変な感じだし、鏡に映る姿を見るとまるで自分じゃないみたいだ。


だけど、後悔はまったくしていない。