病院に戻る前に、美乃が信二に電話をかけると言い出した。


「今、いっちゃんも一緒なんだよ! お兄ちゃんも早く来てね!」


彼女が電話を切ったあと、俺たちは店を後にした。


「そういえば、いっちゃんがひとりでカフェなんて……。最初はあんなに嫌がっ……」


笑みを浮かべていた美乃が地面に吸い込まれるようにして倒れたのは、さっきよりも強くなっている陽射しに目を細めた直後だった。


「美乃ちゃんっ‼」


美乃に駆け寄る広瀬を前に、俺はただ呆然と立ち尽くすだけでそこから一歩も動けない。


「美乃ちゃん、しっかりして!」


なにが起こったんだ……? 今、美乃は笑ってたんだぞ……?


「染井っ‼ なにしてるのよ! 早く美乃ちゃんを車まで運んで!」


広瀬の声で我に返り、慌てて美乃を抱き上げる。
最初に出会った時よりも、明らかに美乃は軽かった。


車に向かいながら、広瀬は病院に電話をかけていた。
美乃を抱いた俺は後ろに、広瀬は運転席に乗り込むと、急いでエンジンをかけて病院に向かう。


気がつけば、自分の腕の中にいる美乃を強く抱きしめていた。


もし、今ここで美乃が……。


「縁起でもないこと考えてないでしょうね!?」


恐怖に心臓が跳ね上がった直後、広瀬がルームミラー越しに俺を睨んだ。


俺はなに考えてるんだよっ……! とにかく一刻も早く着いてくれ!


病院までは車で五分もかからないけれど、あまりにも長く感じて、不安に押し潰されてしまいそうだった。