「私も……一緒に行くね」

「ああ……。じゃあ、行くか」


玄関のドアを開けた瞬間、外の冷たい空気が心の中まで吹きつけた。
病院に着くまでの間、俺たちは一言も話さなかった。


なにを言っても嘘っぽくなりそうで気の利いた言葉も言えず、口を開けば言葉よりも先に涙が溢れてしまいそうだった。
病院に着いても、美乃は車から降りようとしなかった。


「美乃……? ほら、病室に行こう。みんなが待ってるから……」


仕方なく先に車から降り、助手席のドアを開けて優しく諭す。


「戻りたくない……。このまま……伊織とどこかに行きたい……」


彼女は首を横に振って、涙混じりの微かな声で呟いた。


同じことを考えているのに、その悲しい願いを叶えてあげることはできなくて。口を開けば、やっぱり涙が零れてしまいそうで。
俺はなにも言えず、その場で立ち尽くしてしまった。


「ごめんね、伊織……。こんなの冗談だよ? ほら、早く行こう」


程なくして涙を拭った美乃は、悲しげな笑みで車から降りた。


「そんな顔しないで? 困らせちゃって、ごめんね……」

「バカ、そんなこと気にするな。早く病室に行こう。きっと、シスコンの信二が待ちくたびれてるからな」


彼女が泣きそうな顔で必死に笑みを浮かべているから、俺も涙を堪えてなんとか笑って見せた。
俺たちは手を繋いで、病室に向かってゆっくりと歩いた。


病室に入ると、先に来ていた信二と広瀬が明るい笑顔で迎えてくれたけれど、美乃はふたりを見ても悲しそうに微笑んだだけで、ほとんど言葉を交わさなかった。
そのあとすぐに、彼女の両親も病院に来た。


だけど、みんながどんなに話し掛けても、美乃は力なく微笑むだけだった。
そして、精神的に参ったのか、その夜からまた彼女の容態が悪化してしまった――。