「美乃はすげぇよ! こいつを名前で呼んだ奴は、お前が初めてなんだからな!」

「でも、あだ名じゃない……」

「それでもすごいわよ」


不服そうな美乃に、信二の恋人の広瀬由加(ひろせゆか)がケラケラと笑った。
ふたりは高校時代から付き合っていて、広瀬も同じ高校だから俺も彼女を知っていた。


広瀬は活発的で気が強くて男勝りで、その辺の男よりもずっと男前だと思う。
彼女は毎日病院に通う信二と、よく一緒に来ていた。


美乃も広瀬を姉のように慕い、ふたりは姉妹みたいだった。
そんなふたりの関係を、信二は何度も自慢していた。


いつの間にかこの空気に馴染んでいた俺も、この三人と一緒に過ごすことが自然と増えていき、いつの間にか日課のように病院に足を運ぶようになっていた。


高校を卒業後に就職して建築現場で働いていて、美乃が俺の仕事のことを知った時、『いっちゃんにぴったりだね』なんて言っていた。
体を動かすことが好きな俺には、確かにこの力仕事が合っているとは思う。


年中、日焼けですっかり黒くなった肌は、夏にはさらに焼ける。

『じゃあ、夏には真っ黒に焼けこげちゃうね』

そのことを話すと、彼女はクスクスと笑っていた。